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「アメリカらしく、優秀である」白人、移民への不満

Wedge 9/30(金) 11:10配信

 11月のアメリカ大統領選を控え、女性初の大統領の座を目指すヒラリー・クリントン民主党候補と、移民排斥など過激な言動で旋風を起こしているドナルド・トランプ共和党候補の争いが注目を集めている。移民の国と言われるアメリカで、なぜこれほどトランプは支持を集めているのか。『移民大国アメリカ』(ちくま新書)を上梓した成蹊大学法学部の西山隆行教授にアメリカ国内での移民像と実際、移民政策、エスニック集団の活動や影響力などについて話を聞いた。

――アメリカ大統領選でのトランプ旋風が止まりません。移民の国という日本人のイメージに反し、トランプ氏の移民排斥発言が支持される理由はどこにあるのでしょうか?

西山:様々な要因が複合的に絡んでいるので、一概には言い切れません。しかし、白人の中でマイノリティに対する危機感があるのは間違いないのだろうと思いますね。

 というのも、アメリカ国内における中南米系を除く白人の人口はどんどん減少していて、1960年には総人口の85%を占めていた白人の割合が、2050年には47%まで低下すると予測されています。白人は増え続ける中南米系やアジア系の移民に対し、自分たちがマジョリティではなくなってしまうことへの危機感が非常に強い。

――確認したいのですが、ここで言う白人とはアングロサクソンでプロテスタントのいわゆるWASPではないですよね?

西山:トランプを支持している人たちは必ずしもWASPではありません。宗教的にはカソリックで、イタリア系やポーランド系で、WASPとは違い決して社会的に成功してはいない。祖先が2世代前くらいの20世紀初頭にアメリカへ移住し、差別を受けながら苦労して生活してきた人たちで、裕福ではありません。ただ、福祉に依存せずに生活してきた自負があるゆえに、他人の福祉のために税金を払いたいとは思わないという人たちがトランプを支持しているんです。

――アメリカ国内において、白人は黒人や中南米系などが福祉に頼って生活しているというイメージを持っているのでしょうか?

西山:アメリカである人が言うところでは、「アメリカらしい」「アメリカらしくない」と「優秀である」「劣っている」という2つの軸で考えると、白人は「アメリカらしく、優秀である」、黒人は「アメリカらしく、劣っている」と考えているようです。また、アジア系は「アメリカらしくなく、優秀である」と言われ、アメリカ社会ではモデルマイノリティという言い方もされます。これに対し、最近増加している中南米系に関しては、「アメリカらしくなく、劣っている」とかなりの人が考えているようです。

 この「アメリカらしくない」というのは、最近アメリカ南部では英語ではなく、スペイン語しか話さない人たちがいることも影響しているのではないでしょうか。

――白人の人たちが、他の人種に描いているイメージはわかりました。実際、中南米系の人たちは経済的に成功していないのでしょうか?

西山:成功している人は比較的多いと思いますね。

 まず、福祉に依存している割合を黒人と中南米系の貧困者で比較すると、黒人の貧困者は福祉に依存する度合いが高く、中南米系の貧困者は働こうという意識が強い。

 しかし、08年のリーマン・ショックやサブプライムローン危機が中南米系の人たちに与えた影響は重大です。彼らは、サブプライムローン以前はしっかりと働き、それなりの蓄えもし、アメリカ社会で成功するために郊外に自宅を購入し、都市部へ出勤するために車も買った。しかし、その車や住宅のサブプライムローンが破綻した。こうして社会的上昇のキッカケを掴んでいたにもかかわらず、サブプライムローンにより仕事や生活が立ち行かなくなる人たちも一定数います。そうした人たちが失業後、福祉に頼ることとなってしまった。

 黒人と中南米系に対する勤労意欲のイメージがない白人からすれば、やはり中南米系も黒人と同じく福祉に頼っているじゃないかという意識が強くなったと言われています。しかし、実際には中南米系でも、黒人でも真面目に働いている人たちは多くいます。メディアなどで報道されるのは、どうしても福祉に頼って生活している人なので、そういうイメージが強くなってしまったのかなと。

――ここで西山先生の専門である犯罪政策に関連することを聞きたいのですが、移民が多い国でよく言われるのは、移民が多くなると治安が悪化すると。アメリカ国内では移民と犯罪率は関係があるのでしょうか?

