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ローソンの子会社化は、三菱商事の自己救済策だ - 加谷珪一 経済ニュースの文脈を読む

ニューズウィーク日本版 9/20(火) 17:55配信

 三菱商事がコンビニ大手ローソンを子会社化する。ローソンは三菱商事が持つ物的・人的リソースをフル活用することで競争力を高めたいとしており、多くのメディアも同じようなトーンで報じている。しかし、三菱商事とローソンの連携は今に始まったことではなく、具体的にどのような効果があるのか今ひとつピンとこないという人も多いはずだ。

 今回の子会社化はローソンのテコ入れではなく、実は三菱商事の自己救済策である可能性が高い。三菱商事は資源価格の下落で初の赤字決算に転落しており、非資源分野の拡大が急務となっている。ローソン向けの販売を強化することで、業績の底上げを狙っているが、これは必ずしもローソンにとってメリットになるとは限らない。

ローソンはコンビニ業界で劣勢に立たされている

 三菱商事は9月16日、関連会社のローソンに対して公開買い付け(TOB)を実施し、子会社化すると発表した。現在、三菱商事はローソンの株式の33.4%を持つ筆頭株主だが、TOBの実施によって50%までシェアを拡大させる。実施時期は来年の1月頃で、およそ1440億円の資金を投じる予定だ。

 現在、コンビニ業界は大手3社の寡占化が急激に進んでいる。業界トップは約1万9000店を擁するセブン‐イレブンで、これを2位のローソン(約1万3000店)、3位のファミリーマート(約1万2000店)、4位のサークルKサンクス(約6300店)が追うという図式だった。

 ところが9月1日、ファミリーマートとサークルKサンクスを運営するユニーグループ・ホールディングスが経営統合し、新会社「ユニー・ファミリーマートホールディングス」を発足させた。店舗ブランドもファミリーマートへの統一が決まっている。新生ファミリーマートは一気に約1万8000店舗となりセブンに肉薄することになった。

 ローソンは業界3位に転落した状況であり、このまま何もしなければ、シェア争いで確実に劣勢に立たされる可能性が高くなってきた。ローソンは三菱商事の子会社になることで、三菱商事が持つ調達能力や人的リソースをフル活用できる。三菱商事の全面的なバックアップでローソンの経営力を強化するというのが両社の説明である。

 しかし、ローソンと三菱商事の関係は、ローソンの親会社だったダイエーが三菱商事に株式を譲渡した2001年から続いているものであり、今に始まった話ではない。しかも、ローソンが直面している課題は、よい商品を調達できないことではなく、業界トップのセブンに対抗できるだけの魅力的な商品ラインナップを揃えられない点にある。つまり仕入れではなく、販売力の方に課題があるという状況であり、これはローソン自身で解決するほかない。



三菱商事は巨額赤字で苦しい台所事情

 今回の子会社化は、ローソン側ではなく、むしろ三菱商事側の事情で実施されたと考えた方が自然である。三菱商事は2016年3月期の決算において、同社が現在の経営体制になってからは初めての赤字決算に転落している。原因は資源価格の低迷である。

 チリの銅事業において2700億円の減損が発生したほか、オーストラリアの鉄鉱石事業や天然ガス事業、アジアにおけるエネルギー関連事業などでも減損が発生し、大口損失額は4300億円にも達する。

 資産の減損は一時的なものだが、資源価格の低迷は今後も続くと見る専門家が多い。同社は、非資源部門の業績を拡大させなければ、これまでの業績を維持することが難しい状況である。ところが非資源部門における重点分野とされる生活産業グループ(ローソンもこの部門に含まれる)の業績もあまり芳しいものではない。売上高こそ前期比5%増となったが、部門利益は39%の減少にとどまっている。

 では、ローソンを子会社化し、ローソンの売上げと利益を三菱商事の連結決算に取り込むことで業績を拡大させるシナリオかというと、おそらくそうではないだろう。三菱商事が期待する純利益は2000億円から3000億円という水準だが、ローソンの純利益は300億円しかない。子会社化でかさ上げできる利益などたかが知れている。三菱商事が期待しているのは、やはり商流の拡大である。

 ローソンが仕入れる商品の中には三菱商事経由で入ってくるものも多い。もっとも、ローソンと三菱商事の間には、三菱商事の子会社である三菱食品という会社が入っており、ローソンは多くの商品を三菱食品から仕入れている(三菱食品は食品卸の菱食を中心に4社が合併して2011年に誕生した)。三菱食品の売上高は横ばいが続いており、持続的な成長を実現できていない。また、売上高の約3割をローソンなどのコンビニに依存していることから、ローソン向けの売上げが増えないと、三菱食品の業績も伸びない可能性が高い。

ローソンにメリットがあるとは限らない

 ローソンは、三菱グループ以外からも大量に商品を仕入れているが、商品の仕入れを変更する交渉は容易ではない。三菱商事の子会社になれば、仕入れ先に対しても言い訳が立つ。今回の子会社化の最大の狙いは、やはり三菱グループの商流拡大にあると考えた方が自然である。



 実は、一連の動きには前兆があった。ローソンは今年6月、玉塚元一社長が会長に昇格し、三菱商事出身の竹増貞信副社長が社長に就任する人事を発表している。玉塚氏は2014年に社長に就任したばかりなので、まだトップとしての成果を吟味する段階ではなかった。一方、竹増氏は2014年にローソンに来たばかりである。

 竹増氏は三菱商事の畜産部門や管理部門でキャリアを積んできた。畜産時代の上司は三菱商事現社長の垣内威彦氏であり、管理部門時代には、現会長の小林健氏に秘書として仕えていた。つまり、竹増氏は三菱商事の現経営陣に極めて近い人物であり、ローソンへの転籍や社長への昇格は、三菱商事経営陣の強い押しがあったことは間違いない。

 今回のローソン子会社化は三菱商事側から見ればメリットが大きいが、ローソン側にメリットがあるとは限らない。ローソンは店舗数でもセブンに負けているが、1日あたりの売上高でも大きく水をあけられている。セブンの店舗は1日で60万円以上を売り上げるが、ローソンは40万円台と低い。出店戦略の違いもあるが、やはり商品力に差があることは否めない。

 顧客にとって魅力的な商品を取り揃えるという観点からすると、仕入れ先が集中することは、場合によっては足かせとなる。ローソンが業界3位に転落した今、三菱商事とローソンは難しい舵取りを迫られることになるだろう。

加谷珪一

最終更新:9/20(火) 17:55

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