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安倍首相と李克強首相がキューバ訪問。キューバを中心としたスペイン語メディアの評価は?

HARBOR BUSINESS Online 10/1(土) 9:10配信

 キューバ政府にとって9月は多忙な日々となった。世界から3人の国家リーダーの訪問を受けたのだ。

 イランのハサン・ロウハニ大統領、安倍晋三首相そして中国の李克強首相である。その要因をつくったのは当然米国の54年振りのキューバとの国交の回復である。そして、キューバに課されていた制裁の一部が解除されたことによるものである。この制裁解除によって、世界の主要国が地政学的に重要なキューバの市場開拓に始動開始しているのだ。

 今回、中国の李克強首相は、安倍首相がキューバでの訪問を終えた後、すぐにキューバ入りした。李首相のキューバ訪問の日程は安倍首相がキューバに到着した時点ではまだ決定していなかったにも関わらず、だ。このことから、安倍首相の訪問を牽制する意味で急きょ組まれた訪問であると思われる。しかも、いつも単独で外遊する李首相が不思議と今回は、安倍首相が外遊でいつも夫人を同伴するように、彼の夫人を同伴させていた。このこともまた、安倍首相を意識してのことかもしれない。

 この二人の首相のキューバ訪問について、主要紙は次のような見出しでそれぞれ記事にしている。

●スペイン紙『El País』「中国と日本がキューバでビジネスするのに戦う」

●キューバ電子紙『Marti』「キューバ外交が極東に焦点を当てる」

●ラテンアメリカのシンクタンク『Infolatam』「アジアの強国がキューバに橋を架ける」

 共産主義国家として運営されてきたキューバだが、10年前、ラウル・カストロが国家の舵取り役になって以来、これまでの政治組織体制を維持しながらも改革への門戸を開きつつある。何故なら、現体制では国の成長はもう望めなくなっているということを指導層は熟知しているからである。しかも、キューバとの取引では一番重要だったベネズエラが経済崩壊の寸前にまで来ている。キューバの発展に重要な原油もベネズエラから安価な価格で輸入できなくなっている。

 このような事情下でキューバが比較的に早い成長を遂げるには、GDP3-3.5%の成長を達成する必要があるという。それには20~25億ドル(2000~2500億円)の総生産が必要だ。しかし、今年上半期の成長は1%に留まっているものの、計画は2%であったという。それを達成するために、キューバが必要としているのは外国からの投資なのである。その意味では、どこの国からであろうと投資を歓迎する姿勢だという。(参照:「El Pais」)

 その意味でも、日本と中国という経済大国の訪問は、キューバメディアにとっても大きな話題となった。

◆安倍訪問はどう評価された?

 前出の『Marti』紙は「安倍首相の訪問は、日本企業がキューバで投資をする為の道づくり」、「その投資は観光やインフラといった新しい分野での開発にも向けることが出来る」と報じ、「米国による雪解けにはまだ前進はなく、そして大統領選挙の結果への不安から、日本のような強力な国がパートナーとなってくれることはキューバ経済にとって酸素を吸入するように最大の重要性をもつことになる」と報じたことは、安倍の来訪=日本からの投資に大きな期待を寄せていたことが伺える。

 安倍首相も記者会見の席で「日本はキューバにとって信頼できるパートナーになることを期待している」と述べ、また、「インフラ開発に品質の高さを提供し、国営そして民営事業相手の医療、農業、教育などへの投資の拡大をすることを示した」という。(参照」党機関誌『Granma』)

 また、「キューバと日本との関係が米国によるキューバへの封鎖を前にどのように影響する」かという質問に、安倍首相は「この封鎖がより軽減されれば日本企業のキューバへの投資は増加する」と答えたことも同紙は伝えている。

 9月23日付の『Infolatam』は、安倍首相による医療機材の供与の約束について触れ、「この供与は将来日本からキューバへの医療テクノロジーの輸出に扉を開くことになる」と評価している。

 また、『America Economia』電子紙は「安倍首相の訪問は多くの日本企業がキューバに進出する扉を開くことになり、三菱商事は既に7月に事務所を開設している」と言及している。

『CubaInformacion』電子紙では、1970~1980年代に日本はキューバにとってソ連に続く第2の貿易相手国であったことを指摘し、その縁もあって<フィデル・カストロ氏が2003年に日本を訪問したことなどを報じていた。そして、ミゲル・ディアス・カネル・ベルムデス評議会第1副議長が今年6月に日本を訪問した際に同氏が「日本とキューバの関係はすばらしいものであるということが確かさをもって評価できる」と述べたことも同紙は伝えた。因みに彼はラウル・カストロの後継者と噂されている人物だ。

