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クルマのメディアが変わる?──注目すべきメルセデスの試み

GQ JAPAN 9/28(水) 16:11配信

自動車離れは欧州でも同じとか。新しい世代は、少なくても旧来のメディアに頼らない。クルマと社会の交差点にある「クルマ文化」にストップかゴーの判定を下す好評連載。今回のテーマはメルセデス・ベンツが催したおもしろい試乗会について。

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メルセデス・ベンツの日本法人から僕のところにおもしろい連絡があった。「あまりクルマとは関係ないかもしれない試乗会で、かつオガワさん一人で参加していただくことになるんですが……」(大意)というものだった。宮澤賢治の「どんぐりと山猫」風にいうなら“めんどなしじょうかいしますから、おいでんなさい”とでもなるだろうか。呼ばれているほうより呼んでいるほうが当惑の体というところになんとも興味を惹かれた。

試乗場所はオーストリアのグラーツを起点に、ハンガリーとルーマニア。ブダペストとブカレストという首都もコースに組み込まれているものの、聞いたことのない地名が予定表にはずらずらと並べてある。しかももうひとつ、フツウの試乗会とは違うのは、「#ChasingStars」と銘打たれていることだ。ご覧のとおりハッシュタグがついている。

はたして試乗会は、メルセデス・ベンツの新型車といえるGLCクーペが“主人公”。試乗記はこのGQウェブにも寄稿させてもらったとおりなのでここでは割愛する。クルマ以外にもうひとつ興味を惹かれたのが、ハッシュタグつきの新しいスタイルの試乗会だったことだ。つまりもうひとつの“主人公”はブロガーなどSNSでそれなりに人気のあるひとたち。僕のほかに参加していたのは、モスクワを含めて欧州人のそういうひとたちばかりで、自動車ジャーナリストは少なかった。

メルセデス・ベンツのねらいは、試乗会の途中でどんどんハッシュタグをつけて専用サイトに印象を投稿してもらうことだった。僕もブダペストやグラーツは過去に訪れたことがあるが、郊外を走ったりそこで食事をしたりするのは初めてだった。「たいていの人は初めてだと思います。そのために下見をやっておもしろがってもらえるコースを設定しました」。同行した本社の広報部員がそう説明してくれた。たしかにおもしろいことがいろいろあった。

メルセデス・ベンツがGLCクーペのためにいっぷう変わった試乗会として開催した「#ChasingStars」。1日500km以上走って、ボニャルツバシュ(ハンガリー)、ブダペスト(同)、アラド(ルーマニア)、アルバユリア(同)、トランザルピナ(同)、トランスファガラシャン(同)、そして終着点であるルーマニアの首都ブカレストとまるまる4日間をかけてのドライブであった。

おもしろいのは、道を含めた土地の光景の多様性である。そこで参加者はみなカメラとスマートフォンを両方とも抱えて動く。スマートフォンでその場で撮った画像をアップしなくてはならないからだ(きまりはないが)。「大変だよ」と本音がもれることもある。情報の即時性はおそらくないのだけれど、フォロワーのためだろう。いちど始めるとやめられないのだ。モスクワから来た20代のブロガーのコンビは、じつにまめになんでも撮影してアップロードしている。楽しいかい?と訊くと、「楽しいんだよね」と笑顔で応えてくれた。

クルマはいまも「トップギア」の人気が衰えないようにテレビや雑誌や新聞といったオールドメディアとの相性がいいとされてきた。日本では専門誌の売れ行きにかげりが出てきているが、インターネットでのクルマ関連コンテンツの閲覧率は高い。ただしウェブマガジンですらもはや若い世代間では「閲覧率が下がっている」(メルセデス・ベンツ広報担当者)そうだ。あれこれ模索するなか、最新のメディアとしてとらえられたのが、試乗記にハッシュタグをつけてのソーシャルメディアへのプッシュ型配信ということのようだ。

日本でもそうなってきているよね?と現地で他国のブロガーに訊かれて、たしかに自動車メーカーはたいていソーシャルメディアには熱心だと僕は答えたものの、エンターテイメント性にはまだまだ乏しいし発展途上のメディアであるという思いはそのままだ。でも進化とか熟成とかせずに、別のメディアにとってかわられてしまうのが、この種のソーシャルメディアの進み方なのかもしれない。

ルーマニアの山岳地帯で一所懸命アップロードしている欧州人の彼らの姿を見ながら僕は考えたのだが、少なくともアップロードしたコンテンツに反応がないとソーシャルメディアは成立しない。日本のようにクルマそのものへの興味が薄れていく世の中でフォローや書き込みをどう活性化させていくか。これがもっとも興味を惹かれるおもしろいテーマである。新しいメディアと自動車の関係におけるよき未来に「Go」を。

文・小川フミオ

最終更新:9/28(水) 16:11

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