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テレビ討論会でクリントンが見せた腹芸

Wedge 10/1(土) 12:30配信

 今回のテーマは「第1回テレビ討論会」です。第1回目のテレビ討論会は、9月26日(以下現地時間)に東部ニューヨーク州ヘンプステッドにあるホフストラ大学で開催されました。本稿では、共和党のドナルド・トランプ候補及び民主党のヒラリー・クリントン候補の言語・非言語コミュニケーションに焦点を当てながら分析します。

対照的なアンケート調査項目

 テレビ討論会を前にクリントン・トランプ両陣営がウェブ上で支持者を対象にアンケート調査を実施しています。クリントン陣営の調査項目は、テレビ討論会を観る予定か、討論会のパフォーマンスが投票に影響を及ぼすか、どの争点に関心があるのか、どちらの候補が勝つと思うかなど、有権者に対する意識調査に重点を置いています。

 一方、トランプ陣営の調査項目はより戦略的なのです。たとえば、討論会においてトランプ候補はクリントン候補に対する攻撃ないし持論の正当化に時間を多く費やすべきか、あるいは同等にするべきか、といった時間配分に関する質問があります。さらに、討論会でトランプ候補はクリントン候補を「嘘つきヒラリー」と呼ぶべきかといったスタイルに関する質問項目も含まれています。

 討論会の最中、トランプ候補は「クリントン長官」と何度も敬称で呼び、一度も「嘘つきヒラリー」と語りませんでした。同候補は大統領としての適性がないというイメージを弱めるために、礼儀正しい態度で臨み大統領らしさを演出していたのです。ところが、終盤でクリントン候補に日本と韓国に対する核保有容認発言を突かれ、そのうえ同候補のスタミナ不足に関する攻撃をかわされてしまうと、トランプ候補は苛立ちを見せてついに「ヒラリー」とファーストネームで呼び掛けてしまったのです。

流れを変えた一言

 討論会の前半50分間、トランプ候補は明らかにポイントを稼いでいました。激戦州オハイオ州、ミシガン州及びペンシルべニア州を取りあげ、ビル・クリントン元大統領によって署名された北米自由貿易協定(NAFTA)により雇用が喪失した点を強調したのです。自身の弱点である確定申告未公開に関しても、対策を練っていました。「クリントン候補が削除した3万3000通のメールを公開するならば、自分も確定申告を公開する」と提案をしたのです。

 クリントン候補が自分の弱点であるメール問題について間違いであったと認めると、すかさずトランプ候補は意図的であり「間違いで済むものではない」と切り返したのです。戸別訪問を行うと、トランプ支持者はメール問題に関して、クリントン候補は犯罪者であり刑務所に入るべきだと主張します。前半はトランプ候補が優勢に討論を進めていました。

 ところが、クリントン候補のある一言が流れを変えたのです。

 50分を過ぎたとき、トランプ候補は「私が各州を飛び回っているとき、あなたは家で討論会の準備をしていたんでしょ」と皮肉を込めて語ったのです。この発言にクリントン候補が反応をしたのです。

 「ドナルドは、私がこの討論会の準備をしてきたことを批判したと思う。確かにしてきました」

 こう語ると、クリントン候補はトランプ候補に問いかけたのです。

 「そのほかに何の準備をしてきたか分かりますか」

 続けて、クリントン候補は次のように述べたのです。

 「私は大統領になる準備をしてきました。これは良いことです」

 この回答に会場の有権者の間から拍手が沸き起こったのです。テレビ討論会において、会場の有権者は候補者の発言に対して拍手をすることは禁じられていますが、思わずしてしまったのでしょう。それ以後、クリントン候補は好感度を高めるために笑顔と余裕のある態度をより多く見せるようになったのです。結局、「私は大統領になる準備をしてきました」の一言が、この討論会の「ゲーム・チェンジ」になったのです。

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最終更新:10/1(土) 12:30

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