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「細胞シート培養技術」で世界を目指すセルシード(上)

会社四季報オンライン 10/3(月) 16:16配信

 再生医療実現の起爆剤になった「再生医療等新法」が施行されてから、初の再生医療製品が認可されたのは2015年11月のこと。テルモの心筋シート「ハートシート」とJCRファーマの「テムセルHS注」の2種類がそれだ。

 このうちテルモの「ハートシート」の製造用器材として薬価にも組み込まれているのが、セルシード <7776> の温度応答性細胞培養器材(以下、細胞シート培養皿)だ。患者本人の足の筋肉から採取した骨格筋芽細胞を特注のこの培養皿で培養すると、細胞組織がシート状に成長し、そのまま採取できる。

 細胞をシート状に培養すること自体はそれほど難しくない。どんな器材でも可能なのだが、それをシートのまま回収することが技術的に非常に難しい。たとえば他社で再生医療製品として日本で最初に認可された細胞シートでは、基材のうえに培養した細胞をまいてシートを形成する方法をとるなどの工夫がなされている。

 だが、ほとんどの場合、せっかくシート状に培養しても、細胞シートが培養皿の底に張り付いているため、物理的にはがすか、トリプシンなどのタンパク質分解酵素で処理し、ばらばらになった細胞だけを取り出すしかなかった。

 物理的にはがすとどうしてもシートに傷がつくので品質は大きく低下するし、ばらばらの細胞だけでは生着率が5%程度と非常に低く、十分に機能をはたすことができない。細胞が患部に生着して修復するためには、細胞と細胞をつないでいる細胞外マトリックス(注)という組織が不可欠だからだ。セルシードの細胞シート培養皿は、この細胞外マトリックスを傷つけずに取り出せるのが特徴で、生着率は100%を誇る。

 (注)細胞と細胞の間を埋め、組織を形成している物質。コラーゲン、プロテオグリカンといったタンパク質や多糖類が含まれる。細胞同士をくっつける糊(のり)の役割を果たすだけでなく、細胞間の情報伝達や細胞増殖などを調節する働きを持ち、目的の臓器・器官に生着、機能を回復させるために大きな役割を果たす。

■ 工学博士が発明した日本発世界初の培養技術

 セルシードの細胞シート培養皿は、東京女子医科大学名誉教授の岡野光夫博士(工学)が開発した温度応答性ポリマーの技術を基盤としている。

 長さ20ナノメートル程度の微細な突起を持つポリマーをシャーレの底に貼りつけたもので、温度が摂氏32度以上の環境ではポリマーはシャーレの底に張り付いたまま、疎水性を保つ。ところが32度を下回る温度とポリマーが立ち上がりはじめ、20度では60ナノメートル程度にまで伸び、親水性となる。

 このポリマーの性質を利用して、人間の体温に近い37度の培養液中で細胞を培養し、細胞シートができあがったところで20度前後に温度を下げるとポリマーが立ち上がり、シャーレの底面からシートがはずれて浮き上がる。

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最終更新:10/3(月) 20:56

会社四季報オンライン