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くるり、Mr.Childrenらが雨の中で“名演”見せた『京都音博』 兵庫慎司が全アクトをレポート

リアルサウンド 9/27(火) 17:30配信

 2016年9月18日に行われたくるり主催の『京都音楽博覧会2016 IN 梅小路公園』。今年、2つの大きな“開催10回目にして初”のことがあった。

 ひとつは、過去出演アクト数は7~12組だったが、今年は「くるり with 森信行」「Tete」「矢野顕子」「Mr.Children」「QURULI featuring Flip Philipp and Ambassade Orchester」の5組だったこと。

 そしてもうひとつは、悪天候による雷の危険性のため、そのうちのトリの「QURULI featuring Flip Philipp and Ambassade Orchester」の演奏を待たずに途中終了になってしまったことだった。

 トップは岸田繁・佐藤征史にオリジナルメンバー=森信行が加わった3人で登場、「東京」「虹」「尼崎の魚」「夜行列車と烏瓜」「さよならストレンジャー」と初期の5曲をプレイ。バンドの結成日である9月1日に、彼らが出会った音楽サークル、立命館大学「ロックコミューン」の部室からライブを配信したり、9月9日には『ミュージックステーション』に出演したり、11月21日にはスペースシャワーの番組用の招待ライブが決まっていたりーーと、結成20周年記念の活動のひとつとしてこの3人でのライブは何度か行われているが、このようなオープンな場でのステージは初めてとあって、会場を埋めたファンの間には、なんとも言えない感慨が広がった。

 二番手は、“日英米以外からもすばらしいミュージシャンを招聘する”というこのフェスのセオリー、セネガル人とカリブ海出身のフランス人のハーフでパリ在住のミュージシャン、Tete。

 アコースティック・ギター1本、曲によってはストンプを足しながら8曲を歌い、ワールドワイドで百戦錬磨な人懐っこいパフォーマンスで初見のオーディエンスをどんどん巻き込んでいく。ラストのMCでは、雨の中観てくれたことにお礼を言い、「明日ライブがあってこれからすぐパリへ帰らないといけない、それでもほんとに来れてよかった」みたいなことを言って、みんなを驚かせたりもした。

 そして、2009年以来の出演、矢野顕子。いきなり「春咲小紅」でスタート、続いてくるりの「ばらの花」、2年前に作った伊勢丹のオフィシャルソング「ISETAN-TAN-TAN」、そして「谷村新司さんが作った歌ですけども」と山口百恵の「いい日旅立ち」! 京都だからですか? あと他の曲はわかるけど3曲目はなんでですか? 京都駅の駅ビルに伊勢丹入ってるからですか矢野さん! などと、ここまでですでにオーディエンス(というか私ですね)、びっくりしまくりだったが、さらに岸田を呼び込み、2006年にふたりで共作した「PRESTO」でしめくくった。大拍手。

 なお、朝から降り続いていた雨は、この時点ではほぼやんでおり、彼女は最初にそのことに触れてからライブをスタートした。

 続いては、出演が発表された時、誰もがどよめいたMr.Children。「名もなき詩」「Tomorrow never knows」の「マジか!」な2連発でスタート。錚々たるミュージシャンが参加してきたこのフェスに自分たちも参加できたことの喜びを口にしながら、「Melody」「PIANO MAN」「しるし」など新旧の名曲をプレイしていく。

 ミスチルがこの『京都音博』のステージに立っている、そのこと自体が何かマジカルに感じる、現実だけど現実じゃないみたいな時間を8曲分味あわせてくれて、彼らはステージを下りた。転換スタッフが楽器・機材をすべて片付けてステージがほぼ空になった。と思ったら岸田と佐藤が出てきて、「実は……」と桜井和寿を呼び込む。 3人でプレイされたのは、岸田のリクエストだという『深海』の「シーラカンス」。

 超レアなセッションにオーディエンスは歓喜一色に染まったが、この時、雨は、2007年の第一回目、大工哲弘&カーペンターズのパフォーマンス中に降ってきたゲリラ豪雨と同じくらいのレベルまで強まっていた。しかもあの時はわりとすぐやんだけど、今日は全然その気配がない。

 その後、雷が光ったり雷鳴が聞こえたりする中、待った。インターバル、長いな……と心配になり始めたあたりで、岸田と佐藤が強張った顔で登場。岸田、「(自分が)下唇を噛んでることでもわかるかと思うんですが……」と、雷の危険が高まっているためここでフェスを途中終了することを告げる。佐藤もお詫びの言葉を伝える。

 というわけで、10回目の『京都音博』は、ここで終わってしまった。ただし、その場にいた中のひとりとしてその時の正直な気持ちを書くと、もちろんがっかりしたし、とても残念だったけど、「ええーっ、そんなあ」とか「それはないよお」とかは思えなかった。

 理由はふたつあって、ひとつは雨は本当に激しく降り続いていたし、ふたりが出てくる直前に「うわ、今の近くに落ちた」っていうくらいでかい雷鳴が轟いたりもしたので、こっちもそろそろ「大丈夫かな、これ」という気持ちになっていたこと。

