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時代劇のセリフ「芸は売っても体は売らない」は本当か?

BEST TIMES 9/29(木) 12:00配信

時代劇などで、客の男にしつこく言い寄られた芸者が、
「あたしはね、芸は売っても体は売らない芸者だよ」
と、颯爽と啖呵を切る場面がある。たしかに、かっこいい。ほれぼれするといおうか。芸に生きる女の意気地と誇りと言うわけである。「あたしは遊女とは違う」と宣言していることになろうか。しかし、これは買いかぶりである。美化しすぎといってもよい。芸者が体を売らないのはあくまで建前であり、実際は「転ぶ」、つまり体を売るのは常識だった。とくに深川の芸者はすぐに転ぶので有名だった。

遊女より芸者の格のほうが上だと理解している人も少なくない。ところが、これも誤解である。遊里では、とくに吉原では、遊女のほうが芸者よりも格上であり、芸者は遊女にさからうことなどいっさい許されなかった。遊里の主役はあくまで遊女であり、芸者は宴席の引き立て役にすぎなかった。「芸者は客と寝てはならない」とされていたのは、遊女の領分を侵すことにつながるからだった。しかし、先述したように、芸者が客と寝ないのは表向きであり、実際は金さえ出せばすぐに転んだ。

『いまよう十二鑑』(鳥居清長)に、深川芸者が客の男と情交している光景が描かれている。男が言う。
「てめえ、このごろ無性に転ぶそうだ。あんまり転ぶな。評判が悪い」
「アア、もう、馬鹿を言わずと、もっときつく突いてくんなヨ。いっそいくよ」
女は男をセックスに没頭させることで、はぐらかそうとしている。

いっぽう『花以嘉多』(歌川国芳、天保8年)には、料理屋の奥座敷とおぼしき場所で、客の男が芸者ふたりを相手にする光景が描かれている。いわゆる3Pプレイといおうか。こんな淫蕩(いんとう)で奔放な性行為ができるのも、芸者相手だからこそだった。遊女は3Pプレイなどけっして受け入れないし、女郎屋も許すはずがない。そんなことを自由にさせたら商売が成り立たないからである。建前としては体を売らない芸者だからこそ、女郎屋の規制を受けることなく、客の男と放恣(ほうし)で淫乱な行為もできた。

要するに、遊女はおおっぴらに客の男と寝る。芸者は隠れて客の男と寝る。それだけの違いである。金を受け取るのは遊女も芸者も同じだった。

文/永井 義男

最終更新:9/29(木) 12:00

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