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まだ見ぬツボを探して(立川吉笑) 立川談笑、らくご「虎の穴」

NIKKEI STYLE 9/26(月) 7:00配信

 毎週水曜日にリレー連載をさせていただいていた立川談笑一門のまくら投げ、今回から毎週日曜日の公開に変更となりました。休みの日を彩れるような連載を目指しますので今後ともよろしくお願いします。
 ということで、今回のお題は『ゲーム』。弟弟子である笑二から届いたまくらを、次の師匠にうまくトスできればなぁと思っています。
 この連載を担当させていただくことになって、もう半年くらいでしょうか。まさか自分がこんな媒体で連載をさせていただける日が来るなんて、これっぽっちも想像していませんでしたが、そういう意外な仕事を任せていただける機会がちょくちょくあるのが、落語家として楽しい瞬間だったりします。
 いくつか連続でそういうイレギュラーな仕事が舞い込んでくる幸せな時期があれば、反対に全くそういう案件が来ない低調な時期もあります。とにかく我々はオファーを待つしかないのですが、ありがたいことにこの秋から、少し前の自分ではそんな仕事をいただける日が来るなんて想像だにできなかった大きな仕事が始まることになりました。
 それは音楽番組のレギュラーMCという仕事です。
 ほとんどの若手落語家は事務所に所属しておらず自身で事務仕事もしているのですが、ある日僕のGmailにテレビプロデューサーを名乗る人物から「音楽番組のMCになってください」というオファーが届きました。
 当然最初は新手の迷惑メールだと思いました。以前、資産家の未亡人から「頼むからお金を受け取ってほしい。君みたいな若者の力になりたい」という旨のメールを何度もいただいて、2日間悩んだことがあります。
 その時は「7億円振り込むための手数料として2万円が必要だから、先に振り込んでほしい」という相手方のむちゃくちゃな言い分に何とか目が覚めたから被害に遭わずに済んだものの、以来迷惑メールには敏感になっている僕ですから、突然の大それたオファーを信じられるはずがありません。
 記載されている番号に非通知で恐る恐る電話をかけました。指定された会社で打ち合わせをすることになり、念のためすぐに録音できる状態にしたICレコーダーをポケットに忍ばせ打ち合わせ場所に向かいました。何度かメールでやり取りをし、衣装合わせをし、先日1回目の収録が終わったところで、どうやらこれはだまされていないんじゃないかと少しずつ思えるようになりました。
 まだ放送されていないから油断はできませんが、手の込んだ詐欺、もしくは仲間からのドッキリなどでなければ10月から全国30局ネットで『MUSIC B.B.』という番組に出演させていただいております。ぜひご覧ください。
 
