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すべてが「ゆいちゃんまじゆいちゃん」で片付く。BABYMETALの“メタルレジスタンス”を追う

おたぽる 10/4(火) 21:03配信

――アイドルにまるで興味なかった。なのにどうして今、私は17歳の女の子を観るために顔面を白く塗りたくっているのか。これは、33歳の男の“メタルレジスタンス”参戦の記録である。

■「ゆいちゃんまじシン・コペーション」

 BABYMETALが米ワーナー・ブラザース製作でアニメ化されることが決まった。

 元々舞台設定のフィクション性が高く、今もなお壮大なスケールで世界中の観客を巻き込んでいる。だが、そのストーリーはいつしかライブで上映される紙芝居ムービーの域を越え、フィクションからノンフィクションに切り替わった。ついに世界最大のエンターテイメント業界の扉を叩き、また新たなムーブメントが巻き起こるに違いない。
 一過性のショーを楽しむようなものでは飽き足らず、作品として残ることでその存在は今後何十年も語り継がれるものになると確信している。その瞬間を一時も零さずに掬うため、これからも私は顔面を白く塗ろうとするのだろう。

 もちろん、後ろめたさがないといえば嘘になる。

 たとえばFacebookのタイムライン。地元の友人たちが身を固め、築いた家族と撮った写真を上げている。私の身といえばグッズTシャツで黒く染まり、顔面を白塗りにした写真を上げている。
 『THE ONE』会員限定ライブはドレスコードが“コープスペイント”。この日は顔を白く塗らないと会場に入れない。プライドを守るか、フォックスサインを掲げるか。すべてのファンがこの二択の選択を強いられる。その結果、私は慣れないメイク道具を片手に大阪・難波にやってきた。家族写真、家族写真、家族写真、顔面白塗り、家族写真。穏やかなタイムラインを脅かす。幸せに満たされた笑顔に顔面白塗りが挟まれている。オセロだったらとっくに消えているだろう。

「自分はこのままでいいのだろうか。」そう思わなくはない。だが、ライブの直前になるとそんな葛藤は吹っ飛ぶ。地元の友人たちのように、幸せに満たされた笑顔が止まらない。私と同じように東京から来たベビメタメイトの顔面白塗りを手伝い、SU-METAL推しのその友人のために彼女のソロ曲『Amore -蒼星-』のタイトルを黒字で額に書く。なぜか丁寧に「アモーレ」とルビを振る。鏡を見せる。爆笑する。なんて楽しいんだろう。会場は辺り一面が顔面白塗りで覆い尽くされている。こんな一種のお祭りのような感覚を、10代の頃以来味わえるなんて思ってもみなかった。

 8月8日、なんばHatch『APOCRYPHA - THE WHITE MASS -』。奇跡的に整理番号が早めなので、開場するとすぐさま客席前方・下手に向かう。開演まで待機している中、「お兄さん、よくライブ来るんですか?」と隣にいるおじさんが話しかけてくれた。白塗りのメイクのおかげで若く見えるのか、しばし“お兄さん”でいさせてくれる時間がありがたい。YUIMETALとMOAMETALと同い年のお嬢さんがいるというおじさんが穏やかな笑顔を見せても、目の周りを真っ黒に染めたコープスペイントが若干の狂気を醸し出してしまっている。

「おじさんは誰推しとかありますか?」「ここにおったらまぁ、YUIちゃんやないですか」「やっぱそうですよね~」「お兄さんもYUIちゃんですよね」「えっ、なんで分かるんですか?」「いやほら、ほっぺたに書いてるやないですか」

 頬に書いた“YMY”という癒しの烙印をすっかり忘れていた。誰が言い出したかわからないが、いつの間にか海外のファンにまで広まった、短いわらべ歌のような呪文“YMY(ゆいちゃんまじゆいちゃん)”。その可愛さゆえに論理や説明を一切放棄した際に生じる「心の叫び」として認識している。その通り、3年前の東京・目黒鹿鳴館以来久しぶりに間近で観たYUIMETALは「ゆいちゃんまじゆいちゃん」としか言えない煌めきに満ち溢れていた。

 応援とはまた違う。むしろ、応援されているのはこっちの方だ。隙を一切見せないパフォーマンスと、己の限界を超えようとするスタンスに、尊敬の眼差しを送ってしまう。煌めき続けるYUIMETALは緩い笑顔を放ちながら、時折目つきを鋭く尖らせる。まるで舞台女優を間近で観るように、役にのめり込む姿に没頭する。それは私の年齢・性別を忘れさせてくれる。少年のように惚れて、少女のように憧れる。なのに、親心さえ働いてしまう。『META!メタ太郎』で空を飛ぶウルトラマンのような体勢で“飛ぶ”振り付けを見ると、そこに雲と太陽を付け足してあげたくなる。「うんうん、元気に空高~く飛んでいけよっ」とありあまる父性を呼び起こす。ここまでさまざまな感情をかき混ぜて、その眩しい笑顔に泣きそうになるような存在は他にはいない。

