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自衛隊をリアルに描くサスペンス3冊

Book Bang 9/29(木) 20:45配信

 大ヒット中の映画『シン・ゴジラ』では、巨大不明生物から国民を守るべく、自衛隊が(半ば超法規的に)防衛出動する。災害派遣だと武器が使えないためらしいが、ゴジラ相手に防衛出動はどうなのかと石破茂元防衛大臣が疑問を呈したり、議論百出。自衛隊の複雑な立場をはからずも浮き彫りにした格好だが、小説の世界でも、今の自衛隊をリアルに描くサスペンスは少なくない。最近文庫化された3冊を紹介する。

 月村了衛『土漠の花』の主役は、ソマリアの海賊に対処すべく派遣された陸上自衛隊第一空挺団の精鋭たち。墜落したヘリの捜索救助に赴いたところ、氏族間抗争に巻き込まれて銃撃され、隊員12人のうち5人が瞬く間に死亡。生き残った7人は、氏族長の娘を守りつつ、70キロ彼方の活動拠点をめざし、壮絶な撤退戦を開始する。手に汗握る後半のアクションはさながらソマリア版『七人の侍』。細部を徹底的にリアルに描きながら、物語は冒険活劇の王道を突っ走る。

 神家正成『深山の桜』は、南スーダン共和国の陸上自衛隊施設部隊宿営地が舞台。隊員の携帯ゲーム機や食料品が盗まれるという小さな出来事から始まって、やがて小銃弾42発の紛失という大事件が勃発。本格ミステリ的な謎解きが、現在の自衛隊が直面する現実と密接にリンクしてゆく。著者は父の代からの自衛官で、陸上自衛隊富士学校修了後、74式戦車操縦手として勤務。退官したのち、本書で『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞を射止め、作家デビューを飾った。

 対する未須本有生『推定脅威』は、松本清張賞に輝く航空サスペンス。小説の主役は、防衛省技術研究本部が開発した最新鋭の国産自衛隊機TF-1。その墜落事故をめぐる謎に、世代の違う男女の技術屋コンビが挑む。こちらの著者は、東大工学部航空学科卒業後、大手メーカーで戦闘機の設計に携わった経歴の持ち主。それだけに、航空機まわりの描写はリアルそのもの。“史上もっとも戦闘機に詳しい書き手による、理系ミステリーの決定版”という謳い文句にウソはない。

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
※「週刊新潮」2016年9月15日号掲載

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最終更新:9/29(木) 20:45

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