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米SEC、エクソンを調査=試算評価方法を問題視か=WSJ --- 岩瀬 昇

アゴラ 9月22日(木)7時10分配信

東京時間9月21日午前5:45、時事通信が掲題を報じている。

ニューヨーク州検事総長などが気候変動問題との関連でエクソンを調査している、という報道は以前より行われていたが、ついにSEC(証券取引委員会)が動き出したのか、とWSJ原文を読んでみた。”SEC probe Exxon over accounting for climate change” (Sep 21, 2016, 7:55pm ET) (http://www.wsj.com/articles/sec-investigating-exxon-on-valuing-of-assets-accounting-practices-1474393593)というものだ。

世界のエネルギー情勢に大きな影響を与える可能性を秘めた本件だが、日本ではほとんど関心を引いていないので、WSJ記事の要点を紹介しておこう。

・SECは、気候変動に関する諸規定との関連で、エクソンがどのような試算評価を行っているのか、8月にエクソンと監査会社PricewaterhouseCoopers(PwC)に情報提供を求めた。

・SECの調査は、エクソンが各種プロジェクトの経済性を評価するにあたり、将来必要となる「炭素価格(carbon price)」をどの程度織り込んでいるのか、という点にあるようだ。

・同時に、埋蔵量評価にあたっていっさい減損処理を行わないというエクソンの長期的な実務実態についても調査をする見通しだ。

・過去2年間の価格下落の中で、シェブロンが累計500億ドル(原文ママ、50億ドル?)の減損処理を行っているように、ほとんどの米石油会社は評価損を織り込んでいるが、唯一行っていないエクソンは「極めて保守的に評価している」ので不要だとしている。

・社内でプロジェクト評価の前提として使用している「炭素価格(carbon price)」について、エクソンはいっさい公表していない。たとえばシェルやBPは約40ドル/MT、コノコフィリップスはプロジェクトの性質により6~51ドル/MTと発表している。

・エクソンは、SECは調査を行うのに相応しい(NY州検事総長など、司法当局の調査には異論をもっているものと思われる)、自社はルールに合致した報告を行っていることに自信を持っている、SECの調査には全面的に協力する、とコメントしている。

・SEC、PwC(エクソンの監査会社)、NY州検事総長のスポークスマンはコメントを辞退した。

筆者は弊ブログ「#226 スーパーメジャーの2Q決算内容」(2016年8月2日)(http://agora-web.jp/archives/2020670.html)の中で、上流部門の損益が、シェブロン▲24.62億ドル、シェル▲19.94億ドル、BP+2,900万ドルであったのに対し、エクソンが2.94億ドルの利益を計上したことについて、「各社にはそれぞれ特有の事情もあり」と書いている。なぜエクソンだけ好調なのかという違和感が残ったのだが、理由が分からなかった。

その理由は、WSJが報じているように、油価の大幅下落にも関わらず評価見直しを行っていないということのようだ。エクソンは「保守的に評価している」ので「長期的には価値を生み出す」としている。

また、この記事の中で触れられている「炭素価格(carbon price)」については、若干の説明が必要だろう。
記事では「炭素税(carbon tax)」あるいは「キャップ・アンド・トレード制度で適用される価格」と付記されている。

読者の皆さまには弊ブログ「#69 欧州石油会社6社が求めているものは?」(2015年6月3日)(http://ameblo.jp/nobbypapa/entry-12034413883.html)をぜひ再読願いたいが、このブログの中で筆者が「炭素排出有料化」と訳している「pricing for carbon tax」と同じものだ。つまり地球温暖化対策の一環として、将来各社に排出可能な炭素の量が定められ(cap)、達成できないところは達成して余裕のある他社からクレジットを購入しなければならなくなる(trade)が、そのクレジット価格のこと、あるいは各国政府が課する「炭素税(carbon tax)」の水準のことを指している。つまり、石油ガス業界にとって、これらの「炭素価格 (carbon price)」は「コスト」として認識すべきものなのだ。

SECとエクソン、というと、カナダのオイルサンド埋蔵量の取扱いを巡った大議論を思い出す。当時のレイモンド・リー会長が、SECの当時の基準では埋蔵量として織り込んではいけない、とされていたオイルサンドも、これは資産として認識すべき「保有埋蔵量」だと、ウォールストリートには説明し続けていた。つまりSECへの報告、あるいは公表している財務諸表のデータとしては前年比「保有埋蔵量」が減少している時にも、エクソンは「保有埋蔵量を増加し続けている」と発表していたのだ。その後、油価の上昇が理由の一つであったのかどうか不詳だが、2000年代半ばになってSECがエクソンの主張を認めた、という事例だ。

今回の調査の結果、何がどうなるのか。この結果は将来のエネルギー情勢に大きな影響をもたらすことは必至だ。

皆さん、注目しておいてくださいね。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年9月21日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちら(http://ameblo.jp/nobbypapa/)をご覧ください。

岩瀬 昇

最終更新:9月22日(木)7時10分

アゴラ

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