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科学が解明、ソフトなタッチが気持ちいい理由

JBpress 9/27(火) 6:00配信

 (文:澤畑 塁)

 触って、触られて――。他人とのそうした身体的接触を、人生最大の愉しみと考える人も少なくないだろう。しかし、「なぜ感じるのか」「どう感じるのか」という問いに何かしらの答えを与えられるという人は、おそらくほとんどいないのではないか。

 本書『触れることの科学 なぜ感じるのか どう感じるのか』は、そのようなめくるめく触覚の世界とその裏側に、『快感回路』などの著書でも知られる神経科学者がやさしく案内するものである。

 先に断っておくと、本書はあくまでもまじめな神経科学の本である。ただ同時に、本書はある意味で「サービス精神旺盛」な本でもある。実際、性の話を適度に織り交ぜながら、読者を退屈させずに読ませてしまうというのが、この著者の真骨頂といえるだろう。そこで、そうした意味でも興味深いトピックを以下で見ることにしたい。

■ C線維と「愛撫のセンサー」

 いま、タンスの角に足の小指をぶつけてしまったとしよう。そのときおもしろいのは、痛みがいわば二度やってくることである。最初に、小指に痺れるような鋭い痛みが走る。それはたしかに痛いが、でも耐えがたいほどではない。そう思っていると、その数秒後に、今度は重くて鈍い、ズキンズキンとした痛みがやってくる。あなたが苦痛で思わず顔を歪めてしまうのは、おそらくその第二波がやってきてからであろう。

 しかし、そもそも痛みはなぜそのように二手に分かれているのだろうか。それは、痛みの信号を脳へと伝える神経線維が二種類あるからである。

 まずひとつは、A線維。その神経線維はミエリン鞘に覆われているゆえ、そこを電気信号が毎秒約30m(Aδ線維)ないし約70m(Aβ線維)の速さで伝わり、小指に異常が生じていることをいち早く知らせる。

 そしてもうひとつは、C線維。こちらはミエリン鞘に覆われておらず、毎秒約90cmという低速で信号を伝える。先に見たように、小指に鈍く重い痛み(第二波の痛み)が生じるのは、このC線維経由で信号が脳に届いてから、というわけだ。

 ところで、そのC線維について、その一部がほかにも重要な役割を果たしていることが最近の研究で明らかになってきた。その役割とは、すなわち、「他人から触れられたときに『心地よい』と感じるための信号を伝達する」という役割である。それゆえ、著者に言わせれば、「C触覚線維と呼ばれるその神経は、人と人との接触に特化した、いわば愛撫のセンサーなのである」。

 C触覚線維がそのような役割を果たしていることは、特定の神経障害の患者を調べてみるとよくわかる。A線維(とくにAα線維とAβ線維)は残っているのに、C線維(とAδ線維)が失われている患者(ノルボッテン症候群)は、やさしく腕を撫でられても、心地よいと答える割合が有意に低い。反対に、A線維は失われているが、C線維が残っている患者(急性感覚神経細胞障害)は、ほかの多くの触覚機能を喪失しているのに、漠然とした心地よさを感じることができる。つまり、C線維があるかどうかで、身体的接触を気持ちよく感じられるかどうかも変わってくるというわけである。著者がC触覚線維を「愛撫のセンサー」とみなすのも、そうした事実にもとづいてのことである。

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最終更新:9/27(火) 6:00

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