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香港「ケージ・ハウス・スラム」に丸山ゴンザレスが潜入! クレイジージャーニー裏日記⑦

現代ビジネス 9月22日(木)19時1分配信

一体どこにあるのか

 ――香港にスラムがある! 

 突然そんなことを言われても、実感が湧かない人がほとんどしれない。不法占拠されてバラック小屋が立ち並ぶ人口過密地帯。そんなスラムのイメージと、東アジアの大都市のひとつで、「百万ドルの夜景」で名高い金融結都市・香港とは、なかなか結び付かないだろう。

 移動が簡単なコンパクトシティとしても知られている反面、居住できる土地が少なく、地価は世界でもトップクラスである。報道や雑誌でも、「香港のスラムの実態」なんて企画はお目にかかったことがない。
 
しかし、私は「香港にスラムが存在する」との噂を以前から耳にしていた。スラムと聞けば飛んでいき、取材がしたくなるのが私だ。とはいえ、噂は耳にするものの、どこにそれがあるのかという正確な情報が入ってこない。行くか行くまいか、どうしようか…と思い悩む時期が続いていた。

 そんな折に、香港を拠点にしているジャーナリストから興味深い情報を得た。香港には「籠屋」というケージで仕切られた犬小屋のような家を貸し出しているところがあるというのだ。

 これを聞いてすぐに思い浮かんだのは、ひと部屋を細かく間仕切りされた牢獄のイメージだった。本当にそんなものがあるのだとしたら、香港の抱える「見えざる問題」を浮き彫りに出来るはずだ――。好奇心の後押しを受けて、巨大都市の闇を追いかけることにした。

「ケージ・ハウス」

 香港に到着すると、ホテルの受付の女性や道行く人などに片っ端から「籠屋」と書いたメモを見せるところから始めた。しかし、すぐにこの取材の難易度の高さを思い知らされた。

 「ケージ・ハウスのことだね。昔は多かったけど最近はあまり聞かないな…」
 
みな一様にこんな反応を示すのだ。ほかに聞けたことといえば、

 ・ビルの二階などに入っていることがある。
・収入の不安定な人が暮らしている。
・籠屋に暮らす人のことを「籠民」と呼ぶ。

 といったことぐらいで、情報がなかなか集まってこない。こうなったら、事前にジャーナリストが教えてくれた「旺角(モンコック、香港の町の名前)周辺からから奥まった場所にある」という情報をもとに、その周辺を探るしかない。このエリアをくまなく歩いてみることにした。

 ほどなくして、不動産屋らしき店をみつけた。外国人がケージ・ハウスの質問をするのは奇妙にうつるだろうが、手詰まり感のある取材を前進させるには、「専門家」に聞くしかない。店内には夫婦と思しき60代の男女がいた。

 「すいません。日本から来ました。香港の不動産を調べているのですが、教えてほしいんです」
「いいですよ。どんなことですか? 
「ケージ・ハウスです」
「え…? 

 想定外の質問だったのだろう。その驚きぶりが表情に出ていた。行き違いがないように、取材メモに記載した「籠屋」と「籠民」の文字を指差した。

 「あ~これね。もう残っていないかもしれないな」
「どういうことですか? 
 
店主の話しによれば、部屋を二段や三段に区切って、何十人もひとつの部屋に暮らすスタイルというのは、ここ2~30年の香港ではよく見られたそうだ。しかし、彼のような不動産屋が斡旋するような部屋ではなく、住人募集の張り紙だったり、口コミだったりで集めていたという。

 「2年ぐらい前だったかな。ケージ・ハウスで殺人事件があったんだよ。それ以来、行政府は取り締まりに力を入れていてね。だから一気に閉鎖されてるんじゃないかな」
 
あとで調べてわかったことだが、ケージ・ハウスの住人同士の殺人事件があったという。犯罪の温床になるという名目から、一斉に排除したのだろう。昨今、全世界的にスラムを排除しようという流れができており、各地で取材するたびにそれを感じている。

 「じゃあ、もう見ることはできないんですか? 
「この近所にもあったんだけどね。そこに行ってみたら」

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最終更新:9月22日(木)19時1分

現代ビジネス

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