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ドイツ銀行問題は、リーマン・ショックの再来か --- 安田 佐和子

アゴラ 10/4(火) 8:10配信

バロンズ誌、今週はカバーにリバティ・メディアを取り上げる。創立者で会長のジョン・マローン氏は1970年代にテレコミュニケーションズを1970代に設立、AT&Tに1999年に480億ドルで身売りした後、リバティ・メディアを始動させ過去10年間に挙げた株式リターンは13%高。投資の神様と称されるウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイの7.7%高、S&P500の7.5%高を大きく上回る快挙を成し遂げてきた。詳細は、本誌(http://www.barrons.com/home-page)をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは、財務不安が再燃するドイツ銀行を掲げます。抄訳は、以下の通り。

ドイツ銀行から派生する危機―The Danger From Deutsche Bank

ドイツにとって”大き過ぎて潰せない”とは何か?

マーク・トウェインがかつてドイツ語習得がいかに困難かを”The Awful German Language”で指摘したが、21世紀になっても官僚的な言語の問題に直面する。G-SIBs、グローバルなシステム上、重要な銀行こそ、その例の一つだ。

ドイツ語であろうが政府間の言葉であろうが、ドイツ銀行と言えば”大き過ぎてつぶせない”銀行を指すだろう。歴史は繰り返さずとも、韻を踏むようだ。ドイツ銀行の株価と債券価格は前週に急落し、ヘッジファンドがデリバティブの担保として預けていた資産その他を引き揚げたと伝えられた。それはまるで、2008年にリーマン・ブラザーズから脱出していった様子を彷彿とさせる。

事の発端は、米司法省が住宅ローン担保証券をめぐり提案した140億ドルの和解金支払いだ。メルケル独首相率いる政府はドイツ銀行を救済しないとの報道(http://www.usatoday.com/story/money/2016/09/26/deutsche-bank-angela-merkel-no-bailout/91108552/)が飛び出し、あらためて市場関係者にリーマン・ショックを連想させた。

しかし、9月30日に緊張は和らいだ。ドイツ銀行のジョン・クライアン最高経営責任者(CEO)は従業員へのメッセージで同行の「ファンダメンタルズは強い」と語りかけ、ヘッジファンドのエクスポージャー(投融資)引き揚げは「正当化されない懸念によるもの」と断った。何より重要なニュースとして、フランス通信社が米司法省が和解金を140億ドルから60%以下で54億ドルへ引き下げ両者が合意すると報道(http://www.bloomberg.com/news/articles/2016-09-30/deutsche-bank-rebounds-as-cryan-moves-to-shore-up-confidence)。そもそも、ドイツ銀行への最初の和解金は欧州連合(EU)がアップルに課した追徴課税額130億ユーロ(146億ドル)に近い。

ドイツ銀行の株価と債券価格は一連の報道に反応し、上昇に転じた。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙(http://www.wsj.com/articles/hedge-funds-gain-by-betting-against-deutsche-bank-1475238667)によれば、複数のヘッジファンドはドイツ銀行の空売り(ショート)ポジションで見事に利益を計上したという。

そうはいっても、ドイツ銀行の時価総額は9月30日のショートカバーを含めても181億ドルと身売りが囁かれているツイッターの163億ドルを上回る程度だ。クレジット・ストラテジストのマイケル・ルーイット氏によると、同行は60兆ドルものデリバティブを抱える。しかも、仮に金融危機が発生すればカウンターバーティーが契約を履行できない恐れがあり、ルーイット氏いわく「ドイツ銀行のエクスポージャーは金融システムを破壊しかねないほど大きい」。

簿価からの大幅な値引きは、株価など希薄化を反映する。従って必要な増資が困難となりバランスシートを支えられない。ギミー・クレジットのドイツ政府といえばユーロ圏内で財政健全化を訴えてきただけに、大手銀行の救済には及び腰となるだろう。

大手の欧州銀行とデリバティブ・エクスポージャーの問題は、ヘッジファンドが集うコネチカット州以外の米国でほぼ無縁だ。しかし米国の住宅保有者で住宅ローンを支払う身となれば、そうはいかない。シティグループのマネーマーケット・リサーチ・チームが「ドルの調達コストにかかる緊張が増した」と指摘する通り、欧州債務危機が渦を巻いた2012~13年頃にまでドル借入コストが上昇中である。

米国で、マネー・マーケット・ファンド(MMF)の規制改革が10月14日に実施されることも短期金利、すなわちドル3ヵ月物ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)を押し上げたのだろう。LIBORとは多くの米国で組成されたローンの基準金利となり、住宅ローン金利も含まれる。そのドル3ヵ月物LIBORの金利は過去1年間で50bp上昇、フェデラル・ファンド(FF)金利誘導目標が0.25~0.50%と25bpしか上昇しなかったことと対照的だ。

例えばLIBORに連動する変動型金利で70万ドルの住宅ローンを保有していれば、25bpの金利上昇で金利負担が3.00%から3.25%、支払い額は100ドル上昇の3150ドルとなる。しかし1.5%上昇すれば金利負担は4.25%、支払い額は3500ドルへ跳ね上がってしまうというわけだ。金融市場に緊張が走れば、米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げペースも必然的にゆるやかとならざるを得ない。足元で12月利上げ織り込み度は59%程度である。ただ2017年に0.25~0.50%での据え置き予想と、0.75~1.0%がほぼ同水準である点には注意したい。

10月は野球のシーズン閉幕を迎える時期であると同時に、株式市場にボラティリティが直撃するタイミングでもある。1929年や1987年の株価急落が思い出されよう。しかし”ストック・トレーダーズ・アルマナック”によると、10月は”弱気派殺し(bear killer)”にあたり、第2次世界大戦後は1946年に始まり1957年、1960年、1962年、1974年、1987年、1990年、1998年、2001年、2002年、2011年と11回にわたり弱気な流れの転換点だった。特に9月に下落が著しければ、その傾向が高い。

もっとも、例外もある。米大統領選イヤーを迎える年であれば、1950年以降10月は最悪のリターンにとどまってきた。10月のS&P500の平均パフォーマンスは0.7%安で、ダウでは0.8%安、ナスダックやラッセル2000に至っては2.1%安、2.6%安と下げ幅が大きい。

S&P500は、BREXITを経て7~9月期に3.3%高を遂げた。背景には、FOMCの利上げ見送りやイングランド銀行の緩和措置が考えられる。米大統領選というリスクを抱えるなか、市場にとって頼りになるのは政治よりも中央銀行と言えるだろう。

――バロンズ誌で取り上げられたように、米司法省の和解金提示をみて筆者が思い出したのはアップルへの追徴課税額です。一方で欧州連合は(EU)は課税優遇措置が違法な政府補助と判断したほか、グーグルにも独占禁止法違反で提訴するなどテクノロジー企業への圧力を掛けてきました。米国とEUの間では過去何年にも及び銀行VSテクノロジー企業で当局の締め付けが厳しくなっており、それぞれの思惑が見え隠れします。ただ今回のドイツ銀行への和解金に対しては、米国が妥協した可能性も。米大統領選の直前に金融危機が発生せずとも金融市場が急変すれば、共和党のトランプ候補が勝利する機運を盛り上げかねません。そもそも140億ドルという金額は引き下げを前提とした設定だった可能性もあり、ドイツ銀行のリーマン・ショック化は今回も避けられそうです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE - NEW YORK -」2016年10月2日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE - NEW YORK -をご覧ください。

安田 佐和子

最終更新:10/4(火) 8:10

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