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ファンドマネジャーが考えた教育投資(藤野英人)

NIKKEI STYLE 9月21日(水)7時0分配信

 大学の奨学金を返済できない学生が増えているそうです。だから貸し付け型の奨学金制度を廃止すべきだという主張をよく聞きます。専門家や政治家がそうした主張をしていますが、私は違和感を持ちます。今回のコラムでは株式運用の世界からはちょっと離れ、投資は投資でも、明治大学で16年間教壇に立つファンドマネジャーとして考えた「教育投資」について、私見を述べたいと思います。
 奨学金を利用して大学を卒業したけれども十分な稼ぎがなく返済できないという事例がよくメディアで取り上げられます。奨学金のせいでその人は不幸せになったというような話まで出ています。
 しかし、もしその人が奨学金を使わずに大学に行かなかったら幸せになったのでしょうか。大学を卒業しても十分に稼げなかったとしたら、本当は在学時にもっと勉強すべきだったのかもしれません。
 私自身、奨学金制度があったおかげで大学を卒業することができました。もし奨学金がなかったら、よりアルバイトをする必要が出てきて、学業に集中できる時間が減ったでしょう。
 私は明治大学の商学部で教鞭を執っていますが、以前は夜間のクラスでも教えていて、社会人の受講生も多くいました。彼らは昼間外で稼いでいて、親に頼らず自分で学費を支払い、授業に出ていました。高校を卒業して親の経済的事情から自分で学費も生活費も稼ぎながら学校に通っている学生は少なからずいます。そのような学生は必死で学んでいました。コスト意識があるからです。一方、親にお金を出してもらっている学生は授業中の態度やテストの成績などを見ても熱意が足りなかったように感じました。コスト意識がないからです。
 一部で大学生まで国が無償で面倒を見るというアイデアもありますが、私は強く反対します。親の負担も減るし一見良いように感じますが、コスト意識がますます希薄化して、学生が勉強をしなくなるでしょう。
 結論からいいますと、親の「教育投資」は高校までとして、大学以降は子供が自らの意志でお金を借りて「自己投資」するというのが私の持論です。
 それを実現するための2つのアイデアが私にはあります。同時に実行すると非常に効果があるのではないかと考えています。
 1つ目は授業料を現行の半分にし、半分を国が補助をするという折半のモデルです。それだけでも親の負担は大きく減ります。
 2つ目は金融機関が低利の奨学金を貸すアイデアです。具体的には、金融機関の教育ローンが貸し倒れを起こした場合は国が100%保証する「国家教育支援保証制度」を創設します。金融機関が学生に教育ローンを非常に低利で貸し付けし、もし将来貸し倒れを起こした場合でも国が保証するというものです。公的機関でなく、金融機関を活用するのは民業活性化にもなるからです。
 その場合、日本の親は教育に対する大きな意識改革が必要になります。前述したように、子供の教育は高校までお金の面倒をみるが、大学生になったら本人の意志で原則本人が支払うことを常識化することです。
 これには複数のメリットがあります。
 まず子供からすると、やる気さえあれば経済的な問題で大学に行くのをあきらめなくてよくなるということです。家庭の事情にかかわりなく、高い教育を受ける実質的な権利をすべての人が手にすることができます。
 さらに多くの学生が借金をして授業を受けると、授業に対するコスト意識が高くなるでしょう。大学の休講を喜ばなくなり、むしろ怒るようになるでしょう。先生、ちゃんと授業をしてくださいと。そしてよりわかりやすい授業をしてほしいという要望が強くなるに違いありません。何より学生の授業態度がまじめになれば、それは必ず国力の向上という形で反映されます。
 金融機関は万が一貸し倒れになっても国の保証が付くので、金利を取れればおおむねペイします。将来の給与振込口座を確保するきっかけにもなるので、この教育ローンに力を入れるでしょう。金融機関は貸出先がなくて困っているので、喜んで貸すのではないでしょうか。
 国からすると、期初の資金提供がなく、かつ資金回収業務は金融機関にお願いできるので、ほとんどコストがかかりません。もし国営の奨学金制度なら、年間200万人程度の大学生が平均50万円の借り入れをすると1兆円程度の支出が必要となります。しかしそれは金融機関が貸し付けすれば国は1円も支出をしなくてすみます。仮に貸し倒れになっても金融機関はしっかりと督促をするだろうから(督促の努力をしない貸し倒れを国は認めないはず)、回収力は国営の奨学金制度よりも高くなるでしょう。1%分の貸し倒れが毎年発生したとしても、国は100億円を保証するだけで済むので安上がりです。
 親からすると、教育費の負担が高校生までなら、経済的にも時間的にも精神的にもずいぶんとゆとりができます。そうなると家をリフォームしたり、夫婦で海外旅行に行ったりすることも増えて、マクロ経済には大きなプラスです。子供のためにあきらめていたことができるわけです。さらに若い夫婦は教育費負担が減ることがわかれば、子供を多く持とうとするでしょう。
 どうでしょう、いいアイデアだと思いませんか。
プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が交代で執筆します。
藤野 英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。96年ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。「JF中小型オープン」は1年間の上昇率219%を記録。驚異的なパフォーマンスを上げ、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた。2000年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社。03年レオス・キャピタルワークス創業。CIOに就任。09年取締役、15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。著書に「投資家が『お金』よりも大切にしていること」(星海社)など多数。

最終更新:9月21日(水)7時0分

NIKKEI STYLE

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