ここから本文です

黒田総裁は実現不可能な「口約束」をしている

東洋経済オンライン 9月21日(水)18時30分配信

 日銀の金融政策の成果を、株価で測る傾向が世にはびこっている。金融政策発表後に日経平均が上がれば「成功」、下がれば「失敗」とする論調が多い。それにつられて、いつのまにか日銀が、「株価を政策目標とする中央銀行」に変わりつつある。

■市場は日銀の「実現不可能な口約束」を好感した

 その意味で、9月21日に発表した金融政策は、成功だったのだろう。発表内容を好感して、この日の日経平均は、前日比315円上昇した。日銀のマイナス金利導入で収益にダメージを受ける銀行株がこの日は大幅高になった。

 大手銀行株がこの日急騰したのは、日銀が「イールドカーブ・コントロール」を導入すると発表したためだ。10年物国債金利が概ねゼロ%で推移するようにコントロールするとした。

 年80兆円のペースで、国内債券の保有残高を増やす量的緩和は続けるが、10年以上の金利がマイナスにならないように、買い付ける対象を調整するとした。具体的には、10年以上の国債の買い付けを減らし、それよりも短い国債をたくさん買うことになる。買い入れ対象について、平均残存期間の定めを廃止することによって、中短期債券の買い付けを一段と増やせるようにした。日銀の発表を受けて、10年国債利回りは一時+0.0286%まで上昇した。

 この日のマーケットは、日銀の口約束に素直に反応したと言える。日銀は、マーケット関係者が喜びそうなことを、これでもかと言うくらい並べたてたからだ。私は、日銀の口約束には、実現不能の内容が含まれていると考えるが、21日の金融市場は、とりあえず日銀の口約束を素直に評価した形だ。

 日銀の狙い通り、長期金利が上がれば、年金基金や金融機関の運用悪化を防ぐ効果がある。一方で、中短期金利を下げれば、円高を防ぎ、設備投資のためのファイナンスをしやすくする効果も期待できる。いいとこづくめである。

「いいことづくめの話」をエスカレートさせた日銀

 しかも、日銀は今回、口約束をさらに一つ、エスカレートさせた。「オーバーシュート型コミットメント」を導入すると表明した。

 2%の物価目標が達成されても即座に金融緩和をやめず、安定的に2%以上が維持できるまで続けるとしたことだ。いつか来る日銀金融政策の出口への不安の払拭を狙ったものである。しかも、いつも通りであるが、さらなる量的緩和の拡大も、選択肢として温存していることが述べられている。株式市場のことをよく知っている黒田日銀総裁は、これでもかというほど、株式市場が喜びそうなことを並べたててきた。

■日銀の「二つの実現不可能な口約束」とは?  

 今回、決定された「10年以上の金利引き上げ」は、実質、金融引き締めである。ただし、引き締めととられると、円高が進行するので、量的緩和の維持を表明し、必要ならば拡大すると表明している。つまり、今回の発表内容は、金融引き締めと金融緩和の「いいとこどり」を狙っている。

 金利上昇を望む金融機関や年金基金に対しては、「長期金利を上げる」と、金融引き締めの絵を見せた。一方で、金融緩和を続け、円高を防ぎたいと思う産業界に対しては、強力な量的緩和をいつまでも続け、さらに強化する用意があるとの絵を見せた。

 今日のマーケットはその両方を信用した。ただし、私は、金融引き締めと緩和強化は両立しないと考える。2つのことが実現不可能になるだろう。

 第一に、日銀は本当に、年間80兆円債券保有を増やしながら、長期金利を引き上げることができるのか? 国債市場は、日銀がどんどん国債を買い上げてしまうために、流動性が枯渇してきている。

 イールドカーブ・コントロールの導入で、今後、日銀は10年国債を思うように買えなくなるだろう。その分、中短期国債の買い入れを一段と増やさなければならなくなる。

 中短期国債をどんどん奪い取られる金融機関は、どういう行動に出るだろうか。年マイナス0.1%のペナルティ金利を取られながら日銀当座預金に預け続けるか、あるいは、10年以上の長期国債を買いにいく行動に出るのではないか? そうなると、日銀の意図に反して、超長期国債の利回りは上昇しなくなる。

 次に、オーバーシュート型コミットメントは、現実的には実行不可能である。今回あえてそれを表明するのは、金融政策出口の議論を封じ込めて、円高が進むことを防ぐためと考えられる。

 現在の量的緩和は、このままではいずれ債券の玉不足で続けられなくなる。政府が必要のない国債を大量に増発する場合を除き、インフレ目標達成の有無にかかわらず、早晩債券買い付け額を減らさざるをえなくなるだろう。

窪田 真之

最終更新:9月22日(木)15時15分

東洋経済オンライン

東洋経済オンラインの前後の記事