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ヒラリーの健康問題より重要!? ビル・クリントンとトランプ夫人のクッキーレシピ対決が当落を左右する

HARBOR BUSINESS Online 9/21(水) 16:20配信

◆大統領選を占う「妻たちの戦い」

 ヒラリー・クリントンが肺炎で倒れて以来、彼女の健康問題が大統領選の結果を左右するファクターとして注目を集めています。その一方で、米国大統領選の行方を占う、興味深いイベントの結果が10月初旬に発表されるのをご存じでしょうか? 主役となるのは大統領候補ではなく、その伴侶たち。米国の生活雑誌『ファミリー・サークル(Family Circle)』が主催する「ファースト・レディのクッキー・コンテスト」です。

 クッキー・コンテストでは、大統領候補の伴侶たちが、それぞれ自家製クッキーのレシピを『ファミリー・サークル』誌面に掲載します。勝敗は読者からの人気投票によって決まり、過去6回の大統領選の内、5回まではコンテスト勝者の夫が大統領に当選しています。その高い的中率ゆえに、「妻たちによる前哨戦」には、常に高い関心が寄せられてきました。

 この一風変わった伝統の発端は、24年前に遡ります。無名のアーカンソー州知事だったビル・クリントンが、現職のジョージ・H・W・ブッシュ大統領に挑んだ1992年度の大統領選から、クッキー・コンテストは始まりました。きっかけは、ビル・クリントンの妻として注目を集めていたヒラリーの「ある失言」でした。

◆女性の逆鱗に触れたヒラリー

 1992年、大統領候補のビル・クリントンは「州知事の立場を利用して、妻・ヒラリーの弁護士事務所に、不当に仕事を斡旋していたのでは」との嫌疑をかけられました。連日の非難に苛立ったヒラリーは、報道陣の前で「私にも専業主婦になってクッキーを焼いたり、お茶をする選択肢がありましたよ」と、うっかり口をすべらせたのです。

 ヒラリーは続けて「でもプロフェッショナルとして公の場で働くことで、女性にもフルタイムで働いたり、専業主婦になったり、家庭と仕事を両立させるなど、様々な選択肢があると示したかったのです」と語りましたが、時すでに遅し。「クッキー発言」がマスコミに取り上げられると、ヒラリーは「主婦の仕事を馬鹿にしている」と、女性から猛烈なバッシングを受ける羽目に陥りました。

◆ヒラリーとバーバラのチョコチップ・クッキー

 ヒラリーの「クッキー騒動」に目を付けたのが、当時の『ファミリー・サークル』誌の編集長、スーザン・アンガローでした。この機会に、2人のファースト・レディ候補:バーバラ・ブッシュとヒラリーに、「それぞれ得意のクッキーのレシピを公開して、読者たちに品評させたらどうか」と申し入れたのです。

 バーバラとヒラリーは、そろってこの提案を受け入れました。6人の子どもを育て、良妻賢母のイメージが定着していたバーバラにはもちろん、キャリア志向が批判を招きがちだったヒラリーにとっても、女性らしさや家庭的な一面を印象付ける、格好の機会となったのです。

 2人のファースト・レディ候補が公表したのは、奇しくも同じチョコレートチップ入りクッキー。ただしバーバラのレシピがバターを使った伝統的なものだったのに対して、ヒラリーのレシピでは「植物油を使い、オートミールを加えている」という斬新性が強調されました。夫人たちのクッキーに現れた「保守VS革新」の構図は、そのまま現職の共和党大統領・ブッシュと、若き民主党候補・クリントンの対立を象徴していたともいえます。

 読者投票の結果、ヒラリーのクッキーに軍配が上がり、夫のビル・クリントンも見事に当選を果たしました。以来、ミシェル・オバマのレモン・クッキーがシンディー・マケインのバター・クッキーに負けた2008年を除いて、クッキー・コンテストの勝敗はいつもそのまま大統領選の結果に結び付いています。

◆ファースト・レディの伝統はどうなる

 2016年、ヒラリー・クリントンが主要政党初の女性大統領候補となったのと同時に、クッキー・コンテストの意義を疑問視する声が高まりました。かつての「ファースト・レディのクッキー・コンテスト」に、男性であるビル・クリントンが参加を余儀なくされたからです。

 ヒラリーが史上初の女性大統領に就任すれば、夫のビルは史上初の「ファースト・ハズバンド」となります。男女の立場が入れ替わることにより、「大統領の伴侶」が果たすべき責務も、根本から見直されるのは必定です。

 歴代のファースト・レディには、大統領の公務においてホステス役を務めるという、重要な役割がありました。会食の際にテーブル花や食器を選んだり、ホワイトハウスのクリスマス・ツリーを飾り付けるなど、ファースト・レディたちには常に「アメリカ家庭の模範的な主婦像」が求められてきたのです。

 ヒラリー・クリントンの出現は、伝統的なファースト・レディの概念を覆しました。陰ながら夫を支える家庭的な妻ではなく、弁護士としてのキャリアを武器に、堂々と政治の表舞台に躍り出る大統領夫人の存在は、新時代の到来を思わせました。そのヒラリーがきっかけを作って、クッキー・コンテストという保守的な慣習が生まれたのは、皮肉といえば皮肉なものです。

◆ビル・クリントン対メラニア・トランプ

 今年の7月、ビル・クリントンは『ファミリー・サークル』誌の要請に応じて、伝統あるクッキー・コンテストに参加しました。ただし、「クリントン家伝統のチョコチップ・クッキー」と銘打ったレシピは、1992年と1996年にヒラリーに勝利をもたらしたレシピの使い回しです。

 大きな戦争もなく、アメリカ経済が繁栄を遂げたクリントン政権下の90年代を「古き良き時代」と振り返る米国人は少なくありません。ビルが過去のものと寸分たがわぬ「クリントン家のレシピ」を公表したのは、「また、かつてと同じ繁栄が取り戻せるんだよ」という主張とも受け止められます。

 一方で、共和党のドナルド・トランプ候補の妻・メラニアは、「星型のシュガー・クッキー」のレシピを公開しました。東ヨーロッパ風にサワー・クリームを使ったクッキーは、スロベニア出身のメラニアらしい選択です。しかし、公の場では白い服しか着ないメラニアの「真っ白なクッキー」は、「トランプ候補の白人至上主義を象徴している」などという憶測も招いています。

 今年のクッキー・コンテストの投票結果は、大統領選挙の1カ月前、10月4日に公開される予定です。大統領候補の伴侶が男性となり、「もはやクッキー・コンテストは時代遅れ」との声が高まる中、今回が最後のコンテストになる可能性も噂されています。ヒラリー・クリントンによって始まった伝統は、ビル・クリントンによって幕を下ろすのかもしれません。

<取材・文/羽田夏子 写真/Kate Wellington>

●はだ・なつこ/1984年東京生まれ。高校から米国に留学。ヒラリー・クリントンの母校であるウェルズリー大学を卒業後、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科にて国際関係学修士を取得。国連機関インターン、出版社勤務を経て、翻訳編集プロダクションを立ち上げる。日本メンサ会員。

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:9/21(水) 16:30

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