西山:一般論として、移民は犯罪を行いたくないんです。罪を犯せば、国外追放されますからね。ですから、アメリカ国内でずっと暮らしていきたいと思っている一般的な生活をしている移民の犯罪率は、そうでない人達と比べ低いと言われています。

 ただ、刑務所に収監されている人や、警察のお世話になっている人の数で言えば、移民の方が圧倒的に多くなってしまう。これは刑法を犯しているかではなく、移民法に関わる法律や行政法関連に違反し刑務所や警察に捕まっている人がいるからです。しかしながら、刑法を犯しているわけではないんです。

 また黒人や中南米系は、パスポートを所持しているのか、合法的な身分を持っているのか、警察官から呼び止められることがあります。その際に違法行為である、たとえば麻薬を所持していることが発見されやすい。よく話になるのが、黒人と白人ではどちらが麻薬をより使用しているかというもので、実は白人の方が多いのではないかという話があります。しかし、黒人などは警察からの尋問を受けやすいですから、数字上は黒人や中南米系の犯罪が格段に低いとは言えないまでも、実際に摘発されていない犯罪の暗数を比べると、白人はもう少し割増になるはずです。

 もちろん、犯罪目的で入国する人たちもいます。あるいは、元々そういう動機がなくても差別などで職を失い、喰うに困り万引きなどの犯罪を行ってしまう人もある程度はいます。

――ここまで、中南米系や黒人のイメージと実際について話を聞きました。それでは民主党や共和党は移民に対し、どういった態度なのでしょうか?

西山:民主党、共和党と言っても、ヨーロッパの政党のように移民政策で一枚岩ではありません。共和党でも大企業経営者、例えば元大統領のジョージ・W・ブッシュや前回の大統領選候補であるミット・ロムニーなどは移民に対し寛容です。彼らは、自宅の家事などをそうした移民に任せていますからね。

 その一方で、共和党内に根強く残る「アメリカファースト」や「英語を話せない奴らはアメリカ人ではない」と発言するような議員が党内で一定の影響力を持っているのも事実です。大統領予備選や党員集会で投票率が低い場合、彼らを支持するような人たちは政治活動に熱心なので、どうしても党内で力を持ちます。

 また共和党内にも民主党内にも、移民出身の支持者がいますが、同じ中南米系出身であっても、移民に対する態度は違います。例えば、共和党支持の移民出身者は、正規のプロセスを経て、苦労を重ね、アメリカ国内に滞在する合法的な権利を手に入れた人が多い。そういう人たちからすると、自分たちは苦労して権利を手に入れたのに、どうして簡単に合法的な労働許可を与えないといけないんだと考える人も多い。移民からアメリカ国籍を取得した人であっても、民主党支持者と共和党支持者で立場の違いがあります。

――この記事をここまで読んでいる人の中には、どうして不法移民をアメリカ政府は強制送還しないのかと疑問に思う人もいると思います。

西山:簡潔に言えば、不法移民の数が多すぎて出来ないんです。

 最近、オバマ大統領が不法移民に対する行政命令を出しました。その命令は、不法移民をどのような基準で母国に送り返すかというもので、それによれば全ての不法移民を送り返すだけの予算がないので、一部の移民を選抜的に送り返すというものです。選ばれるのは、例えば重罪を犯した人で、逆にそうでない人は送り返さないわけです。

 国のお金で食べさせていくことも出来ませんから、3年間限定で働けるようにするというものです。ただし、対象となるのはアメリカ国内に5年以上滞在し、犯罪歴がないことを証明するとともに、未納分の税金を支払うことが条件です。この行政命令への支持が比較的高いということは、不法移民を全て送り返すことが不可能だという認識が国民の間で共有されていることの表れだと思いますね。

――その不法移民というのは、どれくらいの数がいて、アメリカ国内ではどんな権利が与えられているのでしょうか?

西山:数を推定することは難しいですが、1000万人以上は確実にいるだろうと言われています。

 不法移民の権利は家族全員が不法移民なのか、合法的な地位を所持している家族がいるか、あるいはアメリカ国籍を取得している家族がいるかどうかという状況によります。

 アメリカでは、不法移民であれ、旅行者であれ、国内で出産すればその子供はアメリカ国籍となりますから、アメリカ国民と同じ権利を持ちます。また、アメリカでは学校区ごとに校長先生の選挙が行われる所が多いです。仮に子供の親が不法滞在だとしても選挙権を持ちます。しかし、これを権利とみなすかは難しいところですね。

 次に、子供自身も不法移民の場合ですが、初等中等教育を受ける権利はアメリカ国民と同じくあります。ここで言っているのは、子供は教育を受ける権利があり、親は教育を施す義務があるということですが、親は必ずしも学校に通わせるということではなく、ホームスクーリングとして親が自宅で教育をしてもいいわけなんです。

――移民の国であるアメリカには様々なエスニック集団が存在します。日本に関連するところで言えば、グランデール市の従軍慰安婦像の問題が思い浮かびます。エスニック集団は、自民族に有利な政策や目的を達成するためにロビー活動を展開しているのでしょうか?

西山:そこは難しいところで、そのような観点から行動している団体もいれば、必ずしもそうとは言えない団体もいます。

 例えば、ユダヤ系ロビー、正確にはイスラエルロビーですが、その活動はイスラエル人たちにとっては有利な活動ではありますが、アメリカ国内のユダヤ系の人達にとっては迷惑な活動をしている場合もあります。イラク戦争時、ユダヤ系アメリカ人の大半は戦争に反対しましたが、イスラエルロビーは賛同していた。そう考えると一体、出身国の利益のためか、それともアメリカ国内の同じエスニック集団の利益のために働いているかは難しいところですね。

 また、日本で話題になるアメリカのコリア系は、日本で報じられているのとは若干違うところがあります。

――具体的にどういうことでしょうか?

