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ついに検出された重力波、それはわれわれの宇宙観をどう変えるのか? 人類が新たに手に入れたツール

現代ビジネス 9月20日(火)6時1分配信

 とてつもなく小さな波が宇宙観を変える! 

 地球から太陽までの距離で、水素原子1個分の伸び縮み――とても可能とは思えない微小な波の観測に、「予言」から100年で人類はついに成功した! その本質を理解するために知っておきたいことを重力波研究のリーダーがやさしく濃く解説する。

はじめに

 2016年2月11日の深夜、私は東京都内の、ある新聞社の本社ビルにいました。その日、アメリカのワシントンDCで、重力波望遠鏡プロジェクトLIGO(ライゴ)の記者発表が行われる予定になっており、その内容を確認してほしい、という依頼を受けていたのです。

 この記者発表は、科学史に残るような重要なものになるかもしれない、という期待がありました。

 しかし一方で、LIGOからの事前のアナウンスは、「アインシュタインが重力波の存在を発表してから100年を記念して、最近の活動の様子を報告する」といったもので、具体的な内容は明らかにされていませんでした。

 時差の関係で、発表の時間は日本では深夜になります。もし重要な内容だった場合は翌日の朝刊に記事を間に合わせなくてはならないため、新聞社内で待機して研究者の立場から確認してほしい、と頼まれていたのです。

 その「噂」は、前年の秋ごろから話題になっていました。アメリカの著名な理論物理学者が、インターネット上で「LIGOが重力波の初観測に成功したらしい」というつぶやきを流したのです。具体的な内容も加えられていたため、科学雑誌の電子版も何度か、そのことをとりあげていました。

 しかし、当のLIGOはというと、「解析結果がまとまったら報告する」という反応のみで、それ以上の情報はほとんど漏れてきません。個人的にLIGOの共同研究者に聞いてみても「それは秘密だ」とかわされます。

 不確かな情報が先行し、それが誤りだったとすると、研究分野や科学に対する信頼にかかわります。また、噂に影響されて当事者たちが落ち着いて解析できなくなるような状況になることは避けなければなりません。そのため重力波分野の多くの研究者は静観し、外部からの問い合わせに対してもLIGOと同様の返答に終始していました。

 私の周囲で動きが出てきたのは、2016年の2月に入って間もないころでした。LIGOが記者発表を行う予定であることが報じられ、それと前後して、報道関係者からの連絡を受けるようになりました。

 重力波とは何かという質問や、「噂」の真偽の問い合わせ、本当だったときのための予定稿の内容確認などでした。具体的な内容にまで触れた新聞社もあり、私だけでなく幅広い関係者に取材をしている様子がうかがえました。

 そうして迎えた、2月11日の夜――新聞社に到着した私は、科学部のフロアに入るやいなや、一枚の紙を見せられました。それは現地の記者発表会場にいた記者から送られてきたばかりの、プレス発表のコピーでした。

 事前にある程度のことは知っていましたが、その紙にさっと目を通したとき、やっと確信することができました。私はこう答えました。

 「大丈夫です。(予定稿を)進めてください」

 発表の内容は、LIGOが重力波の観測に間違いなく成功したことを示すものでした。

 これで、この日の私の役目はほぼ終了です。あとは記者発表の中継を見ながらかんたんな解説を加えるのみで、比較的のんびりと過ごしていました。

 周囲では、10人ほどの記者の方たちが、パソコンで記事を書いたり、その内容を相談・確認したりとせわしなく動きまわっています。自分が一般向けの講演などで苦労しながら説明してきた「重力波」とか「相対性理論」とかいう言葉を、人々が口々に話していることに不思議な気分を感じながら、仕事の邪魔をしないようにときどき、記事の表現に口をはさんだりしていました。

 事前に約束していた別の何社かの電話取材も受けつつ、新聞づくりの現場を疑似体験させてもらいました。帰宅したのは、午前4時前ころだったと思います。一息つきながら、時代が大きく変わったのだと、感慨にふけりました。

 この日、LIGOが発表したのは、1916年にアルベルト・アインシュタインが一般相対性理論の帰結のひとつとして存在を予言していた「重力波」の観測に初めて成功した、というものでした。

 太陽の36倍と29倍の質量をもつ、2つのブラックホールからなる連星が、地球から13億光年離れた場所で合体し、太陽の62倍の質量をもつ新たなブラックホールが生まれた様子を重力波で観測した、というのです。観測された信号は、非常に明確なものでした。

 この発表は研究者たちに驚きをもって迎えられただけでなく、翌朝には新聞各紙の一面トップを飾ることになりました。

 テレビでは科学史に残る快挙として報じられ、インターネットの検索語ランキングでも最上位になりました。科学雑誌では特集が組まれ、子供向け雑誌にも記事が掲載されました。

 世の中のほとんどの人がそれまで聞いたことすらなかったであろう「重力波」という単語が、一夜にしてメディアをにぎわせるキーワードになったのです。

 これまで重力波観測の研究者たちは、「宇宙を研究しているというけど、まだ信号の検出すら一度もしていないじゃないか」と言われながらも観測技術やデータ解析手法、一般相対性理論の数値計算などの研究を積み重ねていました。LIGOの発表は、その苦労が報われた瞬間でもありました。

 重力波の初観測は、きわめて大きな意義をもっています。それは、人類が宇宙を観測するための、まったく新しい手段を手に入れた、という意義です。

 従来の天文学には、主に光・電波・X線などの電磁波が用いられてきました。重力波は、電磁波にはない非常に強い透過力をもっています。その性質を生かすことで、ブラックホールの近傍や、宇宙誕生の瞬間までを観測することが期待できます。重力波は、人類に新しい宇宙観をもたらす可能性を秘めているのです。

 本書は、この重力波についてわかりやすく解説することを目的としています。さらに、重力・一般相対性理論・ブラックホール・高エネルギー天体現象や宇宙論といった、重力波と大きな関わりをもつ事柄にも話題を広げています。

 また、重力波観測の歴史的な意義も感じてもらいたいという考えから、自然や宇宙に対する人類の理解の変遷、重力波観測に至るまでの知識や技術の蓄積、そして今後の可能性という時代の流れをも意識して書きました。

 新しく幕をあけたばかりの「重力波天文学」の世界をお楽しみください。

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著者 安東正樹(あんどう・まさき)
1971年岡山県生まれ。京都大学理学部卒業。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。同大学助教、京都大学理学研究科物理学・宇宙物理学専攻特定准教授、国立天文台光赤外研究部重力波プロジェクト推進室・准教授などを経て、現在、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻・准教授。専門は重力波天文学・相対論実験。日本の重力波望遠鏡KAGRAの建設とそれによる観測、宇宙重力波望遠鏡DECIGOの推進に携わる。国内の重力波研究コミュニティJGWCの運営委員長、欧米のLIGOやVIRGOの外部諮問委員も務めるなど、重力波の観測研究をリードする。
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『重力波とはなにか』
「時空のさざなみ」が拓く新たな宇宙論

安東正樹=著

発行年月日: 2016/09/20
ページ数: 320
シリーズ通巻番号: B1983

定価:本体  1080円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)

安東 正樹

最終更新:9月20日(火)6時1分

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