 もちろん、希望的観測だけでなく、現実的な指摘もなされた。『Infolatam』は、「日本の首相の訪問は相互の関係の改善に努めることに日本が強く関心をもっていることの明白なる証しである」と指摘しつつも、「日本とキューバの関係は貿易取引でベネズエラに次いで2番目の中国との関係に比べればまだほど遠い」とも述べている。日本とキューバの貿易取引額は中国とキューバのそれのおよそ10分の1に過ぎないのが現実なのだ。

 また、安倍首相の今回の訪問目的の一つとして、北朝鮮の核開発による脅威があることを報じるメディアもあった。

 9月23日付『Infolatam』は、安倍首相がカストロ兄弟に北朝鮮の国際平和を脅かす核開発への不安を伝え、同国と良い関係を持っているキューバからの北朝鮮への対話を要請したことを報じ、また同国に拉致された12人の日本人についての早急なる問題解決に手助けを要望したことも伝えている。フィデル・カストロ前評議会議長との会談中に、、カストロが広島を訪問した時に「原爆の被害に強烈なインパクトを受けて残虐な核開発に終止符を打つ必要性があることを再確認した」と話したことも同誌は言及している。

◆李克強の訪問への評価は?

 一方の中国についてはどうか? スペイン及びラテンアメリカの政治・経済・社会についてジャーナリストらが集まってのブログ『Rebelión』に寄稿された、中国研究家でスペイン・ガリシア協会の部長チュリオ・リオ氏の指摘が興味深い。

”中国の投資は世界レベルで早いスピードで増加して来たが、何故かキューバ(への投資)はいつも通り過ごされて来た。その代わりに借款を供与し、その返済の延長などで対応して来た。つまり、これまでは、キューバへの中国からの全面的な取り組みは存在しなかったのだ。

 しかし、ブラジルとアルゼンチンが(欧米寄りの)政権に交代し、ベネズエラは政治不安にある。よって、中国の戦略上において、キューバの存在は重要性を持つようになってきた。これまでは、キューバの資源などに焦点が当てられていたが、インフラの開発などに双方の発展の為の共通点を見出すことが出来るようになったのだ。

 また、キューバと米国の関係が改善されたことや、プーチン氏が2014年に訪問したことなどもあった。そして、訪問したばかりの安倍首相の日本とは(中国は)戦略的ライバルだ。EUも対キューバとの関係において変更が見られるようになっている。これらの要素はどれも中国にとって無視できないことである。その意味で、李首相のキューバ訪問は注目される。そして、これまでの躊躇した対応の終わりを意味し、相互に伝統的で良好な関係を維持している中で真剣に成長への取り組みを実行する時が来たようだ”

 リオ氏の指摘通り、李首相のキューバ訪問も安倍首相への対抗心もあってか、本気度が伺えるコメントが多いようだ。

 9月27日付の『Granma』では、李首相の訪問に触れて、李首相がミゲル・ディアス・カネル・ベルムデス評議会第1副議長に対し、「社会主義の建設には中国は無条件で協力する」と伝えたことを報じ、「再生エネルギー、医学開発、情報、産業発展、税関での安全確保などの分野で12項目の合意を結んだ」ことを報じている。そして、「50年以上続く友好と協力でもって、経済面のレベルを高め、キューバが新たに設けた手段とで投資が奨励されるようにする」ことが確認されたことも同紙は伝えている。

 安倍首相が医療機材の提供を約束した医療分野だが、9月26日付『eldiario』電子紙が報じるように、李首相は更にそれを発展させて「両国でジョイントベンチャー企業を設立し、そこではバイオセンサー、グルコメーター、その他分析機器の生産をする」プランを提案した。そして、「モノクローン抗体や組換えタンパク質の研究開発を共同でする」ことでも合意した。このプロジェクトは、キューバが改革の一貫として外国からの投資を求めて建設したマリエル自由貿易地区(ZEDM)で実施されるという。

 しかし、9月23日付『America Economia』によれば、中国企業の進出はまだ僅かで、投資も少ないというのもまた現実であり、日中両国ともキューバへの投資はまだスタートラインに立った状態だとキューバ側からは見られているのかもしれない。

<文/白石和幸>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。

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最終更新:10/1(土) 9:10

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