ここから本文です

SF顔負けハイテク警備 東京五輪に向け主役の座へ

NIKKEI STYLE 9月21日(水)7時0分配信

 警備会社と聞けば筋骨隆々な警備員の印象が強いかもしれない。しかしそれはひとつの側面でしかない。犯罪につながりかねない感情の高ぶりをIT(情報技術)で見透かしたり、スナイパーが潜めそうな地点を見破ったり――。SF小説顔負けのハイテク警備が主役の座に躍り出ようとしている。2020年の東京五輪・パラリンピックの警備でも活躍しそうだ。
 東京都港区にある綜合警備保障(ALSOK)の本社。ロビーにある警備ロボットにちょっとした仕掛けが加わった。同社が運用を始めた「感情可視化システム」だ。
 前に立った人の姿を内蔵カメラが捉え、近くのパソコンの画面に映す。画像解析技術で画素単位で顔や体の細かい振動部分を抽出する。
 テロ行為や万引きなど犯罪に及ぼうとする人は、緊張から興奮状態となり、無意識に頭部や眼球などに微細な震えや揺れが生じるという。一定の感情レベルにあると推定すると画面で知らせる。
 画面をのぞいてみると、きょろきょろするなど動きが激しい部分は赤色で表示される。もちろん、これだけで怪しいと判定するわけではない。揺れ幅や揺れる周期を細かくみて、攻撃性や緊張度、ストレスなど約50の観点から感情を分析する。
 ALSOKの執行役員で商品サービス企画部長の桑原英治氏は「警備が比較的手薄になりがちな飲食店などのソフトターゲットでもテロの脅威が高まっている。犯罪の予兆を検知し、未然に防ぐのが警備の課題だ」と強調する。
 実力はいかほどなのか。ALSOKは警備を担当した5月の伊勢志摩サミットでこのシステムを運用した。手荷物検査場の上方にカメラを設置した。のべ1万人以上が通り、数百人が引っかかった。割合にして6~7%だ。
 この人たちをボディースキャナーで不審物を持っていないか重点的に検査した。幸いにも不審物を隠し持っているような例はなく、急いで焦っていたり、寝不足でいらいらしていたりした人などだった。ALSOKの複数の社員も容赦なく捕捉された。
 警備員が経験と直感で不審者を見つけることもある。ただ、属人的で質がばらつくうえ、大規模イベントでは目が行き届かない。ITでふるい分ければ高精度で円滑な警備ができる。現在、都内の企業の受付などで導入に向けた実験を重ねている。
 ALSOKの今回のシステムはロシア企業が開発した技術がベースになっている。商品サービス企画課の関谷俊一課長代理は「感情の中身まで細かく判別し精度を高めたい」と語る。
 ALSOKは人工知能(AI)を取り入れた純国産の感情可視化システムの開発も目指している。AIは不審者の検出作業を繰り返して学び、検出精度が上がる。しゃがみ込むなどの姿勢やうろつきといった動きも考慮する。
 港湾や空港での不審者あぶり出しのほか鉄道駅のホームや踏切での飛び込みや酩酊(めいてい)による転落防止にも活用できるとみている。
 不審者検知技術はNECなど電機大手も開発している。ただ検知後にどう対処するかの運用が警備の要諦だ。ALSOKの桑原執行役員は「全国に拠点を置き、実動部隊の警備員と経験を持つ警備会社が強みを発揮できる」と自信を示す。
 セコムも動く。大規模イベント会場などを対象に、警備の死角や危険箇所を瞬時に検出するシステムを月内に発売する。
 事前に上空と地上の様々な角度から会場を撮影した写真から3D(3次元)立体地図を作る。地図を画面上で回転させたり視点を切り替えたりして、警備対象があらゆる角度からどう見えるか確認できる。監視カメラの撮影範囲も一目瞭然だ。
 狙撃に使われそうなビルの屋上など重点的に警備すべき箇所も示す。狙撃しやすい所は赤色だ。本番までに新たに完成する建物は地図上に仮想的に建てる。警備員や監視カメラをどこに配置すべきか、何度も人が現地を確認して検討する手間が減る。
 セコムの企画部の長谷川精也担当部長は「限られた人員を効率的に配置できる」と胸を張る。伊勢志摩サミットでは三重県警に提供し好評だった。優れものだけに悪用されれば危険だ。民間に提供する際はイベント開催実績などを精査する。
 業界の2強である両社が見据えるのは4年後の東京五輪・パラリンピックだ。両社はセキュリティーサービスの提供や警備計画の立案をする予定だ。組織委員会は総勢5万人の警備体制を組み、そのうち1万4千人は民間警備員となる。
 ただ、警備員は不足気味だ。仕事を探す人1人に対し企業から何件の求人があるか示す有効求人倍率は、警備業を含む「保安」が6月に5.41倍。全職業平均の1.14倍を大きく上回る。
 五輪に向けたビルの建設ラッシュや工場警備の外注化の動きなどが影響しているようだ。労働力人口の減少もあり、人手だけに頼るのはもはや限界だ。
 セコムは飛行船やドローン(小型無人機)を使い上空から警備する体制も整えた。五輪は先端警備を世界に披露する場となる。とはいえALSOKの桑原執行役員は「IT機器にも必ず盲点がある。人をおろそかにはできない」と強調する。
 五輪のような大規模行事は警備当局は警察や海上保安庁などが混在する。警備員も自社だけでなく協力会社の警備員との協力が欠かせない。
 ALSOKは今春、五輪をにらんだ即戦力の育成強化に向け、千葉県印西市の警備員研修所を東京都稲城市に移した。従来の約1.5倍の最大200人が宿泊可能な大型施設で非常時の駆けつけなど実践的な訓練ができる。警備員の能力向上とITの進化は車の両輪だ。
(大林広樹)
[日経産業新聞2016年8月22日付]

最終更新:9月21日(水)7時0分

NIKKEI STYLE

記事提供社からのご案内(外部サイト)

ライフスタイルに知的な刺激を。
生活情報から仕事、家計管理まで幅広く掲載
トレンド情報や役立つノウハウも提供します
幅広い読者の知的関心にこたえます。