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クイーンはなぜ定番ネタであり続ける? 今なお親しまれる“仮装”感覚を考察

リアルサウンド 9月21日(水)18時1分配信

 BABYMETALの「ヘドバンギャー!!」でSU-METALが手にするマイクは、スタンドの上半分だけが装着され、脚部がないものだ。この独特なマイクの使いかたは、クイーンの故フレディ・マーキュリーに由来するのだろう。「ヘドバンギャー!!」は曲名通り、ヘッドバンギングをモチーフにしている。かつて、ロックを題材にしたコメディ映画『ウェインズ・ワールド』(1992年)では、車のなかで若者たちがクイーンの代表曲「ボヘミアン・ラプソディ」を合唱し、後半のハード・ロック・パートになるといっせいにヘドバンを始める場面が笑いを誘った。ヘドバンとフレディの関連で思い当たるのは、この場面だ。

 SU-METAL以前にも、フレディ型のマイクを使った女性ボーカリストはいる。宇多田ヒカルだ。彼女はかつて『BOHEMIAN SUMMER 2000』と題したツアーでフレディのソロ曲「リヴィング・オン・マイ・オウン」をカバーした際、あの形のマイクを使った。本人が1991年11月24日に死亡した後も、フレディおよびクイーンは洋楽の定番ネタであり続けた。最近はまた、クイーン関連の話題を多く耳にするようになっている。

 近年、映画の爆音上映が頻繁に行われているなかで、フレディの生前のライブ映像もよく流されている。初期で「ボヘミアン・ラプソディ」発表直後の『ボヘミアの夜』(1975年収録)は今年4月11日に全国5カ所のZeppで同時上映された(9月12日にはZeppダイバーシティ東京で特別アンコール上映会もあった)。7月から8月にかけてロック関連映像多数を集めた『シネ・ロック・フェスティバル2016』が丸の内ピカデリーで催されたが、「爆音DAY」では、「愛という名の欲望」と「地獄へ道づれ」が全米1位になった時期の『クイーン ロック・モントリオール1981』もラインナップに入っていた。

 9月2日にはZeppダイバーシティ東京で、フレディ生前最後のツアーからハンガリー公演を収めた『ハンガリアン・ラプソディ・ライヴ・イン・ブタペスト’86』が上映された。このイベントでは、国内のクイーン・トリビュート・バンドの選抜メンバーが演奏を披露したうえ、スペシャル・ゲストのデーモン閣下が「ボヘミアン・ラプソディ」を堂々と歌いあげた。その閣下から「すべりー・まくりー」に改名したほうがいいとからかわれていたのは、イベント司会をしていたフレディのコスプレ芸人スベリー・マーキュリーである。

 このイベントは、今年9月5日がフレディ生誕70周年にあたっており、2日に彼のソロ・シングル集『神々の遣い フレディ・マーキュリー・シングルズ』がリリースされたことを記念するものでもあった。また、アダム・ランバートをボーカルに起用した現在のクイーンは、9月21日から3日間、バンドが1975年に初来日公演を行った場所である武道館で31年ぶりに演奏するのだ。

 一方、DCコミックスの実写化映画『スーサイド・スクワッド』の本編や予告編では「ボヘミアン・ラプソディ」が使われ、日本のテレビで流れたCMでもよく耳にした。サントラには、パニック!アット・ザ・ディスコによる同曲のカバーが収録されており、彼らが今夏のサマーソニックで来日した際にも、見事な演奏を披露していた。そのサマソニにはザ・ストラッツというイギリスの新人バンドも出演したが、ルーク・スピラーのボーカルは若い頃のフレディを思い出させるもの。観客とのコール&レスポンスのやりかたにも、クイーンからの影響がうかがえた。

 また、オランダのロビー・ヴァレンタインは今年、日本独自企画で『RV』を発表したが、2枚組のうち1枚はクイーンのカバー集だった。2017年1月に来日する彼の20日の渋谷duo MUSIC EXCHANGE公演は、クイーンへのトリビュート・ナイトになる。

 内外でクイーンは未だに親しまれているわけだが、生誕70周年のフレディの誕生日も31年ぶりの武道館公演もたまたま9月だった。このため今年は、早くも10月31日のハロウィンに向けたキャンペーンや商戦が世間で展開されるなかで、クイーンの話題を目にすることが多くなった。考えてみれば、コミックのキャラクターである奇人変人が暴れ回る『スーサイド・スクワッド』や、人間でいえば白塗りと呼ばれる顔が悪魔としての素顔であるデーモン閣下が関連づけられるのも当然だと思えるような、ハロウィン的な「仮装」のノリが、クイーンにはもともとある。

 派手な衣裳とメイクのグラム・ロック的な装いでデビューしたこのバンドは、日本でいえば後のヴィジュアル系的な要素を含んでいた。後年のミュージック・ビデオでも、メンバー全員が女装し、フレディが伝説のバレエ・ダンサーであるニジンスキーのコスチュームを着けてみせた「ブレイク・フリー(自由への旅立ち)」を筆頭に、なにかに扮した内容が散見される。

 逆に「ザ・ミラクル」のビデオでは、クイーンのコスプレをした子ども4人とバンドが共演した。モノマネ番組での御本人登場みたいな趣向だ。現在、フレディのコスプレをした人をフロントマンにしたクイーンのトリビュート・バンドは、各国に存在するが、「ザ・ミラクル」の演出を踏まえると、本人たちがそうなるように仕向けたとも感じられる。

 クイーンをめぐる「仮装」感覚の楽しさは、ヴィジュアルだけではない。ハード・ロックから出発した彼らは、やがてポップス、ゴスペル調、ディスコ、ソウルなど多彩な音楽を提供し始めた。いってみれば、曲調をあれこれ着替えたのであり、音楽も「仮装」的だったのだ。

 多彩さを可能にしたのは、メンバー4人がそれぞれの嗜好で曲を作ったことだ。フレディが圧倒的に目立っていたが、彼のワンマンバンドではなかった。オペラ風の展開がある「ボヘミアン・ラプソディ」やオールディーズなロックンロールの「愛という名の欲望」はフレディ作だが、スポーツ関連で使われ続ける「ウィ・ウィル・ロック・ユー」はギターのブライアン・メイ、ファンキーな「地獄へ道づれ」は今ではバンドを離脱したベースのジョン・ディーコン、レディー・ガガの名の由来でありエレポップの「RADIO GAGA」はドラムのロジャー・テイラーの作曲だ。各人の趣味に差がある多頭のバンドだったから、色とりどりの曲を生んで着替えることができた。

 フレディ亡き後もブライアンとロジャーでクイーンを名乗り、外部からボーカリストを招いて往年の曲を演奏していることに賛否はある。だが、2人はフレディに一方的に依存していたのではなく、クイーンの音楽の作り手でもあったのだから、曲を活かし続けたいと欲するのは当然だろう。

 そして、今のクイーンでボーカルを務めるアダム・ランバートは、実に適役なのだ。艶のある声を持つ彼は、オーディション番組『アメリカン・アイドル』の出身。そこに出場した段階で「ボヘミアン・ラプソディ」を歌っていた。また、若い頃、ミュージカルにかかわった経験もあるし、芝居っ気のあるステージ・パフォーマンスは、このバンドにふさわしい。クイーン+アダム・ランバートは2014年のサマソニに出演したが、単独公演でフルサイズのライブが日本で見られるのは、今回の武道館が初めて。期待は大きい。

 こうしてクイーンの曲は、様々な形で歌いつがれていく……。

円堂都司昭

最終更新:9月21日(水)18時1分

リアルサウンド

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