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国際法による説明なしに法の秩序に挑戦する中国に、厳しい南シナ海判決

Meiji.net 9/28(水) 12:52配信

国際法による説明なしに法の秩序に挑戦する中国に、厳しい南シナ海判決
奥脇 直也(明治大学 法科大学院 教授)

 南シナ海におけるフィリピンと中国の紛争について、7月12日、オランダのハーグにある国際仲裁裁判所は 中国が主張するこの海域における歴史的権利は、国際法上根拠がないと断定しました。
 しかし、中国はこの判決について「受入れず、認めない」と表明し、事態はまったく変わっていないように見えます。本当に国際法は効力がなく、無力なのでしょうか。


◇裁判が万能薬でない国際法

 国際法は、一般の人にはあまり馴染みがなく、どのようなものか理解している人は少ないかもしれません。
 一言で言えば、主として国家と国家の関係を規律する法ですが、日本における六法全書のように、法典としてまとめられているわけではなく、国の領域(領土)の問題や、人権の問題、海洋における領域や漁業権の問題など、様々な問題ごとに各国間で取り決められた条約や協定、さらに慣習法などによって構成されています。
 国際関係における国家の存立の基盤をお互いに尊重し、かつ維持していくということが基本になっています。

 実際、国際法には統一的な法の機関はありませんし、国内におけるような裁判所もありません。それで法なのかと思う人は多いかもしれません。
 法を犯した人を罰することによって社会の安定を図る国内法を基準に考えるとそうですが、基本的に国際法とは、国家間で合意事項をベースにして外交的コミュニケーションを効率的に行うためのツール、と考えればわかりやすいのではないでしょうか。
 
 だから、それは紛争が生じた場合でも、裁判に直ちに結び付くわけではなく、国際法の概念と確定したルールを用いてコミュニケーションすることによって、国家が相互に何を意図しているか、より正確に理解可能にする。
 これが国際法のひとつの大きな機能なのです。


◇他国に受入れられることで、新しい概念も国際法になる

 国際法は、裁くためのツールというより、まずは国家相互の存立を維持していくためのコミュニケーションのツールなので、遵守するだけでなく、例えば産業や様々な技術の進歩や革新などに応じて生じる国際状況の変化に応じて、随時、新しい概念が取入れられ、その結果、変わっていくという特徴をもっています。

 例えば、国際的に確定した国家の領域には基本的に他国から自由に出入りすることはできませんが、国際郵便の発達により、万国郵便連合が組織され、連合員を構成する国家の間では国際郵便の国境通過が自由となりました。
 国家の領域で仕切られていることの不都合を是正する条約、つまり国際法が、郵便技術の発達に応じて新たに創られ、国際郵便業務が国際公共事務として認められるようになったわけです。

 また、国連海洋法条約により200海里を排他的経済水域(EEZ)とすることは国際法として認められていますが、これは1945年にアメリカのトルーマン大統領が、自国沿岸の大陸棚の排他的権利を主張し、また自国の沿岸漁業者を他国の遠洋漁業者から守るために排他的管轄権を宣言したことが始まりです。
 EEZの概念がなかった当時は、トルーマン大統領の一方的な宣言は、伝統的な公海の自由に反する違法行為と見ることもできます。

 しかし、大陸棚やEEZの概念が諸国によって受入れられ、国家間の同意に基づいた条約(あるいは慣習法)となったことで、この概念は新しい制度、すなわち新しい国際法として確立されました。
 一度確立された国際法は、外交のコミュニケーションのツールとなります。EEZの場合は、国家間で漁業領域の争いが起きたときには、この概念を土俵として、当事国同士が外交や交渉を行うことができるわけです。

 この例のように、どこで違法が合法になるのかは、国際法では非常に微妙です。確立された国際法を遵守しながらも、新しい法を提案する権利をそれぞれの国がもっているからです。

 しかし、少なくとも一方的に宣言しただけで、それが国際的な新しい概念、新しい国際法になるということでもありません。新しい提案をする場合は、それが自国のエゴの押しつけではないのか、他国が受入れられることであるかを確認するとともに、その新しい概念が理解され共有されることを目指して、法的概念として説明していくことが重要です。


◇当事国が受入れ得るオプションを残す国際裁判

 では、国際裁判所の役割は何かといえば、通常は、いずれかの国の行為をあからさまに非難することではありません。
 仮にそのような判決を出しても、国際裁判所には判決を執行するメカニズムがありません。
 国際裁判所で当事国が互いに法的な議論をすることで、裁判所側は当事国が何を実現することを目指しているのか、何を求めているのかを把握し、その判決がその国によって受け入れうるような行動の余地を残すことも多いのです。
 そのため国際裁判は、紛争当事国と裁判所による協働のプロセスであるといわれています。
 もともと執行制度をもっていない国際裁判所にとっては、どのような判決が実現可能なのかを見越し、当事国がともに受入れ得るような余地、オプションを残すことが重要なのです。ときには、当事国間で交渉しなさいと、交渉命令判決を出す場合もあります。

 北海における大陸棚の境界を巡って西ドイツ、デンマーク、オランダが争った北海大陸棚事件では、1969年に国際司法裁判所が、境界画定は衡平な結果を実現するように合意によって行わなければならないとし、当事国に誠実に交渉を行うようにという判決を出しました。
 その際、いままでの概念やルールでは各国が合意することができなかったため、裁判所側は衡平原則という新たなルールを提示し、それに添って交渉するように指示が出されました。
 交渉が合意に至るように、裁判所側が交渉の土俵を新たに設定する提案を行ったわけです。すると、いままで膠着していた交渉が合意に向かいました。

 このように国際裁判所は、実現できない判決を出しても意味がないので、当事国の意思を汲み上げ、その紛争の特殊な事情を取り込みながら、必ずしも他の例には適用できなくても、このケースでは受入れられ得るという余地のある判決を出すものなのです。

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最終更新:9/28(水) 12:52

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