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「ワニの涙」を信じますか? ロッテ裏金疑惑に揺れる韓国経済

Japan In-depth 9/24(土) 23:00配信

最近、韓国では「ワニの涙(crocodile tears:そら涙)」が話題になっている。

エジプトのナイル川に住むワニは人を食った後、悲しいように涙を流すという伝説に由来したこの言葉は、通常は選挙で勝った政治家が流す偽善的な涙を意味したが、今回は少し違う。主人公は政治家ではなく、誤った企業経営のせいで国家経済を危険にさらした企業のリーダーだった。

■始まりは韓国財界第5位のロッテグループ

8月26日午前7時ごろ。 ソウルから車で1時間ほど離れた京畿道のある散策路で木にネクタイで首をつって死んだ人が発見された。死者は李仁源(イ・インウォン)ロッテグループの政策本部長(副会長) と明らかになった。

李副会長は同日午前9時30分、ロッテグループの総額2,000億ウォン(約181億円)の不正疑惑を捜査しているソウル中央地検に被疑者として出頭して、横領や背任の容疑に対する調査を受ける予定だった。しかし、自身の死によって言いたい言葉をすべて封じてしまった。遺体の隣に捨てられた李副会長の車には彼が直接書いた遺書もあった。

被疑者の予想しなかった自殺にグループの重要人物たちを対象としていた検察の捜査は一時的に中断された。李副会長は共に検察に召喚されたファンガクギュ政策本部運営室長(社長)と一緒に辛東彬(シン・ドンビン)ロッテグループ会長の家臣とされる人物だ。(注1)

トップ一家の仕事やグループの大小事はもちろん、系列社の経営まで総括する人物だっただけに、検察は李副会長を調査すると、グループが長い間秘めてきた内部の不正が明るみになると見ていた。しかし、李副会長の死で、実体的に真実に近づく道が閉ざされたという指摘が検察の内外から流れた。警察は万一、あるかもしれない他殺の疑惑をなくすために、職権で捜査もした。

この中に辛会長が流した涙が世人の注目を浴びた。 27日、李副会長の殯所を訪れた彼は自分と十数年をともにした側近の遺影写真の前で涙を流した。 しかし彼の悲しい表情と涙が予想外の社会問題になった。

李副会長が検察捜査を前にして命を断った後、彼の死を伝える記事には自殺の背景とグループ内部の秘密を気にする人の声が多数寄せられた。ネイバーやダウムのようなポータルサイトと主要マスコミのサイトでは「辛会長の涙を信じられない、これはワニの涙だ」とか「(李副会長が)自殺で終わりを結ぶしかなかった理由が知りたい」、「(ロッテグループはむしろ)検察捜査が終わってよかったのではないか」などの書き込みを容易に見つけることができた。

マスコミの報道に関心を示した一部の市民たちは、財界と政界の賄賂コネクションを扱った映画「内部者」で検察の捜査を受けていた関係者が飛び降り自殺し、すべての疑惑が水面の下に沈んだことを言及し、「死人に口なし」と疑いの目を向けた。

不幸中の幸いで、映画と異なり、現実では検察が捜査を再開した。疑いの頂点に立っているグループのトップ辛会長も20日に被疑者身分(特定経済犯罪加重処罰法上横領・背任の容疑)で、ソウル中央地検に出頭する。辛会長の召喚は、検察がロッテグループの主な事務室を家宅捜索したこの6月10日以降、3ヵ月ぶりのことだ。 検察捜査の最後の手順である。

検察によると、辛会長は海外買収・合併の過程で発生した損失を他の系列会社に肩代わりさせたり、優良資産を非常に低い値段で一部の系列会社に移転するなどの背任を犯した容疑を受けている。中国ホームショッピング会社のラッキーパイなど、海外企業をずさんに買収してグループの持ち株会社であるホテルロッテが、ロッテ済州・扶余リゾートを時価より低い価格で買収するなどの背任を犯したと検察は見ている。また、辛会長が日本ロッテ系列会社に登記取締役として名前を挙げた後、何の働きもせずに毎年100億ウォン台の給与を受け取ったことも操作し、横領容疑の適用を検討している。

