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「革命の父」と会談 安倍首相が展開するしたたかな実利外交

週刊文春 10/1(土) 7:01配信

「新次元の脅威に対して、明確な態度を示すときだ」

 9月21日(現地時間)、国連総会での演説を終えた安倍晋三首相は、翌22日、キューバへと飛んだ。日本の現職首相では初めてキューバを訪れた安倍氏は「革命の父」フィデル・カストロ前国家評議会議長と会談した。

 90歳のフィデル氏はすっかり好々爺の風貌だったが、1959年のキューバ革命以来、アメリカの介入をはねつけ、ソ連と連携して強烈な反米姿勢を貫いてきた。東西冷戦ではアンゴラやエチオピアの内戦にキューバ軍を送って武闘路線を貫き、いわばアメリカの敵であり続けた。

 だがオバマ政権は昨年7月、54年ぶりにキューバとの国交を回復した。その変化を敏感に察知したから、安倍首相はアメリカからキューバへ直行したともいえよう。

 首相はフィデル氏との会談で、北朝鮮の核兵器開発などへの反対を表明し、北朝鮮との国交のあるキューバがその旨を伝えてくれることへの期待をも述べた。さらに日本人拉致事件の解決への協力をも訴えたという。

 フィデル氏はこれに対し「核なき世界」への同意を表明した。この発言はアメリカの核の現実への批判という面もありそうだが、日本とすれば北朝鮮や中国への強い不満を地球の裏側の特殊な国キューバの首脳に同調させた形は大きな外交得点といえよう。

 一方で首相は弟の国家元首ラウル・カストロ現国家評議会議長とも会い、日本との経済連携の強化を説き、両国友好を17世紀の慶長遣欧使節団のハバナ訪問にまでさかのぼって強調した。さらにキューバのがん診療用の医療機材約13億円の無償援助を供する一方で、南シナ海、東シナ海での中国の海洋膨張を批判して、ラウル氏から「紛争の平和的解決が大切」という同意もしっかりと得た。

 キューバの革命指導者を相手にしたたかな実利外交を展開した安倍首相。その直前にはニューヨークで民主党大統領候補のヒラリー・クリントン氏と会談した。日本の現職首相が選挙戦中のアメリカで一方の大統領候補だけに会うのは異例のこと。クリントン氏サイドからの呼びかけだったようだが、これに応じたところにも、安倍流の外交姿勢が垣間見える。


<週刊文春2016年10月6日号『THIS WEEK 国際』より>

川嵜 次郎(在米ジャーナリスト)

最終更新:10/1(土) 7:06

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