ここから本文です

英断か勇み足か? 若きローマ市長、2024年五輪開催地立候補から撤退を決定

HARBOR BUSINESS Online 9/27(火) 9:10配信

 2024年夏の五輪開催地として立候補していたローマ市は、ポピュリズム政党「五つ星運動(M5S)」出身のローマ新市長ビルジニア・ラッジ氏によって取り下げられた。その理由を彼女は「オリンピックを開催する国そして開催地は負債が積もるだけの意味でしかない。世論調査で70%のローマ市民が開催に反対している。レンガだけが競技しているようなもので、意味のない建築を生み、そして我が市には負債をもたらすだけだ」と述べている。(参照「El Espanol」)

 しかし、イタリアオリンピック委員会のジョバニ・マラゴ会長はこの決定に対して不快感を示している。曰く、「ラッジ氏は立候補取り下げの正式公表前に、マラゴ会長とイタリアパラリンピック会長のルカ・パンカリ氏に直接伝えると約束していたにも関わらず会合に現れなかった」などと主張しているという。それに対して、ラッジ市長は「マラゴ会長には個人的に事前に知らせる必要はないと思った。私の結論は2015年の6月に取ったものと同じなのだから」と記者会見の席で答えたという。なにしろ、市長選挙のときにはすでに公約としてオリンピック開催に反対していたのだから。とはいえ、もし彼女が最終決定を事前にマラゴ会長に伝えると約束しておきながら、それを実行しなかったのが事実ならば、彼女は謝罪が必要であろうが。(参照「El Espanol」)

 いずれにしても、マラゴ会長からしてみれば、ローマ前市長のイグナツィオ・マリーノ氏の市政の時に開催地への立候補が決まったのに、市長の交代で取り下げられたわけで、「政権交代の犠牲者だ」とまで言っているという。

◆ラッジ氏が撤退を決めた理由

 ラッジ市長が開催に反対する理由は次のような根拠からである。

●22億5000万ユーロ(2480億円)の負債を抱え、失業率11%のローマ市が開催地に立候補するのは無責任だ。

●1990年のサッカーワールドカップで発生した負債の返済に25年かかった。

●2006年のトリノ冬五輪の負債は現在も返済中だ。

●2009年の水泳世界大会を予定していた、(スペイン・バレンシア出身の著名建築家)カラトラバ設計による建物は、この大会がイタリアで開催されず、今も工事途中のままになっている。

●マドリードも次期五輪への立候補は開催費用を考慮して取りやめになっている。

●バルセロナオリンピックは当初予算の266%上積みされた費用がかかった。

(参照「Marca」、「El Mundo」)

 こうした事実及び、五輪開催決定後に予算がどんどん上乗せされていくというメチャクチャな光景を見てきた東京都民からすれば、ラッジ氏の決定は評価できる面もある。現に、彼女は五輪開催に反対する70%のローマ市民の意見を勇断をもって尊重した。それがまた選挙での彼女の公約でもあった。

 しかし、当然のようにオリンピックの受益者はいるわけで、「開催が決まれば、ローマ市に特別予算も組まれ、競技場の建設などで一時的ではあっても雇用が増える」という主張もあるため、ローマ財界の一部やオリンピック委員会、あるいは所属政党であるM5S党首のグリッロ氏からも「政治の素人」扱いを受けつつある。現に彼女はその他の公約についてはほぼ何もできておらず、ローマ市政をカオス状態に陥らせているのも事実だ。

 今回のラッジ市長の決定を受けて、レンツィー首相は2028年の開催に立候補する意向を表明した。果たして、ラッジ市長は「政治の素人」や「ポピュリズム政治家」扱いを打破して、評価を確立できるのか。あるいは結局は2028年の開催が決まり「お騒がせしただけの政治の素人のポピュリスト」という評価を後世に残すようになってしまうのか。日本の、東京都民ものんきに見守れる立場ではないかもしれないが、今後の行方を見守っていきたい……。

<文/白石和幸>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:10/3(月) 16:29

HARBOR BUSINESS Online

Yahoo!ニュースからのお知らせ

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。