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「悪いヤツほど出世する」理由とは? 企業が依存する「リーダー教育産業」の危うさ

NIKKEI STYLE 9/28(水) 11:20配信

大繁盛のリーダー教育産業

 今日では「リーダーシップ」という言葉を毎日のように耳にするし、リーダーシップ絡みの活動も星の数ほどある。ためしに「リーダーシップ」という言葉を論文検索サービスのグーグル・スカラーで検索してみたら、264万件もヒットした。一般のグーグルで検索すると1億4800万件とすさまじい数である。アマゾンで検索をかけると、11万7000件のタイトルがヒットした。

「リーダーシップ」がこうもあちこちに登場するのは、学者もそうでない人も、リーダーシップが企業や組織のパフォーマンスのカギを握る重要な概念だと信じているからだ。このリーダーシップ信仰は根強く、科学的な証拠はあまりないというのに揺るぎもしない。

 リーダーシップ研究の第一人者だったジェームス・メインドルは、組織のパフォーマンスの善し悪しをリーダーシップに求めるこうした風潮を「リーダーシップ・ロマンス」と呼んだ。メインドルらの著書『リーダーシップのロマンス』では、「リーダーシップという概念は、組織の現実に比して不釣り合いに高い地位と重要性を与えられることになった。社会がリーダーシップをひどく重視するようになった結果、この概念は学問的に裏付けのないような光輝を帯びるようになったのである」と指摘されている。

 メインドルらによれば、一般向けの出版物でリーダーシップが言及される頻度は、景気と密接な関係があるという。景気がよいときほど、リーダーシップへの言及やリーダーシップ研究が増えるというのである。この傾向は産業を問わずに認められるという。この結果を踏まえてメインドルは、リーダーシップという概念は企業の大幅な業績改善または悪化を説明するために使われており、企業の業績は一人の人間の力でコントロールできるとする単純化が行われていると指摘する。逆に言えば、業績が悪いときもリーダーをスケープゴートにして、クビをすげ替えればことが済む。

 リーダーシップがこれほど重要であって、組織のパフォーマンスが全面的に依存しているのだとすれば、高等教育機関が志願者を増やし寄付を募ろうとしてリーダーシップ教育に力を入れるのも当然だろう。多くの大学が、「我が校はリーダーシップ開発に力を入れている」とか「多くのリーダーを輩出してきた」と喧伝する。そしてビジネススクールは言うまでもなく、他の専門職大学院や一般の大学も、建学の理念としてリーダーの育成を掲げている。たとえばハーバード・ビジネススクールの使命は「世界を変えるようなリーダーの育成」だ。ウェイクフォレスト大学は「これからリーダーになる学生諸君に世界を体験させる」ことを挙げている。マッキンゼー・クォータリー誌によれば、全米で数百にのぼる大学がリーダーシップ・コースを用意しているという。また規模や特色を問わずあらゆる大学で、リーダーシップ開発センターといったものを設置するケースが増えている。これはもちろん一つにはリーダーシップ教育のためだが、もう一つ、資金集めの手段でもあるらしい。

 リーダーシップ教育産業の巨大さを物語るもう一つの要素は、投入される時間と資金である。ケネディ・スクールの講師を務めるバーバラ・ケラーマンは、全米で年間500億ドルが企業内のリーダーシップ研修に投じられていると推定する。アメリカ訓練開発協会(ASTD)が2012年に発表した報告によれば、2011年の社員教育研修費用は1562億ドルだという。もちろんこの中には、リーダーシップ研修だけでなく、品質管理やスキル開発なども含まれている。ASTDは、リーダーシップ関連の教育研修は全体の12.6%と見込んでおり、これに従えば年間200億ドルということになる。マッキンゼーのあるコンサルタントは、アメリカ企業のリーダーシップ開発費用は年間140億ドルと推定している。
(ジェフリー・フェファー著『悪いヤツほど出世する』序章より、村井章子訳)

NIKKEI STYLE

最終更新:9/28(水) 11:20

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