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「母親の介護中。何もしないのに口だけ出す兄に困っています」回答「あなたのご不満は、実はご自身へのイラだちからくるのかもしれません」 第74回<かけこみ人生相談>

幻冬舎plus 9月21日(水)6時0分配信

岸見 一郎

 今回の回答は、岸見一郎さんです。

◎相談 Vol.74(sora・会社員・55歳・女性・神奈川県)

 80代の親の隣に住み、私と夫で全面的にフォローをしています。1人兄がいますが、親と同居後うまくいかず、一家で出ていきました。
 しかし、親の介護などにいちいち口を挟んできます。「ボケるから本人に家事をやらせろ」などです。
 母は、腕を骨折し、やっとギブスが取れた矢先。まだリハビリ中なのにです。
 お金も手も出さない兄に口だけ挟まれるのは納得いきません。私の夫にも申し訳ない気持ちになります。 兄は自分が親を看ることができないため、おもしろくないような感じです。長男風を吹かしている兄に対してどうしたら良いか、ご助言をお願いいたします。

◎お答えします。(今回の回答者 岸見一郎)

 お母様の介護は必ずしなければならないとしたら、それを動かせない現実と受け入れ、そこから考えていくしかありません。 
 お兄様とお母様との過去のいきさつは今問題にしても始まりません。お兄様とお母様の関係もあなたにはどうすることもできません。  

 たしかに口を挟まれたら、「そんなに文句があるのならのしをつけて親をお兄様に送りつけやる」とでもいいたくなるかもしれませんが(これは言い過ぎですね)、お母様の介護をするのであれば、どんなものであれ、外から聞こえてくる雑音に耳を傾けてはいけません。

 お兄様が親を看ることができないので「おもしろくない」というのは少し違うかもしれません。
 子どもが親にお金を借りたい時に横柄な言い方をすることがあります。お金を借りるのであれば、親であっても丁寧に言葉を尽くしてお願いするべきですが、親にお金を借りることにどこか後ろめたい思いがあるので、子どもは「金をくれ」というような言い方をするのです。

 お金を親に借りるべきではない。これが子どもにとって理想です。ところが現実は、お金を借りなければならない。この理想と現実とのギャップを「劣等感」といいます。
 この劣等感は横柄な態度を取らなくても、ただ「お金を貸してくれない?」といえば解消されるはずなのですが、自尊心が強い子どもはそうすることができないのです。

 お兄様の場合は、親を自分が看るべきだ(これが理想です)と思っているのに、現実には、自分では親の介護をすることができません。この理想と現実とのギャップを何とかしないといけないのですが、どうすることもできないことが残念なので、「長男風」をふかしておられるように見えます。
 本当は、「母のことをよろしく頼む」といえばいいのですけどね。

 言い方はどうかと思いますが、お兄様が少なくともお母様のことに無関心でないことだけは確かですから、もしも今後お兄様と仲良くする、少なくとも、無用なエネルギーを使いたくないのでしたら、お兄様の言動に善意を見るというのは選択肢の一つにはなります。  

 ご自分でもお母様を介護することに納得できていないのではありませんか。
 介護に専念できない自分を受けいられず、そのことの理由をお兄様のお母様への態度に求めておられるように見えます。  
 今あなたがお母様の介護のことだけに注力して取り組み、お母様が気持ちよく過ごされることにあなたが喜びを感じられれば、お兄様のことはあまり気にならなくなるでしょう。


■岸見 一郎
1956年、京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋古代哲学史専攻)。現在、京都聖カタリナ高等学校看護専攻科(心理学)非常勤講師。
日本アドラー心理学会認定カウンセラー、日本アドラー心理学会顧問。著書に『アドラー心理学入門』(KKベストセラーズ)、『人生を変える勇気 踏み出せない時のアドラー心理学』(中央公論新社)、『アドラーに学ぶ よく生きるために働くということ』(KKベストセラーズ)『老いた親を愛せますか? それでも介護はやってくる』(幻冬舎)訳書にプラトン『ティマイオス/クリティアス』(白澤社)などがある。共著『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)はベストセラーに。

最終更新:9月21日(水)6時0分

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