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小池都知事の打ち出した「20時一斉消灯」は根本解決にならない!

HARBOR BUSINESS Online 9/22(木) 9:10配信

 東京都の小池百合子知事が、都職員の20時以降の残業を原則禁止すると発表した。罰則こそ考えていないというが、20時に全庁を一斉消灯、それ以降の退庁者は庁舎出口で確認し、所属部局に伝えるという。ライフ・ワーク・バランスの実現のため、「仕事の効率化に取り組み、早く帰ることを競い合う風土に変えていってほしい」と職員に呼びかけていると報道されている。

 この記事がYahoo!ニュースに配信されるや、コメントは殺到し、翌日には4,000件を超えた。コメントのほとんどは、「素晴らしいです」「良い取り組みだと思います」「他の会社もお願い」などと、賛成意見だ。まさに「働き方改革」の旗を振る宣言のように思える。

 ハーバービジネスオンラインの読者のみなさんは、この宣言をどう受け止めているだろうか。「ライフ・ワーク・バランスの実現に一歩近づく」「長時間労働の弊害を是正できる」「働き方改革に資する」と、この取り組みを支持するだろうか。そのような印象を持つ読者が多いかもしれない。

 そして、周期的に早帰りデーがはやるのと同じように、これを機に、20時一斉消灯を取り入れる企業や団体が増えるかもしれない。しかし、私は、この宣言に一抹の危惧を禁じ得ないのだ。

◆いかなる強制も、モチベーションを下げる

 私が危惧しているのは、この宣言が、職員への強制の側面を強調しているように受け取られかねないことだ。「学生寮ではないのだから、○時に帰れ、○時に消灯、門限破りはチェックするは、ないだろう」と内心思っている人もいるに違いない。自分の会社がそうされたらどう思うだろうか?そりゃ、早く帰りたいけれど、強制されたくはないと思うのではないだろうか。「自己管理させてもらないのか……」という声も聞こえてきそうだ。

 このように申し上げると、「原則」禁止に過ぎず、申請により20時以降も残業できるし、照明をつけることができる配慮している、そもそも残業することが例外であり異常なので、規制してあたりまえだと言う見解も聞こえてきそうだ。私は例外対応かどうかに限らず、この打ち出し方が、職員のモチベーションを下げないか、気になってしょうがない。

 20時以降の残業の原則禁止を強制されてモチベーションが上がるのか。全庁一斉消灯で急き立てられてパフォーマンスが高まるか。20時以降の退庁者はチェックされて満足度はあがるだろうか。私には、ネガティブインパクトが働くと思えてならない。

◆モチベーションエリアに応じたマネジメントが先決

 私が展開している分解スキル・反復演習型能力開発プログラムでは、年間1000人以上に参加いただき、課題解決力向上演習を実施している。その中で、残業となってしまう理由を挙げていただくと、次のようなものが挙がってくる。

①顧客の都合に出来る限り応えたい

②翌日に持ち越したくない

③付加価値を高めるために時間をかけたい

④上司の突然の指示

⑤上司が帰らないので、帰れない

⑥残業代も見込んで生計を立てている

 これらのうち、④から⑥の状況に直面している組織には、一斉消灯方式が効くに違いない。上司は先を見越した業務指示をするようになり、付き合い残業はなくなり、必要もないのに残業してしまう状況を解消するだろう。

 しかし、顧客の都合に出来る限り応えたい、自分なりの業務配分で進捗させていきたい、付加価値を高めたいと思っている、①から③の状況については、一斉消灯方式は、むしろ、役にたたないのではないだろうか。モチベーションが高く、自律的に仕事を進捗させたいと考えているビジネスパーソンであればあるほど、強制的に帰らされる組織は、居心地が悪いのではないだろうか。

「ルールとは一律なものだ」「例外を決め始めたら、むしろ混乱する」……という意見もあるだろう。なにも、複雑怪奇なルールを設定すべきだ、幾通りもの例外規定を設けるべきだと言っているのではない。

「必要な残業は上司が指示したり許可をしたりする」、「不必要な残業は上司が責任をもってさせない」という、ごく当たり前のことを、マネジメントが実行すればよいだけの話である。一人一人のモチベーションエリアに応じたマネジメントやコミュニケーションができれば、なおチーム全体の士気は上がる。

 マネジメントができていないことを、制度でカバーしようとすること自体が、本末転倒で、ますますマネジメントは弱体化し、制度頼みのマネジメントが横行することになってしまう。それが出来ていないから、一斉消灯という、小池知事の言うところの「ショック療法」を取らざるを得ないという考え方だと推察するが、ショック療法をいくら実施しても、問題の根本原因の解決にはならないことは目に見えている。

 今回の東京都の例では、報道されていないだけで、マネジメントの強化施策は、着々と実行されているに違いない。「ショック療法」という用語があえて使用されているのは、その意味だとも思える。一斉消灯の強制運用のみが独り歩きして、肝心のマネジメントの強化がおろそかになってはならないのではないだろうか。

※「モチベーションエリアに応じたマネジメント」スキルは、山口博著『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)のドリル29で、セルフトレーニングできます。

【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第16回】

<文/山口博>

※社名や個人名は全て仮名です。本稿は、個人の見解であり、特定の企業や団体、政党の見解ではありません。

【山口 博(やまぐち・ひろし)】グローバルトレーニングトレーナー。国内外金融機関、IT企業、製造業企業でトレーニング部長、人材開発部長、人事部長を経て、外資系コンサルティング会社ディレクター。分解スキル・反復演習型能力開発プログラムの普及に努める。横浜国立大学大学院非常勤講師(2013年)、日経ビジネスセミナー講師(2016年)。日本ナレッジマネジメント学会会員。日経ビジネスオンライン「エグゼクティブのための10分間トレーニング」、KINZAI Financial Plan「クライアントを引き付けるナビゲーションスキルトレーニング」、ダイヤモンドオンライン「トンデモ人事部が会社を壊す」連載中。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社、2016年3月)がある。慶應義塾大学法学部卒業、サンパウロ大学法学部留学。長野県上田市出身

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最終更新:9/22(木) 9:10

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