ここから本文です

豊洲の土壌を汚染した東京ガスの社会的責任は

オルタナ 9/21(水) 11:59配信

築地市場の豊洲移転を巡っては、土壌汚染対策として「あるはずだった盛り土」が無かったことで、紛糾の度合いが一気に高まった。メディアは石原慎太郎・元都知事や元市場長らに矛先を向け始めたが、そもそも土壌を汚染した東京ガスの責任を問うメディアは意外に少ない。(オルタナ編集長・森 摂)

同社は、汚染対策工事費用100億円と追加の78億円を東京都に支払い、これで決着を付けたようだ。しかし、こうした「経済的責任」以前の「法的責任」、そして「社会的責任」に対して同社はどう向き合ってきたのだろうか。

そう考えていた最中に、一般社団法人環境金融研究機構(RIEF)の藤井良広・代表理事(元日本経済新聞編集委員、元上智大学大学院教授)が9月18日、「東京都・豊洲市場 土壌汚染問題。汚染地を売却した東京ガスの責任はどうなのか?」と題した記事をRIEFのサイトにアップした。

藤井氏は次のように記事をまとめた。「長年にわたって土壌汚染を積み重ねてきたのが東ガスであることは否定できない事実である。少なくとも企業の社会的責任(CSR)の観点からの対応責任は今も、東ガスにもあるとみるべきだろう。しかし、東ガス自体は、今回の問題再燃に対して、臆病なほど発言を控えているようにみえる」

確かにメディアで連日、豊洲の問題が取り上げられているにも関わらず、同社が改めて土壌汚染問題で説明したという話は聞かない。都庁関係者や市場関係者が大混乱になる中で、汚染源の発生者としての社会的責任は改めて問われないのだろうか。

藤井氏は電話で「買ったのが民間企業なら必ず訴訟になっていた案件。東京ガスは汚染対策費を負担したとしても、それでも説明責任はある。CSRこそ本業の価値に影響する。さまざまなリスクがちらついている中で、株価に影響する可能性もある」とのコメントを寄せてくれた。

東京ガス豊洲工場は1956年、当時の最新鋭の技術を集めて完成した(1976年まで20年間操業)。当時の都市ガスは、現在の天然ガス(LNG)と違い、石炭を蒸し焼き(乾留)にして作られた。石炭を炉に投入し高温で乾留すると、ガスが20-24%取れる。その過程でコールタールやベンゾールなどが発生し、最後にコークスが残る。コークスは製鉄や蒸気機関車の燃料になった。

このガス製造の副産物が、いま問題になっているベンゼン、シアン、鉛、ヒ素、六価クロム、水銀など。豊洲工場の跡地からはベンゼンが環境基準の43000倍、シアン化合物も同860倍も検出されている。

これらの苛烈な土壌汚染について、東京ガスはその法的責任に向き合ってきたのだろうか。

まず公害対策基本法(1967年)と、その後を継いだ環境基本法(1993年)。さらには土壌汚染防止法、水質汚濁防止法などの法令もある。これらについてオルタナ編集部は、環境省の担当者に今回の豊洲の土壌汚染についての見解を聞いた。取材結果はこちら( http://www.alterna.co.jp/18895 )。

では、同社の社会的責任はどう果たされるべきなのだろうか。近年のCSRでは、直接的に法令(ハードロー)に違反しないと思われる事例(ソフトローの範囲)においても、ステークホルダーとの対話を通じて説明責任を果たすべきという考え方が主流だ。

同社のステークホルダーの第一は住民だろう。住民は工場の土壌に今も残る苛烈な汚染の影響を直接的・間接的に受ける可能性があるとともに、ガスの直接的なユーザー(顧客)でもある。その次に、従業員とその家族だ。すでに40年前に操業を停止したものの、これだけの汚染を出し続けてきた工場で働いた人たちに健康被害はなかったのだろうか。

株主への説明責任も当然ある。コーポレート・ガバナンス・コードの「基本原則3」には「上場会社は(中略)リスクやガバナンスに係る情報などの非財務情報について、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである」との記述がある。

何よりISO26000は、企業(組織)の社会的責任を「組織の決定および活動が社会および環境に及ぼす影響に対して、透明かつ倫理的な行動を通じて組織が担う責任」と定義している。そこには「健康及び社会の繁栄を含む持続可能な発展への貢献」が含まれる。今回の豊洲の土壌汚染は、まさに「組織の決定及び活動が社会および環境に及ぼす影響」に該当する事例であろう。

その上で、オルタナ編集部は、東京ガス広報部に下記の三つの質問をした。

1)なぜ豊洲工場でのガス製造過程において土壌を汚染してしまったのか。土壌汚染への対策は取っていなかったのか。

2)2007年3月、貴社が豊洲工場敷地の土壌対策を完了した後、なぜ東京都がさらなる土壌汚染対策をしなければならなかったのか。

3)豊洲工場の土壌汚染について、社会的責任に基づき、ステークホルダー(顧客である都民、従業員、株主など)への説明はどのようにしてきたか。

(東京ガス広報部の回答はこちら( http://www.alterna.co.jp/18896 )を参照ください)。

ところで、東京ガスのホームページには、これまでの土壌汚染の事例と経過の説明があった。そこには豊洲だけではなく、実に14カ所(※)の同社所有地で、「部分的に環境基準を上回る汚染物質(主にシアン、ベンゼン、砒素)が検出された」ことを明らかにしている。

(※大森用地、千住用地、相模原用地、日立用地、宇都宮用地、平塚用地、甲府支社用地、甲府工場用地、鶴見事業所、末広工場跡地、横浜工場跡地、平沼用地、江東区の深川用地、熊谷用地)

同社は土壌汚染について「操業開始の時期が古いため、正確に原因を特定することは困難ですが、装置の損傷等による漏洩があり、土壌に浸透したものと推定されます」と回答した。

だが、これほど多くのガス製造工場で、一様にシアンやベンゼンが検出されたということは「石炭の乾留技術は土壌汚染を前提に成り立っていた」と結論付けざるを得ない。この点については、引き続き東京ガスに回答を求める予定だ。

最終更新:9/21(水) 12:06

オルタナ

記事提供社からのご案内(外部サイト)

「持続不可能」な漁業との決別
なぜ待てない? 資源の回復に必要な「我慢」
違法漁業や人権侵害、高まる企業リスク
ビジネスで追及する「真の美しさ」とは