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「バックパス=後方へのパス」にはあらず。ルール変更がもたらした新しいGKの理想像【サッカー用語の基礎知識】

フットボールチャンネル 10/4(火) 10:20配信

 知っているようでよく理解できていない、そんなサッカー用語を普段見聞きしていることはないだろうか。語彙の面からサッカーに迫ることで、より深い理解が可能になるかもしれない。今回は「バックパス」をキーワードに、GKのプレースタイルについて考える。(文:実川元子)

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バックパスの定義はGKへ意図的に戻すパス

「バックパス」back-passを英和辞典で引いてみた。ランダムハウス、リーダース、ウィスダムにその言葉はない。英英辞典はどうかとオックスフォード上級学習者用辞典(OALD)も調べたが、ない。

 紙の辞典を諦めてインターネットで調べると、オックスフォード現代語辞典に「味方からゴールキーパーへの意図的なパス(ゴールキーパーが蹴らないで手を使って受け取れば反則になる)」とあった。コリンズ、ケンブリッジ現代語辞典のどれもが「味方からゴールキーパーへの意図的なパス」と定義している。つい、後方にいる味方に戻すパスすべてをバックパスと考えてしまいがちなのだが、英語のback-passの定義では、パックパスの受け手はゴールキーパーだけなのだ。

 2008年、当時日本サッカー協会の会長だった犬飼基昭氏が「バックパスをした選手は交代させるように」という通達を出した。いわゆる「バックパス禁止令」である。恐らく犬飼氏も、通達を受けたチームやファンたちも、バックパスとは後方にいる味方に戻すパスを考えていただろう。

 試合を停滞させてしまうバックパスを禁止したくなる気持ちはわかるけれど、サッカーの戦術的にはいくらなんでも無理な命令でしょ、と反対者が多く、いつの間にか禁止令はうやむやになった。

バックパス・ルール導入の契機になった時間稼ぎ事件

 FIFAが1992年に「バックパス・ルール」の制定に踏み切った原因は、GKが重要な試合で信じられないほど長時間の時間稼ぎをしたことにあった。1990年ワールドカップイタリア大会、グループリーグ第2戦、エジプト対アイルランド戦でのこと。0-0で迎えた終盤、アイルランドのGKパッキー・ボナーが合計6分間にわたってボールを手放さなかったことが物議を醸した。

 1994年アメリカでのワールドカップ開催を前に、サッカーを興行ビジネスとして大きく飛躍させようとしていたFIFAとしては、試合の興をそぐようなプレーを見過ごすわけにはいかなかった。特にテレビの放映権料が大きな収入源となりつつあった時期に、サッカーをあまり知らない人たち(つまりアメリカ人)がテレビで試合を見て、サッカーへの興味を失ってしまうリスクは避けたい。

 そこで1992年欧州選手権の開催前に「バックパス・ルール」が制定された。「サッカー競技規則」([公財]日本サッカー協会)には「味方競技者が意図的にゴールキーパーにキックしたボールにゴールキーパーが手または腕で触れた場合」に反則をとる、と書かれている。

 FIFAのホームページで紹介されているサッカーの歴史においても、バックパス・ルールの制定はオフサイド・ルール、レフェリーの役割の明記、ゴールネットの導入と並ぶ画期的なルール改正として取り上げられている。

 きっかけはパッキー・ボナーの6分間ボールキープ事件だったかもしれないが、守備の時間稼ぎのためにGKにボールを戻してキープさせることをよしとしない監督は以前からいた。ヨハン・クライフがその代表だ。

 クライフがGKに求めたのは「反射神経や信頼感やポジショニングではなく、『ヴィジョン』」である。(ジョナサン・ウィルソン『孤高の守護神 ゴールキーパー進化論』)。ウィルソンは「クライフの言うヴィジョンとは、危機予測の感度ではなく、攻撃の起点となる構想力を指している」としている。

 クライフは、ゴールラインに張り付いているGKが気に入らなかった。GKはペナルティエリアぎりぎりのところにポジションを取り、味方に指示を出し、90分間に6、7回はペナルティエリアから飛び出してクリアするくらいの気概がないといけない、と考えていた。

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最終更新:10/4(火) 10:36

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