 と、告知をさせていただきつつ、その番組収録中のできごと。
 僕以外にKissBeeというアイドルグループの鷹野さんと谷藤さんという方がアシスタントMCを務めてくださるのですが、とにかく緊張してしまうのです。
 テレビの収録自体はこれまで何度か経験しているからあまり緊張することはないのですが、両隣にいい匂いのするかわいい女性がいると頭が認識すると、それだけでぎこちない自分になってしまいます。
 何しろ普段は、男だけ、というより基本おっさんや爺さんまみれの楽屋で過ごしているし、またそういう環境こそが心地よいと思っているのが落語家です。そんな我々の隣に急に可愛い女子を配置したらそりゃ緊張するに決まってます。
 これから一緒に番組を作っていくのだから打ち解けなくちゃと思い、無理して喋りかけても出てくるのは「あ、あついですねぇ」「ふ、ふだんはどんな音楽を聞くのですか?」みたいな、自分でもしょうもないと思う質問ばかりです。
 対する相手方は「ひなちょすって呼んでくださいね~♪」「わ~お腹ポニョポニョでかわいいですね♪」と、ノーガードでこちらの間合いに突っ込んでくる恐るべきインファイターです。
 こちらも反撃せねばと頑張って「ひなちょす」と呼ぼうと思っても、どうしても「ちょす」のハードルが高過ぎて、心が折れてしまいます。
 そんな僕を見かねたスタイリストの方が、
 「親指と人差し指の分かれ目にあるくぼみを押したら緊張が取れますよ」
 と教えてくれました。
 わらにもすがる気分で言われた場所を押すと、不思議なことに上ずった声がいつも通りの低さにもどり、心臓のドキドキも治まりました。
 何とか無事に収録を終えて帰宅しました。
 これまで全然意識していなかったけどツボの効果ってすごいんだなぁと痛感した僕は早速ネットでツボについて調べてみました。
 教えてもらったツボは「合谷(ごうこく)」という有名なツボでした。他にも上がり症に効くツボだけでも手首の関節の小指寄りの端にある「神門(しんもん)」だったり、手の平側の腕の真ん中、手首の曲がり目から指2本ひじ側にある「内関(ないかん)」だったり、いくつものツボがあるみたいです。
 くるぶしから指3本上にある「三陰交(さんいんこう)」というツボは冷え症に効くし、おへそから指2本外側の「天枢(てんすう)」というツボは消化器系の疾患に効くそうです。
 なぜそこを押したら、そんな効果があるのか。
 その因果関係は分かりませんが、「合谷」を押したら緊張が解けたのは事実ですし、他のツボも間違いなく効果があるのでしょう。
 そんな便利なモノがあるなら生まれたときに説明書みたいなものを同封して欲しいと思いましたが、そういう隠されたツボを自分で探していくのが人生なのかなとも思いました。
 思えば子供時代、あまりゲームを買ってもらえなかった僕はクリアした後も繰り返し同じゲームをプレーしていました。それもただ遊ぶのじゃなくて、わざと壁にぶつかってみたり、意味のないタイミングでアイテムを使ってみたりするのです。
 そんなことをしていると、たまにすり抜けられる壁があったり、使ったアイテムの数が倍になったりする、バグなのか裏技なのか分かりませんが、特殊な状況を目の当たりにすることがあるのです。
 誰がどうやって発見したのか分かりませんが「下・R・上・L・Y・B・X・A」と押すと、ストーリーを先に進めないと出合えない隠しキャラが使えるようになる、というような裏技もありました。
 ゲーム開発者の方が遊び心で仕込んだ裏技なのだと思いますが、そういう意味では体に隠されたツボも神様が遊び心で仕込んだ裏技なのではないかと思うようになりました。
 改めて自分の体を見てみると「これ、何のためにあんねん?」と思うようなギミックがいくつも見つかります。
 例えば鼻の下のくぼみ。これ、何のためにあんねん?
 例えばほくろ。これ、何のためにあんねん?
 いろいろ考えていくうちに、ピンときました。これらは隠しコマンドを見つけるためのヒントに違いないのだと。神様が人間の体にたくさんの裏技を仕込んでくれました。それがツボです。ただ隠しておくとはいえ、誰かには見つけてもらいたいと思った神様はツボを発見する手がかりになるような無駄なヒントもたくさん作ってくれたのです。
 そこからの作業は早かったです。とにかくほくろがある場所とか、鼻の下のくぼみとか、おへそとか色んな場所を押しまくった結果、ネットにも出ていない新しいツボをいくつも発見しました。
 いずれ新書という形で世に出そうと思っているので全部は無理ですが、この連載が日曜に移った記念として最後に「すぐに使える効果的なツボ」をいくつか紹介したいと思います。
 
 1、おへそから指2本上……鼻水が止まります
 2、おへそから指3本上……鼻づまりが治ります
 指1本上か下かで、出ているものが止まったり、止まっているものが出たりするのは神様の遊び心としかいえませんね。一つ注意が必要なのは間違えて指2.5本分上を押してしまうと、白目がしばらくの間、紫色になってしまいます。小一時間で元に戻りますが念のため。
 3、眉間から指40本下……二日酔いが治ります
 眉間から指40本下は僕の場合、ちょうどおへそから指2本上の場所なのですが、眉間から指40本下のつもりで押したら二日酔いが治って、おへそから指2本上と思って押したら鼻水が止まります。
 4、右腕にある一番大きなほくろ……義理の妹が元気になります
 5、右腕にある偶数番目に大きなほくろ……小仏トンネルで渋滞が発生します
 6、母方の祖母の耳たぶをつまみながら、自分の脇の下を押す……ファミレスの店員が注文を聞きにきます
 
 みなさんもこの休日に、自分の体に隠されたまだ見ぬツボを探してみてはいかがでしょう?
(次回、10月2日は立川談笑師匠の予定です)
立川吉笑(たてかわ・きっしょう) 本名、人羅真樹(ひとら・まさき)。1984年6月27日生まれ、京都市出身。180cm76kg。京都教育大学教育学部数学科教育専攻中退。2010年11月、立川談笑に入門。12年04月、二ツ目に昇進。出囃子は東京節(パイのパイのパイ)。立川談笑一門会やユーロライブ(東京・渋谷)での落語会のほか、『デザインあ』(NHKEテレ)のコーナー「たぬき師匠」でレギュラーを務めたり、水道橋博士のメルマ旬報で「立川吉笑の『現在落語論』」を連載したり、多彩な才能を発揮する。ホームページは、http://tatekawakisshou.com/

最終更新:9/26(月) 7:00

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