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映画『世界一キライなあなたに』: 四肢麻痺の患者を介護し、そして恋に落ちる感涙ストーリー

ローリングストーン日本版 9/29(木) 11:00配信

エミリア・クラークが、四肢麻痺の患者を介護し、そして恋に落ちる感涙ストーリー。

前世紀の『ある愛の詩』からミレニアル世代の『きっと、星のせいじゃない。』のような作品まで、またニコラス・スパークスのあらゆる作品も含めて、涙腺崩壊系の映画において、死とは究極の媚薬である。ただ、『世界一キライなあなたに』には注意してほしい。ジョジョ・モイーズの2012年のベストセラー小説を映画化したこの作品を、私は多くの女性たちに囲まれて鑑賞したが、彼女たちは泣いたり笑ったりを繰り返していた。観客の中にいた少数の男性たちは平然と腰かけ、この映画を見ることになった運命を甘んじて受け入れていたようだが、もしかすると感情を押し殺していたのかもしれない。驚いたことに、『世界一キライなあなたに』は過酷な忍耐力テストではないのだ。

【動画あり】映画『世界一キライなあなたに』: 四肢麻痺の患者を介護し、そして恋に落ちる感涙ストーリー

これは、絶望的な恋人同士を演じた、魅力溢れる2人の役者によるところが大きい。エミリア・クラークは、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場するドラゴンの母である、ブロンドのカリーシ役で最もよく知られている。しかし、本作で彼女が演じるのは、騒々しい労働者階級のイギリス人家庭で育った、ブルネットヘアの平凡な女性ルイーザ・"ルー"・クラークだ。ルーは、四肢麻痺を患う上流階級のウィル・トレイナーの介護を務めることになる。ウィルを愛嬌たっぷりに演じるのは、『ハンガー・ゲーム』シリーズのサム・クラフリン。ロンドンに住むウィルは、信じられないほどハンサムな実業家で、2年前にバイクの事故で麻痺を負い、映画『プロポーズ』のように独身を謳歌できたかもしれないそれまでの生活が一変した。彼の裕福な家族は、ルーの質素な住まいがある丘のすぐそばに、城を所有している。

おしゃべり好きで、えくぼのあるルー。ファッショニスタを卒倒させるかもしれない、ミニー・マウスや水玉模様がワードローブの彼女が、スイスの病院でウィルの母(控えめで素晴らしい演技のジャネット・マクティア)に思いがけなく採用される。自殺ほう助を願う息子の気を紛らわすためだ。1991年の陰鬱な映画『愛の選択』で、キャンベル・スコットに生きる気力を取り戻させようと微笑んだジュリア・ロバーツ以来、女優がマンガの死神のごとく狂気的に歯をむき出して笑うことはなかった。しかし、ここでクラークはそれを体現して見せる。人工甘味料的な役柄に、自然な温もりとユーモアをにじませながら。

もちろん、彼女はもう少し控えめにすることもできただろう。だが、クラークはもともと愛らしく、クラフリンは見事に冷静で辛辣だ。ウィルはルーにモーツァルトや外国映画を教え、密かにマイケル・ベイの『アルマゲドン』が大好きなことを認める(私には理解できない)。彼はルーのファッションセンスをバカにしているが、定石通り、ありのままの彼女に心を奪われるのだ。2人の役者がともに、力強い印象を残す場面が幾つかある。ウィルが車椅子にルーを乗せて、ダンスフロアを回転するシーン。彼女の首筋をじっと見つめ、彼は「僕が車椅子に乗っていなかったら、キミの胸には近寄れなかっただろうね」と語る。2人は何度かPG-13程度の軽いキスをして、ルーはウィルに生きることで広がる可能性を見せようとする。しかし、セックスと鬱憤が絡み合い事態が不穏になると、映画はそこから目を背けさせる。脚本も手がけたモイーズの原作のごとく、映画は苦しみを美しさで取り繕っている。ウィルの世話にまつわる困難な役割を担うのは、男性介護士で彼を見守るネイサン(スティーブン・ピーコック)。どのキャラクターも素晴らしく、愛さずにはいられない。

典型的なハリウッドのナンセンス映画でしかない作品に、私が不意を突かれているようだとしたら、それは『世界一キライなあなたに』がシーア・シェアイックの長編監督デビュー作だから。シェアイックはイギリス演劇界を牽引するベテランであり、お涙頂戴もので揶揄されることなど無縁の人物である。アメリカの主要な障害者団体は、この映画を批判している。深刻な障害を抱えながらも充実した豊かな人生を送る多くの人々に、自殺したほうが良いかもしれないと暗示しているというのだ。私は、『世界一キライなあなたに』がそのような作品とは思わない。しかし、映画で取り上げている本質的な問題に、十分に深く向き合っていないことも確かだ。興行成績につながりやすい、涙を誘うストーリーの範囲内にとどまっている。それでも、恋愛映画として申し分ないビタースウィートな作品で、2人の若手スターの輝きに魅せられる観客を、そう責めることはできない。

『世界一キライなあなたに』
監督:テア・シェアイック
配給:ワーナー・ブラザース映画
出演:エミリア・クラーク、サム・クラフリン、ジャネット・マクティア、チャールズ・ダンス、ブレンダン・コイルほか
2016年10月1日(土)より全国の劇場にて順次公開
https://warnerbros.co.jp/c/movies/sekakira/

Translation by Sayaka Honma

Peter Travers

最終更新:9/29(木) 11:00

ローリングストーン日本版

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