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鉄道職員の“問題行動”を生み出す「本当の理由」

HARBOR BUSINESS Online 9/26(月) 9:10配信

 このところ、鉄道職員の“不祥事”が話題になっている。

 不祥事と言っても事故や事件というほどのことはなく、東海道新幹線の運転士が運転台に足を投げ出していた…、JR東日本の運転士が運転席であぐらをかいていた…、さらには近鉄の車掌が利用客に詰め寄られてプッツン、逃げ出して高架から飛び降り怪我をするというトラブルもあった。

 どのケースでも鉄道事業者は謝罪のコメントを発表しており、それぞれの職員には何らかの処分が下るだろう。

 だが、こうしたトラブルを巻き起こす職員たちに対する同情の声も少なくない。特に“職場放棄”をした近鉄の車掌に対しては、「過度なクレームをつける客が悪い」「これまでも似たようなことがあってストレスが貯まっていたのだろう」「車掌に処分をするな」などなど。確かに、列車の運転見合わせに際して集団で詰め寄られて罵声を浴びせられれば、逃げ出したくなる気持ちも理解できる。

 もちろん職場放棄はどの仕事であっても処分の対象になるし、運転士の振る舞いは安全にも関わるので毅然とした対応も必要だろう。ただ、同情すべき事情があるのも事実だ。では、なぜこうしたトラブルが相次いでいるのか。鉄道専門誌の記者は「クレーマーも問題だが、一番の要因は現場の職員に過剰な負担を強いていること」と話す。

◆合理化のシワ寄せが現場の職員を押しつぶす

「一貫して鉄道業界は人員の合理化が進められており、事業者ごとに事情は異なりますが20年前と比べれば現場の職員はかなり少なくなっている。そのため、ひとりひとりの職員の負担がどうしても大きくなっているんです」

 もちろん安全運行に関わる運転士や車掌に関しては、勤務時間が大幅に増えるようなことはない。一番負担が増しているのは、“客対応”だという。

「かつては駅のホームにも終日駅員が立っていて、列車の出発合図や乗客の案内などをしていました。ところが、最近は合理化のおかげで駅員は窓口にひとりかふたり、ホームには朝のアルバイトを除けば終日無人という駅も少なくありません。通常どおりに運行されているときはそれでもいいのですが、人身事故などでダイヤが乱れるとわずかな駅員ですべて対応する必要があります」

 ダイヤ乱れ時の対応は多岐にわたる。運転再開見込みなどの状況を案内したり、ICカードの入場取り消しや振替輸送の手続き、迂回ルートの問い合わせへの対応などの旅客対応に加えて、指令所などとも連絡を取り合いながら状況を把握していかねばならない。それをわずか数人でこなすのだ。

◆現場に降りてこない情報

 また、ある大手鉄道事業者の駅員は話す。

「まず情報がほとんど駅員には来ないんです。ダイヤが乱れると列車の行き先や列車種別(特急・快速など)を変更することがありますが、その情報は該当列車には無線で通告されていても駅員は運行状況を把握しているモニターを見ないとわからない。でも、押し寄せるお客さまの対応でモニターをこまめにチェックする暇もない。だから間違った案内をしてしまい、それで怒鳴られたり……。特に終電間際にダイヤが乱れると地獄です」

 筆者も何度か終電間際の運転見合わせに遭遇したことがあるが、駅窓口には長蛇の列ができており、少ない駅員が対応に追われていた。終電間際なので他路線への振替輸送も難しく、駅員は「見込み時間の分からない運転再開を待ってくれ」と言うしかない状況。「タクシーを使わせろ」と叫ぶ乗客もいたが、「規則上対応できない」と駅員は答えるのみだった。また、駅構内には数人の警備員がいたために運転再開見込みなどの情報があるかどうか訪ねてみたが、「情報はもらえないし、勝手なことを言ってはいけないことになっている」とのことだった。

 これはやや特殊な事例かも知れないが、それでもダイヤが乱れた時に乗客がストレスを感じるのも自然なこと。その対応を情報もろくに与えずに少人数の駅員だけに対応させているのが現実なのだ。

「駅員が対応できないとホームに停まっている列車の車掌や運転士に問い合わせる客もいますが、彼らは運行状況の把握を優先しないといけないので充分な対応ができないこともある。それで乗客から罵声を浴びせられることもあるでしょう。結局、人数が少なく満足な対応ができないことにストレスを感じた乗客が現場職員にさらに文句を言い、それでさらに対応が遅れて……という悪循環になっているということ」(前出の記者)

 つまり、件の近鉄の車掌のような状況は、現場の職員を減らしてきた鉄道事業者が招いたことでもあるのだ。

◆過剰な「厳格化要求」とSNS拡散という「暴力」

 では、足を投げ出したりあぐらをかく運転士はどうか。

「これは正直今までもいくらでもあったし、特に驚くことではありません」

 こう話すのは大手事業者の関係者。とは言え、安全が疎かになるのは乗客としては困りものだが……。

「新幹線の運転はほとんど自動化されているので、足を投げ出していても安全にはほとんど支障はありませんよ。もちろん急ブレーキなどの対応が遅れるので褒められたことではないし処分は当然ですが。あぐらをかくなんて昔からすれば可愛いもの。もともと鉄道業界は現業社員の労働組合が力を持っていたこともあって、安全・安定運行に関する規定さえクリアしていれば、かなりルーズだった面があるのも事実です」

 ある事業者の現役ベテラン運転士は、「あまり細かいことを言われても困る」とにがり顔。

「そういう仕事だと言われたらそうですが、仕事中ずっと見られていて何かあったらすぐにネット、そして処分じゃ窮屈でしょうがない。かえって事故も起きますよ」

 だが、コンプライアンスが重視される今の時代、乗っている客に安全に対する疑問を抱かせるような振る舞いは許されるべきではない。前出の専門誌記者は、「安全意識の緩みを指摘されても仕方がない」とした上で、ここでも構造的な原因があるという。

「運転士や車掌はかなりのストレスのある仕事と言われています。オーバーランやドア扱いが遅れてダイヤが乱れたりすれば処分につながるし、場合によっては乗務から外されることもある。もちろん安全運行を担う最前線にいるので厳しさがあるのは当然ですが、必要以上に厳しく運転士や車掌を律するとマニュアル化してしまって逆効果になりかねません」

 思えば、2005年に発生した福知山線脱線事故も、処分を恐れるあまりに運転士が速度を出しすぎたことが原因のひとつとされている。新幹線で足を投げ出すというのは論外だが、行き過ぎた管理もまた問題。福知山線脱線事故を起こしたJR西日本では、軽微なミスやトラブルであれば報告を促すために処分をしない体制を構築したという。

 いずれにしても、鉄道の安全運行は現場の職員たちによって担われている。彼らに過度な負担を与えることなく、一方で正しい安全教育を進めていく。それが今、鉄道事業者に強く求められているのだろう。<取材・文/境正雄>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:9/26(月) 9:10

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