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大阪の珍味メーカーは世界進出の足がかりとしてなぜタイを選んだのか?

HARBOR BUSINESS Online 9月22日(木)9時10分配信

 佃煮などの商店から始まった家族経営の店が、1947年の開業から来年で70周年を迎える今、海外進出の足がかりとしてタイで工場の建設を勧めている。(参照:前回記事「「堺から世界へ」。タイのコンビニに大阪生まれのイカのつまみが置いてある理由」)

 家族経営の小さな店からはじめ、年商50億円弱の企業に成長したマルエスがさらなる飛躍をするには海外進出は必須だった。そのための足がかりとして、なぜタイを選んだのか?

 その理由は、タイが元々イカの仕入れ先のひとつでもあったこともあるがそれだけではない。、田中社長の地道な現地調査の結果でもあった。

「海外進出の条件としてマーケットがしっかりあること、流通がチェーン化されているなどいくつかあり、どこでもいいわけではありませんでした。例えばベトナムではチェーン店でもせいぜい100店舗規模と小さい。その点、タイは市場が成熟し、原料調達もでき、親日家が多いという好条件が揃っていました」

 タイもイカを食べる文化が根付いており、飲食店、屋台、コンビニエンスストアなどでスルメのような干しイカなどの製品が手に入る。また、マルエスのイカ以外の主力製品でもある海苔も、日本とは違った形や味つけではあるが、消費が多い。現在はタイ人も本格的な和食の味に慣れてきている。マルエスの製品がタイ人の間に認知され、工場稼動でタイ市場に価格がマッチすれば確実に販売数量を伸ばすことができる。

 実際、マルエスの製品を試食させてもらったが、コンビニエンスストアで販売されている袋詰めのつまみとは思えないクオリティであった。これはマルエスのこだわりでもあり、イカや海苔の品質はもちろんのこと、小麦粉や製品を揚げるための油にも妥協のない製品選びをしている。製造技術も他社には真似できない、最早職人技と言ってもいいレベルで、そんな経験に裏付けされた人間の手腕が惜しみなく投入されているのだ。

「弊社の一番の技術は温度と時間。これは食感に関わる大切な部分です。小麦粉のブレンド、イカを伸ばす技術もそうで、他社には真似できないものだと思います。ですので、最初のうちは日本から職人を派遣し、部長クラスも頻繁に出張させ管理してタイ人の職人を育てながら操業していくつもりです」

◆日系企業の多いタイだからこその強み

 こだわりのある原材料というのであれば、すべてをタイで調達するのも困難なのではないだろうか。しかし、現在およそ6.7万人が在タイ日本大使館の在留届提出者数であるタイなので、多くの日系企業がタイでも日本の品質のまま生産を行っている強みもある。

「原料調達は最終的にはすべてタイ国内で行う予定です。日本の本社にタイ工場仕入れ室を設置し、日本の仕入れ先でタイに進出した企業を紐づけています。コア技術の原材料は現地の知らないところから仕入れるのは難しいので、工場スタート時には日本からのものを、その後徐々に紐付けたメーカーのタイ出先企業へと調整した方が望ましいと考えています」

 一時的には日本から材料を仕入れる可能性もあるが、「輸入品だと収入層のピラミッドの中でも上層部の人にしか食べてもらえないが、タイで作れば販売価格が半分くらいになるので購買層が広がる」と田中社長が言うように、できるだけいいものを安く供給するために現地調達を目指している。

◆地元タイ人からも期待される

 実はこのマルエスのタイ工場操業は地元民からも多いに期待されている。場所はバンコクからおよそ200キロほど、タイ東部の漁村バーンペー付近になる。元々マルエスの仕入れ品のひとつがこの漁港で水揚げされるイカだった。

「バーンペー港の近くに工場を作るのは原料供給地が近い方がいいだろうと考えてです。来年5月に工場完成予定で、8月ごろからの稼働を目指しています。18000坪で、敷地の一部に建屋を造り、軌道に乗り次第3段階で増設できるイメージでいます。日本の工場で2500坪、社員80人にパートさん200人の規模なので、タイだとフル稼動すれば1000人は雇い入れることができると見ています」

 タイは全体で約6900万人の人口だが、仕事はバンコクに集中しており、多くの地方在住者がバンコクへと出稼ぎにくる。しかし、地方出身のタイ人のほとんどは、日本人の「畳の上で死にたい」という観念に似たものを持っており、できれば地元で暮らしたいと考えている。タイ東北地方の玄関口であるナコンラチャシマー県もこれまでは出稼ぎが多かったが、近年は日本の有名プリンタメーカーや欧米のハードディスクメーカーが巨大工場を県内に出したため、若者はバンコクでなくそこに就職するようになっている。東部の漁業しかなかったような町にマルエスの工場ができれば、確実に町の雰囲気や町人の意識も変わってくる。マルエスの進出はこういった社会貢献的な意味合いも非常に強い。

「すでにタイ投資委員会にも書類提出は済んでいますし、建設許可も受けています。あとはラヨン県の最終許可を取るだけです。県知事にはすでにお目にかかっており、ぜひとは言われています」

◆タイに根付く企業になると同時に世界も狙う

 工場のデザインは富士山のイメージなどを取り入れた奇抜な外観を持ちつつ、2階にはカフェ、工場内には見学通路もある。設計段階から田中社長自身が積極的に関わってきた。

「ガラス張りにして小学生の見学なども受け入れることができます。働いている人のモチベーションも上がりますし、そうなればタイ人職人も育ちます。ラヨンの工場はタイとタイ人に感謝しながら地域の人々を雇っていくつもりです」

 タイの食品関連事業で日本よりある意味進んでいるのが、イスラム教徒たちの買いものの基準のひとつになるハラル認証だ。イカは一部の宗派には受け入れられていないようだが、タイ国内で食品を売る場合にはハラルは考慮しないといけない。

「イカ自体が外国人には苦手なところがありますが、だからこそおいしいということを植え付けていかないといけないと思っています」

 工場が稼動すればタイ国内の価格が下がるし、商品バリエーションが増える。また、世界へも安く供給できるようになることにも期待される。マルエスが世界へ羽ばたく計画は一歩一歩、進んでいるところだ。

<取材・文/高田胤臣(Twitter ID:@NaturalNENEAM) 取材協力/マルエス>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:9月22日(木)9時10分

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