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野村萬斎さん「東京五輪は日本文化を発信する好機」

NIKKEI STYLE 10/1(土) 7:00配信

 2020年の東京五輪・パラリンピックなどに向けた「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」(文部科学省など主催)の文化イベントとして10月21日、東京・オーチャードホールで「ディヴァイン・ダンス 三番叟(さんばそう)~神秘域(かみひそみいき)~」(国際交流基金など主催)が上演される。狂言師の野村萬斎さんが出演し、現代美術作家の杉本博司さんが構成・美術を手がける。萬斎さんに舞台の見どころや五輪を契機とする日本文化の発信について聞いた。
 ――祝福の舞「三番叟」を能舞台でなく、雷の模様を染め抜いた幕の前で披露する本作品の見どころを教えてください。
 「杉本さんはいろいろなアートの組み合わせの妙を見せる料理人。『ディヴァイン・ダンス(神の舞)』と題し、真空に放電したものを写真に撮ったような、雷のようで雷でないような、超自然的な空間で三番叟を舞う。それによって神事としての三番叟に込められた天・地・人というコンセプトを可視化させたい。舞自体は冒しがたいもので変えることはないが、登場と退場の場面をそれぞれプロローグ、エピローグとして、新たなものを付け加える。そこで日本的な神話の世界につながるイメージをしっかり見せる。この作品を進化させながら再演し、20年に向けて成果を残したい」
 ――東京五輪を機に世界から日本文化が注目されることについて、どんな期待がありますか。
 「リオデジャネイロ五輪・パラリンピックが終わった直後にこういう舞台ができることはありがたい。僕なりに五輪などの祭典が持つ意味を考えると、日本の伝統的なアイデンティティーを再認識する大きなチャンスだと感じる。『日本人とは何ぞや』と考え、それを海外にアピールするチャンスでもあると捉えている。地球の裏側とすぐにつながる時代に、多様化とかグローバル化とか言いながらも、やはり独自のアイデンティティーがあることを示す。どうすれば、それをうまく理解してもらえるのかを考えながら取り組みたい」
 「20年に向けて、しっかり4年間かけて積み上げていく。コラボレーションといっても付け焼き刃の単なる混ぜご飯のような混合物ではあまり意味がない。元素と元素が手を結んだ新しい化合物となるためには、自分を知り、手を結ぶ相手のこともよく勉強しないといけない。また、これを機に能狂言が発展することを望んではいるが、自分のジャンルの利益代表にはならないようにしたい」
 ――世界から見た日本文化の特長は何でしょうか。
 「日本の文化的アイデンティティーは『発酵文化』だと思う。僕がかつて留学した英国から見たら、日本は極東。大陸から日本に渡ってきたものが太平洋の手前で集積する『エッジ・オブ・シルクロード』の地だ。集積したものが発酵して違うものになる。例えば、数千年前のギリシャから伝わったという仮面芸能が日本で独自の発達を遂げ、能狂言という全く違うものになった。他者を否定せず、互いに影響しながら混然として様々な要素を残しているのも特長だ。こうして熟した文化の厚みは他に類を見ないと思う。日本は文化の宝の山だが、まだ日本人自身がそれに気づいていないところもある。自己発信するためにはもっと勉強して、自覚とアイデンティティーを強く持たないといけない」
 ――今年50歳になって、心境に変化はありましたか。
 「かつては40歳で不惑と言ったが、40代前半のころ、まだ僕は自分の生き方への確固たるものが揺らぐことがあった。50歳になってやっと『惑わず』の心境になってきた。最近ロンドンを訪れて、20年余り前の留学時に一生懸命考えていた日本や自分のアイデンティティーについて、惑わずに実践していけると確信した。それは本質をつかんで基本的な技で見せるダイナミズムをベースに、時代性と発信性を持つこと。その三位一体で芸術が確立していく」
 ――不惑の心境で、今後、どんな作品を創造したいと思いますか。
 「古典芸能出身者として、現代の消費文化のなかで消費されない部分を持つ作品を残したい。時代性のために、どうしても消費される部分はあるが、残る部分をしっかりつかんだ作品を時間をかけてつくる。狂言や能に負けない作品をつくりたい。50歳になって、そういうことを再確認している」
(聞き手は文化部 小山雄嗣)
 のむら・まんさい 1966年東京生まれ。3歳の時狂言「靱猿(うつぼざる)」で初舞台。東京芸術大学音楽学部邦楽科卒。狂言のほか現代演劇、映画、テレビなどで幅広く活躍。2020年東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の「文化・教育委員会」委員も務める。
 日本経済新聞社は文部科学省などが主催する「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム」にAllianceパートナーとして協賛し、同フォーラムに関連したコンテンツを随時掲載します。「ディヴァイン・ダンス 三番叟 ~神秘域~」の公演についての問い合わせは国際交流基金文化事業部(電)03・5369・6061まで。

最終更新:10/1(土) 7:00

NIKKEI STYLE

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