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【行動経済学(3)】入館後につまらないと分かった映画は最後まで見るべきか? --- 馬場 正博

アゴラ 9月21日(水)16時27分配信

理解しても行動には移しにくい埋没費用(サンクコスト)

埋没コストあるいは埋没費用とは、経済学的には事業に遣った資金の中で事業を止めても回収的できない費用を言います。例えば研究開発で10億円使った結果、成果を出すのが意外と困難だと判った場合、研究継続の判断に必要なのは、これから結果を出すのに後いくらかかるかで、過去の投資の10億円が5億円でも20億円でも関係ありません。埋没コストつまり研究を止めても回収できる金ではないからです。

ところが、実際には中止か継続かの判断には将来かかる金額だけでなく、過去いくら使ったかが大きく影響します。まだ、ほとんど投資をしていないプロジェクトなら簡単に諦めることができても、既に多額の費用を遣ってしまうと止めることは大きな抵抗を伴うのが普通です。 もちろん、プロジェクトの失敗をあっさり認めて責任問題になることを恐れる気持ちが決断の邪魔をすることはあります。また、会計上もそれまでは投資勘定で資産として積み上げたものを一挙に損金とすることで経営責任が表面化するのを避けたいこともあるでしょう。しかし、責任問題や会計上の取り扱いだけが、決断の際、未来を見ずに埋没コストという過去にこだわる理由ではありません。

身近な例では、映画館に入って映画がひどくつまらないことが判っても「せっかく入場料を払ったのだから」と思って見続ける人は多いでしょう。例え、全く無駄な2時間を過ごすことが判っていてもです。日本が日中戦争から日米戦争へと進んだのも、それまで中国での権益を築くために亡くなっていった「英霊に申し訳がない」ということが大きな理由でした。結果はそれまでの戦死者とは比較にならないほど多数の兵士が死に、膨大な数の民間人が犠牲になりました。過去にこだわった決断が亡国にまでつながってしまったのです。

過去に費やした投資が大きければ大きい程執着心も大きくなる

埋没コストの概念は、経営学や経済学を学んだ人なら誰でも知っているようなものです。ところが、実際の経営現場でも事業撤退の大きな障害は、雇用維持が困難になることと並んで、過去の投資を無駄にはできないという経営陣の執着です。長年の研究投資、莫大な宣伝費、工場建設までの多大な苦労、そういったものが大きければ大きいほど未来を見ずに過去に縛られてしまうのです。

埋没コストに縛られる心理学的背景を研究したものの中で有名なものに、1968年のノックスとインクスターという二人の社会心理学者の行った研究があります。競馬で賭けをする人を二つのグループに分け、馬の勝ちそうな確率を7段階で評価してもらったところ、馬券を購入する直前のグループの平均レートが約3.5(つまり5分5分)であったのに、購入したグループの平均は4.8になっていたのです。

買った馬券は埋没コストそのものです。それが馬が勝つかどうかという将来の予測を歪めてしまうわけです。これは当ブログの「あのブドウはすっぱいさ」で紹介した、得られないものの価値を低く評価する心理の裏側と言えます。人には自分の持っているものを高く、得られないものを低く評価したいという気持ちがあるのです。

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最終更新:9月21日(水)16時27分

アゴラ

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