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出口への布石か緩和強化か 玉虫色の日銀(窪田真之)

NIKKEI STYLE 9/28(水) 7:00配信

 日銀の金融政策の目標は何でしょう。最近日銀のやっていることを見ると、株価を上げること、円高を防ぐこと(できれば円安に誘導)を目的として動いているように思えます。
 中央銀行の役割は、もともとはインフレ・ファイター(インフレと戦うこと)といわれていました。つまり、物価がどんどん上昇しないように、適切に金融を引き締めることが役割と考えられていました。
 ところが日本は、インフレの懸念がなくなっただけでなく、物価がどんどん下がり続けて経済を悪化させるデフレ病に陥りました。欧州や米国まで含めて、世界的にインフレは沈静化しつつあります。原油など資源価格が急落したこともありますが、それ以上に生産が過剰になり、需要が伸び悩むようになったことが原因と考えられます。
 世界的にデフレ病が広がりつつあるともいえます。欧米では低インフレ・低金利が進むことを「日本化(ジャパナイゼーション)」と呼んでいます。日本を「デフレ先進国」として、日本化を防ぐ術がいろいろ研究されています。
 先進国ではいつの間にか、中央銀行の役割は「デフレと戦うこと」に変わりました。日銀は「2%のインフレ目標が安定的に達成されるまで」金融緩和を続けると表明しています。欧州中央銀行(ECB)もデフレと必死に戦っているところです。米連邦準備理事会(FRB)も2%のインフレを定着させるために金融緩和を実施してきました。今ようやく、その目標が達成されつつあるとして、利上げを進める準備をしています。
 日銀は当初、インフレ目標を達成するために戦っていたように見えました。ところが、一向に上昇しない物価を見て、最近は焦燥感が否めません。それでも達成時期をどんどん先送りしながら、将来2%のインフレ達成には自信があると言い続けています。
 その日銀の打つ手が最近は異様です。7月末には上場投資信託(ETF)の買い取り額を年3.3兆円から6兆円に増やす、大規模株買い支え策を発表しました。この時期に年6兆円もの巨額の資金を投じて、株を中央銀行が買う意味がわかりません。中央銀行が株を買い取るというのは、FRBも実施したことがあります。米国がリーマン・ショックという金融危機に陥った2008年に、金融機関が連鎖倒産に陥るのを防ぐために、大手金融機関の優先株などを大量に買い取りました。
 この政策は成功し、米国はなんとかリーマン・ショックを切り抜けました。FRBはその後、買い取った優先株などをすべて売却しました。日本は今、金融危機に見舞われているわけではありません。景気がいつまでもさえないだけです。この状態で日銀が6兆円もの巨額の資金を投じて、株を買い上げるというのはやや異常といわざるを得ません。
 日銀は、異次元金融緩和の出口をどう手当てするのでしょう? 日銀が永遠に民間企業の株を保有し続けるのは、社会主義国家でない限り、普通では考えられないことです。あまりに巨額の株式を保有してしまうと将来、日銀が保有株の売却を検討するとき、株式市場にショックを与えるので、株の売却(金融政策の出口)をいっさい口に出せなくなってしまいます。
 9月21日には日銀の新たな金融政策が発表されました。マイナス金利の深掘りはありませんでしたが、今回の柱は長期金利がゼロ%程度になるようにコントロールすることです。それまで日銀は債券の保有高が毎年80兆円増えるように債券を買い付けることを目標としてきましたが、玉不足で債券が買えなくなるときに備え、80兆円を目標から「メド」に格下げしました。
 また、2%の物価目標が達成されても即座に金融緩和をやめず、安定的に2%以上維持できるまで続けるとしました。これを日銀はオーバーシュート型コミットメントといっています。いつか来る金融政策の出口への不安の払拭を狙ったものと考えられます。
 さらに、いつも通りですが、さらなる量的緩和の拡大も、マイナス金利の深掘りも選択肢として温存しているとしています。
 日銀は今回、追加緩和は行いませんでした。むしろ、新しい金融政策では債券保有高を年80兆円増やす量的緩和を目標から「メド」に格下げしたので、やや引き締め色を出しています。でもそれを強調すると「日銀が量的緩和縮小を検討している」と市場にショックが走るので、言いたくても言えないのでしょう。
 引き締めと取られると円高が進むリスクがあることから、あえてオーバーシュート型コミットメントを新規に導入して、金融緩和の出口の議論を封じ込めようとしたものと考えられます。
 新しい金融政策は玉虫色の政策です。見方によっては将来の金融緩和の出口への布石とも取れるし、一段と緩和を強化する準備とも取れます。将来、金融政策の教科書に載る重要事例となるのではないでしょうか。
プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏とレオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏が交代で執筆します。
窪田 真之(くぼた・まさゆき) 楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト。1961年生まれ。84年慶応義塾大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行、91年ニューヨーク駐在。92年住銀投資顧問(当時)日本株ファンドマネジャー、99年大和住銀投信投資顧問日本株シニア・ファンドマネジャー。2014年楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト、15年から所長兼務。大和住銀投信投資顧問では日本株運用歴25年のファンドマネジャーとして活躍した。著書に「投資脳を鍛える!株の実戦トレーニング」(日本経済新聞出版社)など多数。

最終更新:9/28(水) 7:00

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