 そしてもうひとつは、岸田と佐藤の表情がはっきりわかる距離から観ていたからだ。岸田は泣きそうだったし、佐藤はもう堪えきれなくて言葉を詰まらせている。ふたりとも全身から「無念」の気持ちがあふれていた。俺よりも彼らのほうが100倍がっかりしてるよなあ、ということが、それ以上の言葉がなくても伝わってきた。自分よりも全然がっかりしている人が目の前にいると、人はそれ以上がっかりできなくなるものなんだなあ、と身をもって知った。

 Flip Philippは、2007年にウィーンでレコーディングされたアルバム『ワルツを踊れ』に参加。Ambassade Orchesterもレコーディングに参加、同年12月にパシフィコ横浜で行われた『ふれあいコンサート ファイナル』に出演した。ただしその時はFlip Philippは来日できず、別のコンダクターが指揮棒を振ったので、彼がくるりと同じステージに上がるのは、この日が初めて。

 『音博』は10回目。くるりは20周年。という今、『音博』を続けさせてくれたファンにいちばん見せたいものはこれだったわけで、にもかかわらず、そのステージを実現できず、フェスが途中終了。ということを考えると、岸田・佐藤の無念がうかがえる。

 もっと言うと、彼らはこのフェスのプロデューサーでもあるわけで、「自分たちはやりたかったのにスタッフに止められた」みたいな無責任なことを言える立場にはいない。つまり、途中終了のジャッジをした側でもあるわけで、さらにやりきれないだろう。

 そんなことを考えながら、会場をあとにし、続く大雨の中、街に出て着替えを買ったりしていたのだが(雨具をがっちり着ていても染みこんでくるぐらいの雨量だったのです)、ふとツイッターを見たら、くるりがLINE LIVEでライブを生配信をすることを決めたと知る。四条の地下道で、あわててスマホをつなぐ。
 
 配信場所は、梅小路公園の中にある、控室として使っている建物の中のようだ。岸田のあいさつに続いて、予定していた11曲の中から、「JUBILEE」「さよなら春の日」「デルタ」「ブレーメン」「宿はなし」の5曲が演奏された(「宿はなし」は岸田・佐藤のふたりで弾き語り)。

 見る限り、オーケストラはフルメンバーではなかったし、映像もPAもライブ生配信用の機材を備えて行ったものとは思えない状態だった。あとでツイッターをさかのぼったら佐藤が「完全アコースティックの簡易バンドでライブします!」と告知していた。PAはマイク1本、映像はスタッフのスマホのカメラを使ったという。

 なので、しっかり聴ける状態ではなかったが、たとえそうであってもとにかくやるべきだと彼らが判断したこと、それが、とてもグッときた。

 それに、ケチくさいことを言うと、彼らは『京都音博』に来てくれた人たちにこれを届けたかったんだろうが、この方法だと誰でも視聴できてしまう。そんなことどうでもいいと思った、もしくはそんなこと考えすらしなかったであろうことにも、とてもグッときた。

 10回目の『京都音楽博覧会』は、そんなふうに、くるりもお客さんも望まない形ではあるが、とにかく強く強く記憶に残る回になった。

 なお、さっき、さも岸田と佐藤の無念がよくわかるみたいなことを書いたが、その3日後、全然わかっていなかったことを知ることになる。

 せっかくのめったにない機会なのに、『京都音博』でしかやらないのはもったいない。おそらくそんな理由で決めたと思われる(違ったらごめんなさい)、QURULI featuring Flip Philipp and Ambassade Orchesterによる、渋谷・オーチャードホール2デイズ・コンサート『NOW AND 弦』の2日目を観たのだ。

 すごい音楽体験だった。何度も「うわ、俺今すごいもん聴いてる」とゾワゾワきた。9年前のパシフィコ横浜も観ているのだが、全然違った。あたりまえだ、指揮者が違うし曲が違うしサポートメンバーも違うし、何よりも岸田と佐藤が当時のままじゃないんだから。でも震えた。

 そしてそのように「うわ、すげえ」とおののけばおののくほど、「そうだよなあ、これ、『京都音博』のお客さんにフルで見せたかったよなあ」と、ふたりの無念がよりいっそう染みてくる思いをしたのでした。

 ただ、この編成による演奏、岸田と佐藤にとってもすごくスペシャルな体験であるようで、MCの度に「これすっごい集中するけどめちゃめちゃ楽しい」「終わるのが悲しい」「この編成でツアーやりたい」「またやりたい」というようなことを、ふたりとも何度も口にしていた。

 じゃあ来年の『京都音博』でぜひ。というほど簡単に実現することではないだろうが、いつか必ずリベンジを果たしてくれると思うので、それを楽しみにしながら今後も足を運びたい。先に楽しみができた、と思うことにします。フジロックもサマソニも皆勤ではない自分にとって、唯一の全回通っているフェスが、この『京都音博』だし。

兵庫慎司

最終更新:9/27(火) 19:42

リアルサウンド