 この日の目玉は何といっても初披露の『シンコペーション』。鳴り始めた途端、辺り一面の空気が爆発したかのような歓声が轟く。風を切るようなダンス。非の打ち所がないボーカル。嵐のように掻き回されるモッシュピットに上下左右・前後不覚に陥る。YUIMETALの「好き、嫌い、好き♪」の愛くるしい振り付けに卒倒する。もはや“シン・コペーション”とも呼べるほど、大怪獣が横切るような大迫力の渦に巻き込まれる。
終演後、日常の風景に馴染むために急いで白塗りのメイクを落とす。BABYMETALのライブは心だけでなく、顔面までヒリヒリさせてくるのだ。

 4月のイギリス・ウェンブリーアリーナから始まったワールドツアーが終盤を迎え、BABYMETALが日本に帰ってきた。その姿は明らかに以前とは違い、表情に余裕が見えた。『メギツネ』でキツネのお面で顔を隠すSU-METALがMOAMETALにこっそり見せる変顔を含めて、見つめ合うメンバー同士から、今までは観客を楽しませることに没頭していた彼女たちが自らも楽しもうとする姿勢がはっきりとうかがえた。

 BABYMETALは“作られた”グループだ。バンドのようにゼロからキャリアを積むようなストーリーを歩まない。“作られた”設定からイチからニへ変えて、さらにヨンへ。そしてセン、マン、オクにも世界を拡げていく。その中で3人が自らの遊び場を見つけるように生き生きとしているのがうれしくて、BABYMETALのすべての設定、舞台、伝説を放り投げて笑顔になる。YUIMETALがスレイヤーのケリー・キングを参考にした“役になり切る”ショーが繰り出す、完全なるフィクション。そこから何度も目を覚まし、これが生身の少女たちの“まじ”なドキュメントであることを思い知らされる。本当に「まじゆいちゃん」なのだ。

 そして、その究極をツアーファイナル・東京ドーム2Daysで目の当たりにすることになる。

■「ゆいちゃんまじ東京ドーム」

 東京ドームは完全に非日常の空間だった。

 日常生活であの音は鳴らない。あの声は聴けない。火柱が上がることはない。5万5,000人が一斉にコルセットを着用することはない。さらにそれが白く、または赤く光ることなんて絶対にない。そんなにシュールな光景を目の当たりにして、涙腺が緩むことなんてまったくありえないのだ。
 徹底したコンセプト。驚異のクオリティ。絶え間ないリスペクト。この三点と三人がピラミッドのように折重なる。その鋭く尖った部分が胸を突き刺す。結果、赤く染まる。やがて黒く焦げる。9月19日・20日に行われたBABYMETALの東京ドーム公演2Days『RED NIGHT & BLACK NIGHT』は世界各国を渡り歩いてきた彼女たちのこれまでの集大成だった。

 5万5,000人が一斉にフォックスサインを掲げる先には、中央に立ちはだかる円柱ステージ。その頂上の“天空ステージ”とも呼べる約20mもの高さの舞台を見上げることで首を痛め、入場時に配られたコルセットが役立つ。1日目『RED NIGHT』は1曲目『Road of Resistance』からすでにクライマックスだった。中盤のシンガロング部分でMOAMETALが涙を拭い、もらい泣きしそうに。だが、この高揚感は数秒ごとに何度も更新していく。

『4の歌』でその頂点が一度訪れる。中央ステージから三方向に枝分かれした棺桶型ステージの前方までYUIMETALとMOAMETALが歩み、私のいるAブロックに近づいてくる。360度電光板がこのブロックを勝手に“チーム「幸せの4」”とテロップで名付け、YUIMETALが「みんな幸せ~?」と尋ねてくる。決まっているじゃないか。そこから見える景色が答えだろう。誰もが満面の笑みを浮かべて2人を迎え入れている。とはいえ、幸せはいつだって永遠じゃない。彼女たちが目の前から遠のき、別のステージへ去っていく姿に寂しさを覚える。が、ここで心臓が止まりそうになった。
 MOAMETALが「次はこっち~!」と煽ると、なんとYUIMETALが「うっわぁ~~~い!」みたいなテンションでピョンピョンと飛び跳ねるのだ。
 あれは一体何なんだ。その輝きに気絶しそうになった。なす術がなくて思わず姿勢を正してしまった。これがベビメタ地蔵というやつだ。こういう時にこそ「ゆいちゃんまじゆいちゃん」が役立つ。無邪気で楽しそうな姿のせいで、その名の通り「幸せの4」チームの一員になり果ててしまった。それでもコルセットによる5万5千もの光をたった2つの瞳に集めて、『THE ONE』では涙を溜める。そんなYUIMETALの表情が映し出されるたびに私も涙を溜め、その胸の高鳴りは翌日の『BLACK NIGHT』に引き継がれる。

