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潮匡人 北朝鮮の暴走は第二次朝鮮戦争の前触れだ

PHP Online 衆知(Voice) 10/3(月) 12:40配信

発射実験の域は超えた

 8月24日早朝、北朝鮮が半島東岸から東北東に向け、新型SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)「KN11」(推定)を発射、約500km飛翔させ、日本の防空識別圏(ADIZ)内にあたる日本海上に着水させた。自衛隊による破壊措置は取られなかった。
 8月22日から始まっていた米韓合同軍事演習に北朝鮮は「敵に先制攻撃を加えられるよう決戦態勢を堅持している」、「我々の領土、領海、領空に、わずかでも侵略の兆候を見せれば、核の先制攻撃を浴びせ、挑発の牙城を灰の山にする」(軍総参謀部)と反発していた。
 北朝鮮は昨2015年以降、SLBMの発射実験を重ねてきたが失敗を繰り返し、今年4月の飛翔距離も約30kmに終わっていた。ただ、これまで北朝鮮が公表した画像や映像が捏造でないなら、空中にミサイルを射出したあとに点火する「コールド・ローンチ」システムの運用に成功している。それも従来の液体燃料ではなく、不意急襲的な実戦運用に適した固体燃料が使用された可能性が高い。
 それが7度目となる今回、飛翔距離が大幅に延びた。案の定「固体燃料エンジン」(金正恩・党委員長)が使用され、機体の1段目と2段目の分離にも成功した(と推定する)。しかも今回は「最大の発射角度で行なわれた」(同前)。通常の角度なら1000km以上、燃料を増やせば2000km以上飛んだ計算になる。深刻かつ重大な脅威である。
 北朝鮮は8月3日にも半島西岸から弾道ミサイル「ノドン」(推定)を東北東に発射。約1000km飛翔させ、日本の排他的経済水域(EEZ)内に着水させた。今年3月にも一昨年3月にもノドンを日本海に向け西岸から半島を横断させ発射した。間違いなく「ミサイルの性能や信頼性に自信を深めている」(最新平成28年版「防衛白書」)。
 ノドンは「我が国に対する安全保障上の重大な脅威」(防衛省)であり、防衛大臣は「引き続き、情報収集・警戒監視に万全を期せ」と指示したが、それは難しい注文である。
 現にノドン発射の兆候すら探知できなかった。このため海自イージスMD艦も、空自パトリオット(PAC-3)ミサイルの事前展開も、「Jアラート」の発信もなく、政府は自衛隊に破壊措置命令を出すことすらできなかった。『毎日新聞』(8月4日付)紙上で「政府関係者」が語ったとおり「もし日本の領土まで飛んで」いたら「迎撃できなかっただろう」。
 翌々日の8月5日には、中国公船が尖閣諸島周辺の領海に侵入。その後も、領海や接続水域への侵入を繰り返した。自衛隊は“二正面作戦”を強いられている。これほど深刻かつ重大な脅威が迫っているのに、NHK以下マスコミ報道の扱いは小さい。この間、テレビや新聞はリオ五輪関連のニュースで埋め尽くされた。
 マスコミはノドンの着水地点を「秋田県沖」と報じたが、的を射ていない。標的は秋田県ではなく、青森県の米陸軍「車力通信所」であろう。車力は発射軌道の延長線上に位置し、早期警戒レーダー「Xバンド・レーダー」が配備されている。韓国への配備が決まった迎撃システム「THAAD(ターミナル段階高高度地域防衛)」のレーダーでもある。つまりTHAAD配備への反発に加え、実際に車力を攻撃するための発射訓練であった。もはや発射実験の域は超えた。私はそう考える。
 もとより米軍は事態を深刻に受け止めた。米国から要請があったと聞く。日本政府は今後、自衛隊がつねに迎撃態勢を取れるよう、破壊措置命令を常時発令することとした(政府は発令を肯定も否定もしていない)。関連法の想定を超えた異常な発令だが、現行法令上なしうる実効的な対処はほかにない。憲法上、自衛隊は軍隊ではない。ゆえに根拠法令がなければ、迎撃はおろか出動すらできない。
 今後は(非公表の)破壊措置命令を根拠として、迎撃ミサイル「SM-3」を搭載した海自のイージスMD艦や、空自のPAC-3が常時展開される。
 だが現実問題、イージスMD艦は4隻しかない。定期的な点検や整備の必要上、同時に運用できるのは最大で3隻。そのうち1隻を訓練や演習に充てれば、残りは2隻しかない。じつは2隻あれば、ほぼ日本全域をカバーできる。……ひと安心、というわけにはいかない。なぜなら、MD艦の乗員とて人間だからである。当たり前だが24時間、365日は戦えない。2隻を常時展開するのは“机上の空論”にすぎない。

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最終更新:10/3(月) 12:40

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