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自己顕示欲の肥大は自他をも殺す――権力を手にしたかった男の狂乱

サイゾー 9/23(金) 15:00配信

――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

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 テネシー州を混乱に陥れた男として悪名を轟かせた 、バイロン・ルーパーが獄死したのは2013年6月26日だった。同州の上院議員を巡る選挙を血に染めた彼が、殺人の罪で逮捕されてから15年目の夏だった。妊娠中の看守を襲い、救出に駆けつけた看守達に取り押さえられてからわずか2時間後、獄中で死亡した状態で発見されたバイロン。警察が発表した死因は心臓発作であったが、警察の暴行による“死”という見方も一部では囁かれている。いずれにせよ、不可解な死を遂げた彼に同情の声はなかったのだが、それも仕方のないことだったのかもしれない。

大統領を目指したエリート青年の挫折

 1964年9月15日、テネシー州クックビルで生まれ育ったバイロンは、地元の教育長の息子として、学生時代から勉学に励む青年だった。志が高く野心家だった彼は、高校卒業後、米国の国防の中枢を担うリーダーを育成する陸軍士官学校に入学。エリートコースを歩み始めた。

「将来はアメリカ合衆国の大統領になりたい」

 燃えたぎる野心を、周囲に告げていたというバイロン。しかし3年後、バイロンは志半ばにして挫折を味合う。訓練中に膝のけがを負ってしまい、厳しい陸軍士官学校プログラムの遂行が難しくなり、名誉除隊という形で退学を余儀なくされたのだ。

 だが、彼の心は折れなかった。すぐにジョージア州へと身を移し、ジョージア大学に入学。卒業後は州議会での職を手に入れた。そして1988年、バイロンは民主党員として、ジョージア州議会下院を目指すべく選挙に出馬。しかし、ここで2度目の挫折を味合うこととなる。自信に満ち溢れた彼の思いとは裏腹に、周囲の反応は振るわず、落選してしまったのだ。

 自分の描いた将来像から遠ざかり、空回りを続けるバイロン。それでも地元テネシー州に戻ると、今度は共和党員として政治活動を開始した。この頃から、彼の野心は凄まじいまでの自己顕示欲に変わり始める。

 1996年、パットナム郡で、固定資産税を決める税査定官を目指し再び選挙に出馬した彼は、これまでの失敗から、有権者に対して型破りなアピールを繰り返し始める。

 ポスターに使う自らの名前にインパクトをもたらすために、ミドルネームを法的に“ロータックス(低い税)”に変更。「バイロン・ロータックス・ルーパー」として活動を開始した。さらに、信頼を勝ち取るために、当時のガールフレンドを“妻”であると偽り、“夫婦”揃って選挙活動に勤しんでクリーンなイメージを演出する。その一方で、頻繁に地元テレビ局への出演を続け、現職の税査定官への中傷を雄弁に語り始めた。

 地位を手にいれる為には手段を選ばない――このバイロンの行動は、随分粗暴ではあったが、大方の予想に反して勝利を勝ち取ったのだ。

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最終更新:9/23(金) 16:15

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