ここから本文です

タイ人からも「不況」を嘆く声が。タイ経済の今後はどうなる?

HARBOR BUSINESS Online 10/3(月) 16:20配信

 現在、世界からは東南アジアは全体的に経済発展していて勢いがあると見られている。

 特にタイは親日国で、市場も成熟、ASEANの中心に位置することから日系企業からネクスト・チャイナの地として選ばれることが多い。度重なるクーデターなど政情不安が続き、2011年には世界のハードディスク市場に大きな影響を及ぼしたほどの大洪水という自然災害があった。それにも関わらず、日本外務省が発表しているタイ在留邦人者数は減るどころか年々増加し、2015年10月時点の統計で前年比4.9%増の6.7万人と、世界で5番目に日本人の多い外国になる。そんなタイだが、最近になって景気を不安視する声が出始めている。

 タイで小さな会社を経営するある日本人男性は「去年の8月くらいから毎月、前月比で10%も利益が落ち込んできている。この先、かなり危ないかもしれない」とぼやき、飲食店経営者も「今はどこも大変。昨年一昨年と比べたら客が全然入ってこない」と嘆く。

 在タイ邦人だけではない。タイ人からも気になる発言が出るようになってきている。名刺などを印刷するプリントショップを経営するタイ人が言う。

「これまで10万バーツ以上の売上があったのに急激に減っている。今は3万バーツくらいにしかならない。もしかしたらタイも不況になるのかもしれない」

 カネ離れがよく、南国らしい後先をあまり考えない気質のタイ人が明日のことを心配しだしている。これからタイ経済はどんどん落ち込むのだろうか。

◆タイの不況は今が「底」!?

 そこでタイ経済を20年以上最前線で見てきた人物にコンタクトを取った。日系企業にタイ人や現地採用向け日本人を紹介するPERSONNEL CONSULTANT MANPOWER(THILAND)CO.,LTD.の小田原靖代表だ。

「いえ、むしろ今が底辺ですよ。すでに2年くらい不景気が続いていて、いつ上がるのか待っている状態です。少なくとも、これ以上沈むことはないと見ています。日本のバブル崩壊も一般の人が実際に気がついたのは少しあとになってからじゃないですか。それと同じで、一般タイ人は2年経ってやっと気がつき始めたのです」

 2年前の2014年6月、タイは再び陸軍が政権を掌握した。そして、この事件に反感を持った欧州連合(EU)は制裁措置として外交縮小を行った。タイ最大のスラム街であるクロントーイ地区の住民の大半は隣接するクロントーイ港で日雇い労働者として仕事を受けていたが、輸出入が大幅に減って日銭すら稼げない者が増えた。そのため、近隣ではひったくりなどの犯罪も頻発するようになり、日本人にもiPhoneを盗まれた人もいた。ごく一部の層だけが2年前から不況の悪影響をいち早く受け、中間層は今になってやっと実感してきているようだ。

◆タイの景気を後押しするタイ人気質

 しかし、この景気停滞も今が「底」だという。その最大の要因は「タイ人は宵越しのカネを持たない気質」にある。

 そもそも一般タイ人のカネ離れのよさは見ていて気持ちがいい。2008年のリーマンショックの際、タイ国内もだいぶ景気が落ち込んだにも関わらず、半年後にはリーマンショック前とほぼ同等の水準にまで景気が回復していた。それほどタイではカネが好循環で巡っているように見える。

 また、不景気を口にする人はいるものの、タイは失業率が依然として高くない。2011年以降1%未満で推移している。というのも、飲食店を見ても従業員数が多いなど賃金が安いために大人数を雇用できるのだ。その一方で政府も年々法定最低賃金を上げており、多くにおいてタイ人の世帯収入は増えている。そこに加えて、あるカネはどんどん遣っていく気質である。デパートなどの商業施設は雰囲気が明るく、歩いているだけで元気になってくるほどである。

 こうした気質を持っていることもあって、長期不況の経験があまりない。

 タイ中央銀行や国家経済社会開発委員会などが発表しているタイ主要経済指標といった数字を見ても実質GDPは2015年は前年比2.8%、2016年4-6月期は3.5%と成長している。

 確かに自動車販売台数は顕著に落ち込んでいる。2013年の133万台レベルが、14年に88万台、2015年は約80万台にまで落ちている。タイの日本人社会の景気はトヨタを中心とした日系自動車メーカーの生産台数に強く影響される。それが在住日本人の景気に対するフィーリングに直結しているようだ。しかし、先の小田原氏は景気回復への情報を持っていた。

「トヨタの生産台数が2017年に上がる見通しです。好景気のときの車の買い換えが来年に始まるとされているのです」

◆それでも残る不安要素

 もちろん、不安要因がないわけではない。短期的には、国民に愛され尊敬されているタイ国王の体調である。今年89歳となるプミポンアドゥンヤデート国王陛下は今年12月に89歳になるが、6月には心臓の手術を受けている。この手術により容態改善の朗報が流れたのだが、8月9月は微熱や感染症などで入退院を繰り返しており、タイ国外では国王陛下の容態がタイ経済を左右する可能性が高まっていると報道された。

 また、中長期的には、タイを中心に東南アジア諸国のインフラも整いつつあることで、その先を行っていたタイが周辺の途上国の追い上げで外国からの投資を周辺国に奪われ、その一方で技術力の停滞などが要因となって「中進国の罠」に陥る可能性があることだ。

 タイが中進国の罠から抜け出すためには、「宵越しのカネを持たない」気質から脱し、教育や技術開発など先を考えるようにシフトしていく必要がある。しかし、その一方で、その気質こそがタイを長期的な景気停滞から遠ざけていたという側面も否めない。

 東南アジア随一の経済国であるタイ。中進国の罠を抜け出し、先進国入りするか否かの岐路に立っているのかもしれない。

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NaturalNENEAM)、協力/PERSONNEL CONSULTANT MANPOWER(THILAND)CO.,LTD>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:10/3(月) 16:20

HARBOR BUSINESS Online

Yahoo!ニュースからのお知らせ