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インスリン治療中の人が要介護になったら

月刊糖尿病ライフ さかえ 9月22日(木)11時0分配信

インスリン注射をしています。介護が必要になったらどうなるのか不安です。 (1型糖尿病、55歳、女性)

【回答】
 高齢になると年齢相応に視力は衰え、細かい作業も難しくなってきます。認知症やいくつかの合併症を併せもっていることもあるでしょう。そうなったとき、インスリンの単位は読めるだろうか? 打ったことを忘れてしまわないだろうか? 

 皆さま、不安が尽きないのではないでしょうか。実際、介護が必要な状態でインスリン注射をしている患者さんが退院するには、いろいろと問題があることは事実です。

 わたし自身も1型糖尿病ですので、自分の問題として気掛かりですし、皆さまのお気持ちも分かります。しかしそれでも、患者さん個々の事情に合わせて工夫したケアプランで周囲の人の協力を得ながら、穏やかに生活されている方も多くいらっしゃいます。今回は、そんな介護と糖尿病について、現状と問題点を整理してみたいと思います。
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■ 医療行為という壁

 まず、インスリン注射、血糖自己測定は医療行為だということです。

 医療行為は、医師と医師の指示の下で看護師が行うことです。しかし、現在は患者さん自身による自己注射、血糖自己測定が認められています。以前は、注射だけのための長期入院、毎日の通院、違法を承知での自己注射などという先輩患者さんの苦労があり、患者さんや医師が声を上げ、在宅自己注射が認められた経緯があります。この在宅自己注射は糖尿病患児の親や高齢者の配偶者、子どもなど患者さんの家族にも容認されています。

 しかし、介護士やヘルパーによる医療行為は認められていません。訪問介護はもちろん、施設などに入居している場合でも、看護師が24時間常駐している施設は必ずしも多くはなく、看護師のいない時間帯(朝食前も)に注射はできず、夜中に低血糖になっても血糖測定はしてもらえないのです。

 特にインスリン注射は、種類や単位数を間違って打ってしまうと、低血糖など取り返しのつかない大事故にもつながりかねないため、細心の注意が必要です。


■ インスリン代の問題

 また、介護保険制度の中の施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、療養型医療施設)では薬の過剰処方を防ぐために一部を除いて薬代は包括払い(マルメ)です。そのため、インスリン注射など、薬代がかかる人は敬遠されることもあるわけです


■ 看護師不足の現状

 介護保険制度の先行きが心配され、「施設から在宅へ」と叫ばれています。在宅で介護サービスを利用しての生活もいいのですが、近年は有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅も増えてきました(在宅扱いになるので、医療費も家にいるときと同じ自己負担になります)。

 介護保険のサービスを利用して生活するわけですが、訪問看護サービスでは、毎日の頻回注射には対応しきれません。そこで「定期巡回・随時対応訪問看護介護」という定額の介護保険サービスが創設され、これを利用すれば頻回注射も可能になりました。しかしこのサービスも、人材不足で始められない地域も多いようです。


■ 糖尿病に詳しい担い手の育成

 また、訪問診療で高齢者を診ている医師や看護師が、必ずしも糖尿病やインスリン注射に詳しいわけではないことも課題の一つです。今後は、インスリンポンプなど高度で特殊な治療方法に対応できる人材の育成も必要になってくることでしょう。

 糖尿病患者さんの人口が増えていることからも、介護職の人たちにも糖尿病について学んでもらう機会をつくることが必要なのかもしれません。知識があれば、医療行為が行えなくとも、低血糖症状に気付けるようになります。できることなら、彼らが血糖測定や注射を安全にできるように制度を整えることもこれからの課題です。

 もしかしたら、インスリン注射をしている若い患者さんこそ、その担い手に向いているのかもしれません。


■ 今から家族の理解と支えを!

 ご主人が視力の弱った奥さんのために大きな文字で記入できる血糖測定記録紙を作り、菓子箱などを利用して朝昼夕夜と注射を分けておき、打ち忘れを防ぐ工夫をしてくれたというお話を伺いました。家族が患者さんを上手に支え、デイケアや短期入所を利用して在宅生活を続けている一例です。

 また、近所に住む息子さんが毎朝出勤前に注射をしに来てくれるので、日中は毎日デイケアを利用して普通に暮らすことができる患者さんもいます。

 このように、元気なうちから家族も診察室に同席して治療や注射の方法などを知っておいてもらうと、いざというとき慌てずにスムーズに対応することができます。


■ 主治医とよく相談

 今はさまざまなタイプのインスリン注射があります。周囲の人が患者さんを援助できる時間帯に打てるように工夫することも可能かもしれません。主治医と生活面をよく相談して調整することをお勧めします。

 今まで患者さんは、「自分が主治医」と言われて、長年自己管理を頑張ってきたという自負があります。たとえ介護が必要になっても、いい加減なことはしたくないという心情も理解できます。だからこそ元気なうちから家族や主治医と話し合っておくことは将来的な心配事を少なくしてくれます。

 糖尿病に詳しい医師、看護師、薬剤師、介護士、栄養士。そんな人たちに囲まれて、支えられ、患者さん自身もお互いに支え合っていければ理想的ですね。

上大類病院 栄養課 管理栄養士/日本糖尿病療養指導士/
介護支援専門員
1型糖尿病歴23年
堀口 時子(ほりぐち・ときこ)

※『月刊糖尿病ライフさかえ 2016年8月号』より

最終更新:9月22日(木)11時0分

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