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あなたの「武勇伝」が 部下にスルーされる決定的な理由 ~お子様上司の時代

NIKKEI STYLE 9/27(火) 16:10配信

自分の思いに十分耳を傾けてもらうことの心理効果

 モチベーションというのは、能力の問題ではなく気持ちの問題である。能力やスキル、知識は日々たいして変動するものではないが、モチベーションは日々大きく変動する。日々の思いがモチベーションを左右する。

 日々の出来事は感情とともに思い出される。ここからわかるのは、日々の出来事として意識されるのは、とくに感情を喚起されたものだということだ。そして、ポジティブな感情を喚起する出来事があった日には仕事の成果が上がっていることも証明されている。

 そこで大切なのは、日々の感情をケアすることであり、そのために日々の思いを引き出すことである。

「何か困っていることはない?」

「行き詰まってることとかない?」

「何か問題があれば、どんなことでも言ってみて」

といった問いかけによって、部下は抱えている問題を口にしやすくなる。

「最近どう?」

というようなオープン・クエスチョンを使うこともできる。敢えて焦点を絞らない問いかけによって、部下が気になっていることがあれば、どんな話題でも持ち出しやすい雰囲気になる。

 もちろん、部下が悩んでいることや行き詰まってる思いなどを口にしたからといって、上司として解決策を示してやれるわけではない。部署としての方針に問題がある場合は、有効な対策を考えることもできる。部下の行き詰まり感に対して、発想の転換を促すようなアドバイスができることもあるだろう。だが、直接的に役立つ行動がとれない場合も、部下の思いに耳を傾けるだけで力になることができる。

 自分のことを気にかけてくれている。自分の思っていることに耳を傾けてくれる。そう感じることで、ポジティブな感情が生み出され、モチベーションは上がる。

 それに加えて、胸の内に溜め込んだ思いを吐き出すことで、カタルシス効果が生じ、気分がスッキリする。これもモチベーションの向上につながっていく。

頭でわかることと心からわかること

 自分が上司になると、部下の行動について、

「あいつはいくら言ってもダメだな」

「口ではわかりましたと言うくせに、全然わかってないじゃないか」

と文句を言いたくなる。だが、自分が部下だった頃のことを思い起こせば、そのからくりはわかるはずだ。

 頭ではわかっていても、行動が伴わない。それはよくあることだ。やらなくちゃいけないとわかっていても、どうもやる気にならない。そんな部下にもどかしい思いをぶつけたくなるだろうが、叱ろうが説教しようが動かすのは難しい。いくら頭でわかっても、気持ちが入らないと、全力投入の行動は生じない。全力投入できなければ、潜在能力を十分発揮することができない。

 そこで改めて意識しなければならないのは、人は気持ちで動くということ。人は理屈やデータで動くよりも、気持ちで動く。そこで大事なのが気持ちを動かすことである。

 何が気持ちを動かすのか。文句なしに人の気持ちを動かすのが「ストーリー」だ。ストーリーの威力は絶大だ。

 データや理屈は頭にアピールする。ストーリーは心にアピールする。ストーリーには、心を揺さぶる力がある。理屈抜きの説得力がある。

 CMでも、心に響くのはストーリー性のあるものだろう。ストーリー性があることで、自然に親しみが湧き、ポジティブなイメージが喚起される。

 したがって、もどかしい部下を動かそうというなら、ストーリー性を用いて気持ちにアピールするのが有効だ。ストーリー性というのが最もよく出るのが、具体的な体験談だ。

「オレにもこんなことがあった」

「じつは私も若い頃に……」

と言って自分の失敗談や行き詰まりとそのときの思いを語ることで、部下は自分の思いを重ねながら上司の伝えたいことを共感的に理解することができる。

 よくありがちな武勇伝や自慢話は逆効果だ。大切なのは部下の思いを引き出し、それに共感することで想い出された自らの経験を率直に語ることだ。かっこつけるための語りではなく、部下を勇気づけるための語りでなければならない。

 「なんでこうしないんだ」「なんでそんなこともわからないんだ」といった非難が逆効果なのはもちろんのこと、「こうすればいいじゃないか」「こうしてみたらどうだ」といった単刀直入なヒントもなかなか心に染み込まない。それに対して、部下の気持ちに共感しつつ、自分も同じような状況に陥ったときの気持ちを語り、部下に問いかけることで、気持ちの交流が生じる。

「課長もそんなに行き詰まったことがあったんですか」

「だれだってあるんじゃないか。自分でもこれじゃダメだ、何とかしないとって思ってるところに、周囲からああだこうだ責められたり、もっと頑張れとか言われると、ほっといてくれっていう気持ちになったりしてね」

「えっ、課長もですか。私もそうなんです。自分でも何とか頑張らなきゃ、ひと皮むけないとって思ってるくせに、人から言われると、どうでもいいやっていう気持ちになってくるんです」

「結局自分の人生だし、自分の思うようにするしかない、周囲に振り回されるのはバカらしいって思うようになって吹っ切れたかな」

「そうなんですか。私も自分でもっと考えるようにします」

という風にスムーズにいくかどうかはわからない。必ずしも解決のヒントを示唆する必要はない。むしろヒントなど示すことができず、当時の困惑した気持ちや苦しい状況を語ることができるだけということの方が圧倒的に多いはずだ。それでも、気持ちの交流が生じることで、言われた言葉も頭に「足止め」されることなく、心の中まで浸透する。

 情報を伝える際にも、気持ちを伝える。理屈を伝える際にも、気持ちを伝える。理屈や決意を引き出す際にも、気持ちを引き出す。その際に、ストーリーを用いた対話を心がけることが大切なのである。
(榎本博明=心理学博士)

NIKKEI STYLE

最終更新:9/27(火) 16:36

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