辛会長が流した涙が本音であるかどうかは関係なく、流通業界の最強者であるロッテグループが裁判を受ける可能性が高い状況は、内需不振という悩みを抱えている韓国経済に負担を与えている。もし辛会長が拘束される事態が発生すれば、会長の個人の誤った判断がグループ系列会社91社はもちろん、連結された他の会社が被害を受ける結果につながることが懸念される。



■夫の後を継いだ女性社長が国会議員の前で流した涙

韓国の主要産業の一つである海運業。この業界を代表する韓進(ハンジン)海運が9月初旬、破たんし企業更生手続き(法的管理)に入った。グローバル海運業況がよかった2009年から2013年まで、高価のレンタル料(用船料)を渡して船舶を借りて耐えられない負債を抱えたのが問題だった。いくらたくさんの品物を乗せても運賃が安くなった不景気には船を浮かべれば浮かべるだけ損害になる構造になったのだ。

用船料の契約は通常15~20年近く続いているため、一度決定したら簡単に変わらないが、将来の景気予測をきちんとできなかった韓進海運の無理な投資は4~5年間続いた。その結果2009年には69隻だった韓進(ハンジン)海運の船舶は2013年104隻へと大幅に増えた。2008年海運業の好況だけを考えて高価に船舶を大量に借りてくるなど、無理に事業を拡張して経営難につながったのだ。しかし中国など新興国の経済成長は下落傾向を見せ、海運運賃も急激に落ちた。 結局、流動性危機が訪れた。

韓進海運の事態と呼ばれる一連の出来事の裏には崔恩瑛(チョイ・ウンヨン)元韓進海運会長がいる。崔元会長は2006年、夫の趙秀鎬(チョ・スホ)会長が死亡した後経営権を継承し、企業を運営した。彼女が「2007年3月から2014年4月に辞任まで2584日、社員たちと一緒にした」と話したその期間、韓進海運は誤った経営判断で基礎からぐらついていた。

彼女は2012年欧州財政危機など不況が続く中、韓進海運の負債比率が1000%を超えるなど経営難がはじまると、2014年5月夫の兄である趙亮鎬(チョ・ヤンホ)韓進グループの大韓航空会長に経営権を譲り渡した。 

この中に崔元会長は会社の事情が悪いということを事前に認知してから自分と子供2人が持っていた韓進海運の株97万株を売却して10億ウォンの損失を逃れたりもした。また系列会社有数ホールディングスで10億ウォン台の給与を毎年受領したり、法人名義を活用して数十億ウォン台のヨットを保有したり、放漫な経営をしてきた疑惑も受けている。

国会では韓国の海運業においては致命的な打撃を与えた今回の事態を調査するために今年9日、造船・海運の構造調整の聴聞会を開き、崔元会長を証人に呼んだ。ここで崔元会長は「企業再生手続きに入った責任をどのように取る予定ですか」と国会議員から問われた後、しばらくの間涙を流した。また、彼女は涙をハンカチで拭い「経営者として道義的な責任を感じており、社会に貢献する案について悩んでいる」と話した。

しかし、自分がどのように社会に貢献すべきかについては答えを出さなかった。個人の財産を出して会社の再生に向けて努力するという回答もなかった。その一方で、崔元会長は「韓進海運を助けてください。韓国の人たちは、北朝鮮の核実験のような非常時に韓進海運の船に乗って脱出しなければならない」とお願いした。

市民たちの反応は冷たかった。経営判断を十分にできなかった崔下会長が税金を活用して自分の企業を助けてくれということは、責任を回避しようとする意図があると見られたのだ。何よりも会社の財政状況を最悪になるまで放置していた彼女が国会議員たちの追及を受ける席で涙を流したのは、引き絞った「ワニの涙」だという意見が多かった。「ワニの涙」の裏が知りたい彼らに辛会長と崔元会長がどのような姿を見せてくれるか、世間の関心が集まっている。

(注1)辛会長は9月21日の検察調査でロッテ建設秘密資金造成など関連疑惑の大半を否定したという。

*** 大韓航空は9月21日午後、緊急理事会を開き、韓進海運に対する600億ウォンの資金支援策を確定した。 大韓航空関係者は「韓進海運の売上債権(今後もらう運送料など売掛)を担保に600億ウォンを融資の形式で支援することにした」と明らかにした。政府系の産業銀行も追加で500億ウォンの資金を支援する。

イ・スミン(韓国大手経済誌記者)

最終更新:9/24(土) 23:00

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