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科学技術との出合いが少年を変えた。圧倒的なスケールで描く大作。〈インタビュー〉木内昇『光炎の人』

Book Bang 9/30(金) 6:00配信

技術は人を幸せにする――そう信じてもがく男の一生を通じ、技術に潜む光と闇を圧倒的スケールで描ききった本作。時代の変化の中で懸命に生きる人たちを丁寧に描き、深みのある作品を発表し続けている著者に、話をうかがった。

技術がもたらす恩恵と危険性

――電気や電波の開発に携わる一技術者の運命に、大きな時代の流れを重ねて描く『光炎の人』には東日本大震災が大きな影響を与えたそうですが、初めに小説のなりたちからうかがえますか。

木内 『光炎の人』について考え始めたのは震災が起きる前で、最初は原発事故というのは念頭になかったんです。

 科学や技術というのは、往々にして戦争や軍事に利用されます。しかし技術者は、開発した技術がどう使われていくのかに責任が持てません。技術者はとにかく技術を開発したいし、悪用されるかもしれないということにまではなかなか考えが及ばない。その結果、すぐれた兵器が生み出されてしまうこともある。どんな分野にもある危険性ですけど、なかでも技術は一番、その危険にさらされています。そういうことを小説に書けないだろうかと考えていたところに、三・一一の東日本大震災が起きました。

――震災をきっかけに、というより、もっと長いスパンで考えてこられた主題なんですね。

木内 震災前に戦争と技術について考えていた時間のほうが長いですけど、三・一一の原発事故で、自分の考えがより深まった気がします。

 原発というのはあからさまな軍事技術ではありません。電気を供給して私たちの生活を楽にしてくれるもので、誰もがその恩恵にあずかってきました。けれど、ああいう途方もない事故が起きると、人々の暮らしを根こそぎ奪ってしまう。それを目の当たりにしたとき、技術や技術者の責任の取り方について改めて考えさせられました。

――そうした社会状況の変化は、主人公の音三郎の描き方に影響しましたか。

木内 そうですね。私はこれまでずっと、脇役のような名もなき人を主人公にしてきたので、今回は、すごい成功を収めてみんなが「やったー」というようなオーソドックスな人物を一度、書いてみたいなと思っていたんです。貧乏な男がのしあがっていく話を書きたい気持ちがあったはずなのに、社会のいろいろな動きを見ているうちに、「そんなに簡単じゃない」って、いつもの癖が出てしまいました(笑)。

 一生懸命に開発に取り組む音三郎を、頑張れと応援する気持ちで上巻を読んだ読者が、下巻で様変わりしていく彼を見てどう感じるかは気になりますね。

――たしかに、どんどん変わっていく音三郎にはハラハラさせられます。ただ、立身出世の物語には大体、いいことしか書かれないけど、実際に成功してのしあがっていく人はいろいろなものを切り捨てざるをえないだろうな、とも感じました。

木内 成功していく人って、ありのままを書いていったらおそらく後ろ暗い出来事も多いんでしょうね。すがすがしいだけの人なんていないんじゃないでしょうか。でも、音三郎がもっとずるい悪人だったら、うまく切り抜けられた場面もあったんじゃないかと思うんです。技術開発のことだけ考えていたい純粋な人だからこそ、いろんな壁にぶつかり、思わぬ選択をするのだと思います。

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最終更新:9/30(金) 6:00

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