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新時代のリーダーは「進学校」より「崩壊学級」で錬成せよ

デイリー新潮 9/30(金) 13:10配信

■学力神話のウソ(3)

「日本には優れたリーダーが足りない」「リーダー養成のためのエリート教育が必要だ」――このように考えている日本人は多いだろう。実際、わが子を将来のリーダー層に押し込もうと、名門付属小学校を「お受験」させたり、中高一貫の超難関進学校に通わせたりする親たちが引きも切らない状況だ。

 しかし、ベストセラー『里山資本主義』の著者で、地域再生の専門家の藻谷浩介さんは、「もし本当にわが子を優れたリーダーに育てたいと願うなら、有名進学校に『隔離』するのだけはやめた方がいい」と言う。

 藻谷さん自身、東京大学に進学するまでは、地元のごく普通の公立校に学び、自らの息子2人も一貫して近所の公立校に通わせたという。藻谷さんは、「子どもを世間から隔離して育てることのマイナスが分かっていない親が多すぎる」と言うが、一体どういうことだろうか? 

 藻谷さんの近著『和の国富論』(新潮社刊)から、「学級崩壊立て直し請負人」の異名を持つ元小学校教師・菊池省三さんとの対談の一部を再構成してお伝えしよう。

■新たなエリート、「スーパーA」

菊池 最近よく、エリートを育てる教育とか、リーダーを育てる教育とかって言うじゃないですか。私はもし本当に社会を引っ張っていくエリートを育てたいんだったら、今しんどい状況にいる子どもたちと一緒の教室で学ばせないとダメだと思うんです。たとえば、グジャグジャに崩壊していた学級が、一年かけて立ち直っていく。その過程で本当のリーダーが育っていくんですよ。

藻谷 まったく同感です。成績上位者だけが集まる“エリート”中高一貫校で勉強させ、さらに同じように育ってきた人間ばかりを選抜する“一流”大学なんかで学ばせたら、凸凹のある多様な人々をまとめられるリーダーは出てこないんじゃないかと、とても危惧しています。雑多な人がいて、むしろ崩壊の危機があるぐらいの環境の方が本当のエリートが育つ。会社経営でも、もし優秀な幹部候補を育てたいなら、崩壊寸前の小さな組織などに出向させて、戦わせるべきなんです。「半沢直樹」みたいに(笑)。

菊池 教室のイメージって、大体「2・6・2」なんです。つまり、頑張る子が2割、普通の子が6割、だらんとしている子が2割。で、小学校教師がよく陥りがちな罠は、下の2割を何とかしようと躍起になって、学級全体を崩壊させてしまうこと。そうではなく、普通の6割を上に引き上げて、まずは「8・2」の状態に持っていくのがコツなんです。

藻谷 ご著書の『学級崩壊立て直し請負人』(新潮社刊)でも、クラス替えして最初のうちは下の2割が訳の分からんことを言い出してもスルーすると書いていらっしゃいましたね。そうすれば学級崩壊への道は断てると。

菊池 では、下の2割をどうするか。それは上の8割の中から「スーパーA」、つまり他の仲間を引っ張り上げていけるスーパーエリートを出せばいいんです。観察していると、「8・2」まで持っていくと教室が安定した状態になり、自然と「スーパーA」が出てくる。そうすると、クラス全体のレベルが上がって、結果的に下の2割も引き上げられる。

藻谷 「スーパーA」というのは、「私、上の2割で勉強ができますが、何か?」というタイプじゃなくて……。

菊池 そうじゃなくて、クラス全員、1人も見捨てないという信念を持ったリーダータイプ。どうして「スーパーA」が出てくるのか、なぜ彼らは下の子たちを引き上げることができるのか、私もまだ理論的な裏付けができていないんです。でも、過去の実体験としては確実にあって、「スーパーA」が出てくると、クラスの集団達成意欲が格段に高くなるんです。

藻谷 「下の2割を切り捨てることによって、学級の水準を保っていこう」という凡庸なリーダーの浅知恵では、個人が自信を持ち、安心できる集団は育たない。

 おそらく本当のリーダーというのは、下の2割にも感応できる人のことを言うんでしょうね。上の2割も、やっぱり普通からは外れているという点では同じなので、外れている者同士、波長が合う部分があるのかも知れない。両者とも飛び抜けたものを持っているんだけど、たまたまうまくプラスに振れた子と、ちょっと怠けてマイナスに振れちゃった子がいるだけで……。

菊池 そうか、これは相当納得したぞ(笑)。たしかに「スーパーA」の中には、かつてその子自身が下の2割だったという子もいました。しかも、その子は自分が上に上がれたのは、その時の「スーパーA」のおかげだったと言うんです。やっぱり下の2割にいる子どもでも、そういう複雑な人間の機微を理解できる内面を持った子がいるわけですよ。

藻谷 思い返せば、私はじつは「スーパーA」をやろうとして、上手くできずに失敗して、いじめられた人間なのかも知れない。逆に、「だから藻谷くんは嫌われるんです!」と言った委員長タイプの彼女は、今思えば「スーパーA」だった。

 じつはこの前、同窓会で彼女に再会したんです。いま彼女は小児がん病棟の看護師をやっているそうですが、これは本当にキツい仕事で、面倒を見ている子どもたちの多くが死んでしまう。並の精神力では正気が保てない仕事だけど、でも絶対に社会に必要とされている、まさに社会の宝のような存在なんです。彼女のような人が本当のエリートで、自分さえ良ければそれで良い、他は切り捨てて「はい、さよなら」という人は、エリートでもリーダーでもないんですよ。

菊池 だから私たち教師は、もし教室で級友を注意している子どもを見たら、「ああ、この何気ない行為が、この子が大人になったときの人生につながっていくんじゃないか」と思って、ちゃんと褒めてあげなきゃならんと思うんです。そこが公教育の良き役割なのに、「学力テストの順位を上げろ」なんてことばかり言っていたら、自分たちで自分の首を絞めてしまうことになる。

藻谷 そもそも学力なんて、いくらでも後付けできますよね。「スーパーA」の彼女も、もしかすると高卒で看護学校に行ったのかも知れませんが、キツい仕事をしながらドクター論文まで書いて――彼女にとっては論文を書くのが一種の発散行為だったようですが――今では同級生で唯一の博士になっちゃった。

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最終更新:10/6(木) 11:35

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