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『隻眼の虎』と『レヴェナント』、その共通点と違いとは? 韓国ノワール旗手の特異な世界

リアルサウンド 10/2(日) 12:21配信

 R指定映画としては公開当時最高となる460万人超の動員を記録し、ハリウッドリメイクも決定した韓国映画『新しき世界』。その監督パク・フンジョンがメガホンをとった新作『隻眼の虎』が公開中だ。同作は1925年の日本統治下にあった朝鮮を舞台に、一度は引退した猟師が“山の神”と恐れられる巨大な隻眼の虎と繰り広げる死闘を描いている。

 設定だけを見れば、熊やクロコダイルなど、いわゆる猛獣との闘いがメインとなる動物サバイバル映画のような印象を受けるかもしれない。もちろん、同作には体重400キロを超えるチョウセントラによる壮絶な殺戮劇や、猟師たちとの緊迫した駆け引きなど、“vsアニマルもの”の王道的展開が多数登場することも確かだ。しかし、『新しき世界』で潜入捜査官とヤクザの絆、そして人間の業を鮮烈に描いたパク・フンジョン監督の新作が単なる“vsアニマルもの”で終わるわけがない。『隻眼の虎』は、2人の父親がたどる数奇な運命を描く、かつてない“男と虎のノワール”と呼ぶべき特異な作品なのである。

■『レヴェナント:蘇りし者』との数多い共通点

 主人公が父親で、猛獣と戦う物語といえば、昨年アカデミー賞に輝いた『レヴェナント: 蘇えりし者』が記憶に新しい。実は『隻眼の虎』はパク・フンジョン版『レヴェナント』と言っていいほど、同作との類似点が多い作品なのである。『レヴェナント』はレオナルド・ディカプリオ演じる猟師グラスが、息子を奪われた復讐を試みる物語である。グラスはアメリカに実在した人物で、熊に襲われて負傷したあげく仲間に裏切られ、壮絶なサバイバルを経て生還したという。映画ではこの実話に「息子を奪われる」というフィクション要素を付け加えることで、父親の復讐と贖罪の物語として成立させた。『隻眼の虎』は同じく実在した伝説的な猟師チョン・マンドクが主人公。物語じたいはフィクションながら、当時の朝鮮総督府が行ったとされる大規模な虎狩りをモデルにしている。映画でマンドクは、地元の猟師仲間のある計画に巻き込まれ、息子の復讐のため虎狩りに駆り出されることになるのである。また、『レヴェナント』のグラスが白人たちに抑圧される先住民側の人間として描かれているのと同じく、『隻眼の虎』のマンドクも日本軍の抑圧を受ける地元民の一人だ。どちらも史実をもとに復讐せざるを得なくなった父親を描いているという点で、驚くほど似通っている。

■“復讐劇+ファンタジー+ノワール”の不思議な魅力

 ともに実話をベースとした非常に重い作品ではあるが、『隻眼の虎』が『レヴェナント』と全く違うのは、ファンタジーやノワールものといった様々な要素が混然一体となっている点である。『レヴェナント』の熊は超自然的な存在として立ちはだかるが、グラスの復讐の対象はあくまでトム・ハーディ演じる裏切者・フィッツジェラルドなので、人間同士の物語が展開する。対する『隻眼の虎』マンドクの復讐相手は、圧倒的な戦闘力を持つ隻眼の虎・デホである。ところが物語が進むにつれ、デホはマンドクと同じく感情を持った“父親”であることが明らかになっていく。フンジョン監督は、感情豊かでありながら獣らしいデホをCGで表現するために、『ライフ・オブ・パイ』を参考にしたという。同作で主人公とボートで漂流するベンガルトラ“リチャード・パーカー”は、猛獣として登場するが、やがて人間のようにコミュニケーションをとるようになる。同じように、『隻眼の虎』でも、デホがマンドクの息子に対して非常に人間的な“ある行動”をとるシーンが登場するのである。フンジョン監督が『ライフ・オブ・パイ』のように“人間のようでありながらリアリティを持つ虎”を目指したのは明らか。重厚な復讐劇に絶妙なファンタジー描写が登場するので、面食らう方も多いのではないだろうか。

 そして、もうひとつ忘れてならないのが、韓国ノワールの旗手であるフンジョン監督らしい無情な決着のつけ方である。猟師として多くの虎を狩ってきた男・マンドクと、猟師やその家族を殺戮してきたデホ、2人の父親が雪山でボロボロになりながら、互いの因果に終止符をうつべく対決する姿に胸を熱くなるはず。そして、彼らが迎える壮絶な結末は、『新しき世界』や『オールド・ボーイ』のような韓国映画らしい無情さにあふれている。

 血沸き肉躍る“vsアニマルもの”であり、父親の復讐と贖罪の物語であり、非情で無情なノワールものでもある。それが『隻眼の虎』の不思議な魅力である。

藤本 洋輔

最終更新:10/2(日) 12:21

リアルサウンド

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