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「学力テストでトップ級」秋田県は、なぜダメなのか

デイリー新潮 9/30(金) 13:51配信

■学力神話のウソ(1)

 9月29日、文部科学省が2016年の「全国学力・学習状況調査」の結果を発表した。昨年まで9年連続でトップ級の成績を残してきた秋田県は、小学校の国語Aと算数A・Bで石川県にトップを譲ったものの、小中の全科目で5位以内をキープし、その高学力ぶりを見せつけた。

 かつて最下位クラスの常連だった沖縄県が、2009年から始まった秋田県との教員交流をきっかけに、ついに今年、小学校の全てで全国平均を上回る好成績を出したこともあり、これからも全国の学校関係者による「秋田詣で」は続きそうだ。

 そんな風潮に異を唱えるのが、ベストセラー『里山資本主義』の著者で、地域再生の専門家の藻谷浩介さんだ。「学力テストの点数など、地域に何のメリットももたらしません。教育がそうやって間違った方向にエネルギーを注いでいると、むしろ地域の活力が失われる危険さえあります」と警鐘を鳴らす。

 自身が、山口県の公立高校から東京大学法学部に現役合格した「お受験エリート」でありながら、藻谷さんはなぜ「学力テストの点数に意味はない」と言い切るのか? 

 藻谷さんの近著『和の国富論』(新潮社刊)から、「学級崩壊立て直し請負人」の異名を持つ元小学校教師・菊池省三さんとの対談の一部を再構成してお伝えしよう。

■「学力」と「まともな社会人」

藻谷 菊池先生はNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』をはじめ各メディアで絶賛されていますが、一方で教師一般に対する世間の風当たりは非常に厳しい。どうしてこれほど教師が悪しざまに批判されるようになってしまったんでしょうか?

菊池 うーん、新聞記者の方に聞いたんですが、街角で「最近の経済についてどう思いますか?」と訊くと大抵の人は「いや、ちょっと……」とか逃げていくんだけど、「最近の学校教育についてどう思いますか?」と訊くと100人が100通りの答えをするとか。やっぱり、みんな経験者だから一家言ある。

藻谷 まさに1億総評論家。

菊池 たしかに批判されても仕方がない面もありますけど、それが教師に対してなのか、学校組織に対してなのか、あるいは教育委員会や文部科学省に対してなのかは、もう少し意識して区別して欲しいなとは思います。

 教師に対して、ということであれば、私は30年以上現場で見てきましたが、正直そんなにレベルが下がったとは思っていません。この激変していく家庭や地域の環境の中で、何とか一定の水準を保とうと一生懸命頑張っていると思います。

藻谷 そうですよね。他の分野でもそうですが、若い世代も真面目に熱心にやっています。

菊池 はい。ただ、教師自身が知識注入型の教育を受けてきて、環境が変わった今でもそのやり方を押し通そうと頑張るから、異常に疲労困憊してしまっている面があるような気がします。そこは、もっと文科省や教育委員会の方で音頭を取って方針転換を示して欲しい。でも彼ら自身に昔のやり方を変えなくてはいけないという危機感があまりないもんだから……。

藻谷 つまり、未だに学力テストの点数なんかに拘っている。

菊池 私だってもちろん学力はないよりあった方がいいと思っています。でもそれ以前に、学校という場でさまざまな子たちが関わり合う中で、社会性を身につけていくことが大事です。特に公教育の現場はそこを重視してやっているわけですが、それを文科省や教育委員会がはっきり国民に伝えていないし、保護者の方もそれを受け止めようとしない。

藻谷 つまり「お前らは余計なことをせずに、黙って子どものテストの点数だけ上げてりゃいいんだよ、コノヤロー!」みたいな。そういったモンスター・ペアレントは、「自分の子どもをまともな社会人に育て上げて欲しい」という考えはないんですかね?

菊池 まったくない。あるいは「まともな社会人」の定義が一般常識からあまりにかけ離れている。自分らしさを発揮しながら、他者とも協力して、集団の中で結果を出していける人が「まともな社会人」だということが分かっていない。だから、まずそれを理解してもらおうと説明すると、異常なまでの攻撃が返ってくる。

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最終更新:10/6(木) 12:22

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