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「空洞問題」で信頼が失われた東京都、「豊洲は終わった」――今こそ「築地市場再整備」を

週刊金曜日 10/3(月) 10:47配信

「豊洲は終わったと思う」

 東京都が、豊洲新市場の土壌汚染対策のため4・5メートルの盛り土などをすると説明してきたが、主要な建物の地下では行なわれず空洞になっている問題で、東京中央市場労働組合の中澤誠委員長はこう言った。

 豊洲には、すでに市場の建物が完成しており、今さら盛り土をしたりする対策工事はほぼ不可能だ。だが、中澤委員長が豊洲が「終わった」と言うのは、汚染対策ができないこと以上に都への信頼が「終わった」ことが大きいようだ。

「都が(汚染土壌を封じ込めている)コンクリを厚くして『安全になりました』って言っても、市場の世論が許さないよ。これまでも散々だまされてきたんだから」

 たとえば、1998年に仲卸の団体が移転反対を決議し、当時の市場長は「1団体でも反対なら豊洲には絶対行かない」と約束していたのに約束を一方的に破棄した。市場有志が今年4月に行なったアンケート調査でも「築地と豊洲のどちらで営業したいか」との問に、回収した244件中203件が「築地」と答えた。アンケートには「全く騙された。(豊洲の)店舗は昭和10年に出来た現在の店舗より狭く、衛生基準を満たせない」などの不満が数多く書かれている。

 都の中央卸売市場関係者によれば、豊洲の「空洞問題」が発覚する以前、小池百合子都知事は、来年1月に発表される地下水モニタリングの結果が環境基準以下なら豊洲の「安全宣言」を出して、来年3月移転を考えていたという。だが、「空洞問題」で頓挫した。

【合意形成がポイント】

 そもそも、小池知事は2008年に出した共著の中で、「築地再整備」を主張している。

 しかし、都は築地再整備が困難な主な理由として、(1)築地は狭いので、再整備工事に必要な「種地」(工事期間中業者に仮移転してもらう土地)を確保できない(2)築地跡地の売却収入が見込めず、再整備の事業費を賄えない(3)築地の跡地を通す予定の環状2号線の工事ができなくなる、の3点をあげる。

 けれども、環状2号線は都の建設局に聞くと暫定道路を造る予定だ。また、元都議会自民党議員の出口晴三さんは、「『種地』はあります。実際、計画を立てて着工もしたんだから。事業費がないなら民間の資金を利用するPFI方式でやればいい。たとえばホテルを入れた複合施設を市場内に建てれば利益も出ますよ」と反論する。

 中央卸売市場は出口さんが都議時代の86年に現在地での再整備を決め、88年には築地市場再整備基本計画を策定、新市場のイメージを描いた鳥瞰図も付される。だが、91年に着工され、400億円もかけて立体駐車場などを整備したのに事業費の増大や工期の長期化などで96年に中止される。

 全国の市場の再整備状況に詳しい浅沼進・元東京海洋大学大学院教授(食品流通安全管理)は、業者も冷蔵庫や引っ越し費用で数千万単位の投資をしている以上、まずは豊洲の安全性を追求すべきという立場だ。しかし「豊洲ではどうしてもダメとなったら、築地の再整備も考えるべきです。その際、業者は腹を割ってみんなで築地をこれからどうしていくべきかという話し合いができるかどうかがポイントです」と指摘する。

「空洞問題」の発覚を受けた9月10日の緊急記者会見で、筆者は「知事は著書で築地再整備を主張しているが、今こそその主張が生きるのではないか」と聞いた。知事は「普通の生活者、また環境大臣としての経験から当時はそう書いたが、客観的な判断を待ってワイズスペンディング(税金の適正利用)な方法を考えるべき」と答えた。

 これに対して前出の中澤委員長は、「小池知事は延期は決められるけど、市場をどうするかは決めらんないの。市場で働く人がうんと言わなきゃ移転も再整備もできないでしょ。これから合意形成をしてみんなで決めるしかないよ」。

 石原知事時代から、知事や市場当局が市場で働く人々の意見を充分に聞いて合意形成をはからず、強引に事業を進めてきた報いが、今回の「空洞問題」だとも言える。

(永尾俊彦 ルポライター、9月23日号)

最終更新:10/3(月) 10:47

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