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シニアなら「大切なものを捨てる美学」

NIKKEI STYLE 9/23(金) 7:00配信

 ひところ、「断捨離」という言葉が流行しました。この断捨離を取り扱った本はいまも売れているようです。片付けたり整理したりすることをアドバイスするコンサルタントの人もたくさん活躍しています。
 「モノを捨てる」というのはなかなかできないことです。それだけに思い切って捨てると一種のすがすがしさがあり、一気に片付けが進むという経験をした方も少なからずいるでしょう。
 ただ、この「断捨離」ブームは「いらないものを捨てる」「ときめかないものを捨てる」といったように、自分にとってあまり必要のないものをどんどん捨ててしまうことが大きな前提になっているように思います。それは確かに極めて合理的だし、精神的にもスッキリするので良いことは間違いないでしょう。
 ところが、ここに一冊の面白い本があります。私の友人である投資教育家でI―Oウェルス・アドバイザーズ社長の岡本和久氏と、彼の大学の同級生で作家の「リンボウ先生」こと林望氏の共著である「金遣いの王道」(日経プレミアシリーズ)という本です。
 この本は2人の対談形式で書かれたもので、年を取ってからのお金に対する考え方や処し方について語られた、非常に面白い本です。いくつも興味深い部分があり、私自身も何度か読み返して大いに共感するところが多いのですが、その中の一節に「大事なものから捨てる美学」というのがありました。
 リンボウ先生は「僕は一番大事なものから処分していき、『最後に死ぬときはどうでもいいものしか残っていない』という死に方をしたい」(本文より引用)とおっしゃっています。若い世代の人にはなかなか理解されにくい考え方かもしれませんが、シニア世代の人たちにとってはある程度共感できる部分があるのではないかという気がします。
 人間というのは欲望の強い生き物で、それ自身を否定することはできません。ただ欲望があまりにも強すぎるゆえに悩みや苦しみが生じるということもまた事実です。だとすれば、年とともに「執着」を捨てていくことが必要なことであり、心が安らかになっていくことになるのではないか、そんな気がしてなりません。
 同書には、もう一つ面白いフレーズがあって、それは「60歳を過ぎたら“貯蓄”よりも“減蓄”」という考え方です。よく「あの世までお金を持っていけるわけじゃない」とか、「子孫に美田を残すな」ということがいわれます。そういう意味では“減蓄”というのは理にかなっていることなのかもしれません。
 ただ、ここでいっているのは単にお金を減らそうとか、じゃんじゃん使おうという意味ではなく、それが何か世の中の役に立つように回していこうというニュアンスが含まれていると思います。リンボウ先生も「自分の大切な財産は書物だけれど、それが世の中で本当に必要とされる人の手に渡って後世にも伝えていってもらえるようにしたい」ということをおっしゃっています。それが“減蓄”であり、「捨てる」ということなのでしょう。
 そんな話をすると、お金のある人だからできるのだという風に考える人もいるかもしれません。私は必ずしもそうとは限らないと思います。資産の多寡だけではなく、自分が築いてきたものや自分が得てきた有形無形の財産を世の中の役に立つように渡していくという考え方は、シニア世代にとっては極めて有意義なものだといえるのではないでしょうか。
 年を取るにつれて、自分が大切にしてきたものをどんどん世の中に回していく。それによって心身ともにスッキリとした人生の後半生を送ることができるのは尊いことです。「シンプルに生きる」ことがシニアの理想の生き方ではないでしょうか。
 「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は10月6日付の予定です。
大江英樹(おおえ・ひでき) 野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学会の会員で、行動ファイナンスからみた個人消費や投資行動に詳しい。著書に「定年楽園」(きんざい)など。近著は「投資賢者の心理学」(日本経済新聞出版社)。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。オフィス・リベルタス ホームページhttp://www.officelibertas.co.jp/フェイスブックhttps://www.facebook.com/officelibertas

最終更新:9/23(金) 7:00

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