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話題の映画公開!航空ジャーナリストが読み解く『ハドソン川の奇跡』の価値

@DIME 9/25(日) 13:10配信

2009年1月15日、冬のニューヨークのハドソン川に、両エンジンが停止した状態の1機の飛行機が着水した。着水したUSエアウェイズ1549便の飛行機には155人の乗員・乗客が乗っていたがサレンバーガー機長(以下サリー機長)の見事な操縦によって全員の命を救われたのだ。

その実話をクリント・イーストウッド監督が映画化し、トム・ハンクスがサリー機長を演じたのが『ハドソン川の奇跡』である。日本では9月24日(土)より全国公開となった話題作であり、既にアメリカでは先行して上映されており、2週連続で興行収入1位を記録している。

ストーリーは、2009年1月15日にニューヨークのラガーディア空港からシャーロットへ向かっていたUSエアウェイズ1549便が離陸から約1分半後にバードストライクという鳥がエンジンに吸い込まれたことで、2つのエンジンが損傷して停止。高度850mでラガーディア空港へ戻る、もしくは近隣のテターボロ空港へ戻るように管制塔から指示されたが、サリー機長は不可と判断し、ハドソン川への不時着を決断することになった。

一歩間違えれば、マンハッタンに墜落する可能性もある中、見事な操縦によって技術的に難易度の高い水面へ不時着を見事に成功させ、近くを走行していたフェリーがすぐに救助に向かったなど、救助も迅速だったことで「全員生存」の偉業を成し遂げたのだ。実は離陸してから不時着するまでわずか6分しかなかったという。

その偉業は映画のタイトルになっている「ハドソン川の奇跡」と呼ばれ、サリー機長は一躍英雄として称賛されるはずであった。ところがこの不時着という「究極の決断」に対し、事故調査委員会からは「本当に不時着以外の選択肢はなかったのか?」「乗客の命の危機にさらす判断ではなかったのか」という疑いがかけられる。度重なる追及でサリー機長と同乗したジェフ・スカイルズ副操縦士を極限まで追い詰められるが、そこで彼を支えてくれたのは数少ない仲間と心から愛する家族だった。彼らと共に試練に立ち向かい、公聴会でサリー機長の判断が正しかったのかジャッジされることになった。その結末までを描いている。

筆者は、映画『ハドソン川の奇跡』を先日一足早く、試写会で鑑賞してきた。参考文献や過去のニュース記事なども改めて読み直した中で改めて「ハドソン川の奇跡」が“奇跡”であったことを確信した。まずは着水時の気温。ニューヨークの気温はマイナス6℃で極寒だったが水温は2℃あった。そのため、凍ってしまうこともあるハドソン川が凍っていなかったことで不時着できたのだ。そしてハドソン川自体も川幅が1kmあり、不時着をする場所に船が航行していなかったことも奇跡だった。ちなみに参考までに隅田川に架かっている勝鬨橋は長さ246mしかないのだ。

その他にもレーダーから当該機が消えてしまった後も、上空を偶然飛んでいた観光用のヘリコプターから管制との間で位置情報の交信を続けるなど情報をリアルタイムで把握できていたり、不時着した場所の近くにフェリーが航行していたことですぐに救援に向かうことができ、全員無事救助に繋がったとされる。

だが、やはり最大の奇跡はサリー機長の冷静な判断と決断、そして経験豊富な操縦技術によって機体を大きく損傷させることなく着水できたことに尽きる。過去にも海などに着水した事例はあるが、バランスを崩して機体が損傷したことで死傷者が出たケースもあった。しかし、ハドソン川への着水はスムーズだったそうだ。そう話すのは、実際にこの便に搭乗していた日本人乗客の出口適さん。

筆者も登壇した公開前に行われたトークショーの中で出口さんは「後ろから3列目くらいの通路側に座っていたが、異変に気づいたのは窓の外を見たらマンハッタンの街が低いところに見えて何かおかしいなと思ったときです。その直後に機長から不時着するというアナウンスがあり着水しましたが、水の上に不時着したという割にはスムーズでした。むしろ不時着してから直後に川の水が急速に入り、足元も膝下まで入ってきた時は内心焦りながら、翼の上にある非常口にたどり着くまでは長く感じました」とその時の様子を語った。映画を観た感想として出口さんは「本当に作った部分がない。その場にいたような雰囲気を感じた」とリアルに描かれていると話す。

飛行機の損傷が少なかったことを象徴するエピソードとして、機体を川から引き上げられた後、出口さんが機内に預けていたハンドキャリーのバックも後日返却されたそうだ。さらに衣類に関してはクリーニングされた綺麗な状態で戻ってきたとのこと。機体は現在、ノースカロライナ州シャーロットにある航空博物館に展示されている。

映画ではサリー機長役のトム・ハンクスとジェフ・スカイルズ副操縦士役のアーロン・エッカートの息の合った演技、そしてCGを駆使しながらリアルに描かれているところも是非観ていただきたいところである。日本での記者会見でも二人の息の合った姿を垣間見ることができた。また、航空会社名が架空ではなく、USエアウェイズの名前を使っている点も臨場感がある。USエアウェイズは2013年にアメリカン航空と合併したことで現在はUSエアウェイズのブランド名では運航されていないが、映画化にあたって航空会社の実名を使えたことは凄いことである。1時間36分の上映時間を余すところなく観ていただけるだろう。

文/鳥海高太朗(航空・旅行アナリスト)

@DIME編集部

最終更新:9/25(日) 13:10

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