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官能特集! 藤田宜永さんが恋愛小説に託した「成熟した男性の本音」とは

本の話WEB 9/26(月) 12:00配信

 2011年から、10月号の定番となっているオール讀物「官能特集」。2014年には桜木紫乃さんと壇蜜さんの対談「魅せる女の流儀」などが収録され、話題となりました。

 最新号「オール讀物」10月号では、村山由佳さん、桜木紫乃さん、千早茜さん、額賀澪さん、中江有里さんらによる、官能読み切り短篇が収録されています。

 読み応えがあるのは、一挙100枚が掲載された短期集中連載「メロドラマ」最終話です。

 愛欲の果てに、50歳の主人公が心の深淵を覗き見る――物語を書き終えた藤田宜永さんはこう語ります。

「執筆のきっかけは、2004年の『恋しい女』を超える恋愛小説を書いてほしい、という編集者からのオファーでした」

 抱いても、抱いても、手に入らない――この切なさの意味を求める男性を描いた長編『恋しい女』を超える題材として、藤田さんが選んだのは――。

「ずいぶん久しぶりに、恋愛小説を書くにあたって、現代の女性をきちんと描きたいと考えていました。

 自分の家族のことは大好きだけれども、自らの恋愛には夢中になりきれない……。そんな29歳の女性に惹かれた50歳の男性はどうなるんだろう、とアイデアを膨らませていきました」

 人妻と情事を重ね、快楽を得ながらも、なぜか鬱々とした気分から逃れられなかったバツイチの主人公・塩原達也のもとに、ある日突然、見知らぬ若い女性・奈緒が訪ねてくる。

《行方不明となったお母さんを探している。あなたが25年前に書いた手記に、お母さんが出てくる。だから知っていることを教えてください》と言うのだ。

 その手記は、知人の編集者に頼まれて書いた、造りものの『メロドラマ』だった。内容は定番ともいえる男女の駆け落ちもの。この手記が真実だと信じる奈緒は、母親の居場所を探したいのだという。

 達也の周りには、3人の女性が登場する。

 セックスをむさぼりあえる人妻、達也のすべてを知り尽くした元妻、男性の心の殻を無自覚に破っていく奈緒だ。

 3人の女性との関係を経て、達也は、手あかのついた『メロドラマ』の対極といっていい、『これまで描かれたことがないラブストーリー』に巻き込まれていく。

「今回、書いたのは、男性なら誰しもが持っているはずの、でも、決して認めたくない感情です。認めてしまえば楽になるが、他人には口にしたくないもの。『母親という幻想』なんです。

 この主題は、誤解されやすいもので、フェミニズム全盛の時代だったら、書けなかったかもしれない。男女の線引きがフラットになった現代だからこそ、世に問えたのかもしれません。

 成熟した男性の本音は、誰も書いてこなかったものだし、男性作家でないと書けない小説だと思います」

 達也は、幸福を味わえるのか、絶望の景色を見るのか。

 藤田宜永さんが描いた「かつてない恋愛小説」をぜひ堪能してほしい。

イラストレーション・井筒啓之

藤田宜永(ふじた・よしなが)

1950年、福井県生まれ。早稲田大学中退。99年『求愛』で島清恋愛文学賞、2001年『愛の領分』で直木賞受賞。近著に『亡者たちの切り札』『怒鳴り癖』『血の弔旗』など。

文:「オール讀物」編集部

最終更新:9/26(月) 12:00

本の話WEB

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
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