西山:日本の一部報道では、アメリカのコリア系は反日意識が強く、韓国政府の思惑通りに行動しているとの指摘があります。しかし、そもそもアメリカへ移住したコリア系は、韓国が軍事政権の時代に不満を持ち移民となった人が多いんです。

 また本書には書きませんでしたが、ニュージャージー州にも慰安婦問題に関する決議を採択したユニオンシティ市があります。私はニュージャージー州の大学に留学していた頃、ユニオンシティに買い物などに出かけていました。そこは反日意識が強いかといえば、そんな雰囲気を感じ取ったことがありません。

 先程のグランデール市にしろ、ニュージャージー州にしろ、慰安婦問題で言われているのは、アメリカ国内のコリア系が熱心なのではなく、韓国のNGOが中心となり、あたかもアメリカ国内のコリア系が熱心に活動しているような印象を持たせているということです。

 エスニックロビイングの難しいところは、事例ごとに性格が違いますし、国内問題なのか、それともトランスナショナルな政治なのかの区別がハッキリしないところです。

――それでは最近急増している中南米系のロビー活動はどれくらいの影響力を持っているのでしょうか?

西山:都市政府レベルでは影響力を持ってきていると言えると思います。中南米の国々では2重国籍を認めている場合があります。中南米系の人達の中には、アメリカ国内で働き、お金を稼いだら出身国に戻りたいと考えている人達がいます。そこで母国へ戻った時に、子供が言葉で苦労しないように、学校の授業を英語ではなく、スペイン語で授業を行ってほしいという主旨のロビイングをしている団体もあります。そうした団体の影響力は相当大きいですね。

――連邦政府レベルではどうでしょうか?

西山:大きく変わる可能性はありますが、よくわからないところがあるのも事実です。

 現在、共和党はマイノリティからの票をほとんど獲得出来ていない状況で、民主党は逆に白人からの票を得られなくなっています。中南米系の人口比率が増え、白人の人口比率が下がるこれからの状況を考えると、共和党は中南米系などのマイノリティの票をどうしても獲得したい。そこで、2014年の中間選挙後から党のあり方を変えようと努力し始めた候補者が増えてきました。例えば、ジェブ・ブッシュ。彼の奥さんはメキシコ系で、彼自身もスペイン語を流暢に話しますから、メキシコ系コミュニティを取り込もうとしていました。また、中南米系のルビオの活躍もありましたが、トランプで吹っ飛んでしまった。

 しかしながら、共和党が従来の党のあり方を変えていく可能性は高いです。その1つに、犯罪問題への対応が考えらます。そもそも共和党は伝統的に犯罪対策強化を謳ってきましたが、ここ数年その対応に変化が見られます。犯罪対策強化で逮捕者を増やすと、刑務所人口が増えるため、州などが刑務所の運用費用が不足して困っている。刑務所を民営化したけれども、採算が取れないので積極的でない企業が増えてきています。共和党を支持しているティーパーティーからすれば、福祉に予算を使うことですら腹立たしいのに、黒人や中南米系が多い刑務所に予算を投入することはもっと腹立たしい。そこで、共和党のギングリッチ元下院議長が、ここ数年変革しようとしています。ただ、ティーパーティーは予算削減が目的ですが、ギングリッチは目立たない形で黒人や中南米系の票を獲得する1つの方法だと言い始めているんです。

――民主党は白人票を取るために、これまでの態度を変化させているのでしょうか?

西山:都心部に住む高学歴で高収入な白人は民主党を支持する傾向が強いのですが、農村州の白人には共和党支持者が多いんです。そうした白人票を獲得するためにオバマ大統領は白人対策をしています。それは、様々なスピーチで「黒人や移民は真面目に働かない文化を持っている」という主旨の発言で、白人票を取るための1つの表れかと思います。これは黒人であるオバマだから言えることですが、民主党の黒人や中南米系の議員が今後同じような発言をするようになるかもしれません。

 こうした共和党と民主党の駆け引きは見所になると思いますね。

――それでは最後に本書をどんな人に特に薦めたいですか?

西山:日本人はアメリカのこととなると勉強をしなくてもなんとなく知っているつもりになっている人も多いと思うんです。アメリカに関することは、正しくない俗説が広まってしまっている印象もあります。例えば、共和党は日本に好意的で、民主党は違うと。しかし、実際は大統領が陣営をどういうスタッフで固めるかによりますし、党自体が日本と中国のどちらを重視するとは決めていません。そういった根拠のない俗説を信じないためにも、本書を手に取ってもらえると嬉しいですね。

本多カツヒロ

最終更新:9/30(金) 11:10

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