最後の『ヘドバンギャー!!』『イジメ、ダメ、ゼッタイ』の流れは、明らかにあの日あの時のリベンジだった。

 忘れもしない、2014年3月の日本武道館2Days。YUIMETALがステージから落下した瞬間から現在まで、たくさんの涙を流しながら2年越しのストーリーがこの日ついに完成する。
 あの時と同じようにバトルフィールドのような中央ステージがそびえ立つ。『イジメ、ダメ、ゼッタイ』は誰かを敵にしたり、誰かを憎むことを歌わない。心の奥底に眠る勇気を呼び覚ます、己自身との戦いを描いた楽曲だ。それは『KARATE』にも通じる。そのMVに登場した、ツアー初日・ウェンブリーアリーナの冒頭に現れた白装束を身に付けた“もう一人の自分”。あの日から約5カ月間のバトルが繰り広げられ、それを3人は乗り越えた。落ちることも転ぶこともなく、完全に勝利した。BABYMETALという鋼鉄の鎧を脱ぎかけ、達成感に満ち溢れた表情で東京ドーム公演はエンディングを迎える。

 普通だったら、「皆さんのおかげで東京ドームまで無事に辿り着くことができました。ライブが終わったら大好きなトマトを食べたいところですが、今日はメンバーとスタッフさんと皆さんの笑顔だけでお腹がいっぱいです。本当に本当にありがとうございました!」なんて挨拶が繰り出されるようなものだろうが、BABYMETALはそうしない。
「We are!」「BABYMETAL!」
 この一言だけですべてが伝わる。MCが一切なく、感謝も感動もすべてパフォーマンスに込める。全部伝わっているのだ。ここにいるすべての人がBABYMETALを作り上げていることを示すコール&レスポンスは、この日はいつも以上に特別に思えた。

 ここで事件が起きた。SU-METALがステージの床に足を滑らせて転んだのだ。
 大事に至らなくて安心したが、いつもかっこいい姿しか見せない彼女のコミカルな一面が垣間見えた。あの時に落ちたYUIMETAL、転んだMOAMETALとまるで歩幅を合わせるように、今度はSU-METALが“すってんころりん”した。
 そして、さらに事件が起きた。一度その床で滑りかけたYUIMETALが「セーフ!」の体勢で持ち直したはいいものの、その後なんと自分の片方のつま先をもう片方の踵にぶつけてつまづいたのだ。

 なんというか、あまりにも少女すぎる。のほほんとしすぎている。「私何やってんだろう~!」というような笑顔でMOAMETALとワチャワチャし、3人が身を寄せ合ながら歩いていく。こうして世界中を回ってきたんだろう。日本人未踏の“道なき道”は決して容易くはない。そこで自分自身と向き合ってきた日々は私たちの想像を遥かに超えるものだろう。ただ、こんなにあどけない少女たちにこれほどまでの壮大なショーを魅せられていたのか。と、開放感に満ち溢れた3人の表情からその事実を改めて受け止める。

 落ちて、転んで、滑って、つまづいて。それでも立ち上がる。その姿を追うことだけがすべてじゃなく、彼女たちのように自分と戦い続けることがこの日魅せられたショーを受け継ぐのかも知れない。
 生きているとどうしても辛いことに出くわしてしまう。つま先が踵にぶつかるように、ほんの一欠片の勇気さえ押し込める。過去を振り返らず歩くことも、新しい一歩も、その行く手を阻むのはいつだって自分自身だ。YUIMETALから学ぶことはたくさんある。この世界の片隅に追いやられた感情を呼び覚まし、明日への扉を開くために背中をそっと押される笑顔が間違いなくそこにあった。

 BABYMETALは「これ以上ない」を毎回更新する。その未来は未知数に溢れている。想像を絶する展開が今後も待ち受けていることだろう。そこでYUIMETALが自らの遊び場を拡げるように、「うっわぁ~~~い!」みたいなテンションで世界中をピョンピョンと飛び跳ねることを祈っている。

 これらの事柄はすべて一言で片付く。それが、「ゆいちゃんまじゆいちゃん」なのだ。
(文/竹内道宏)

■竹内 道宏(a.k.a. たけうちんぐ)ライター/映像作家
監督・脚本を務めた映画『世界の終わりのいずこねこ』がイタリアのウディネ・ファーイースト映画祭に正式出品。現在、2枚組DVDとなり発売中。他の監督作品に、スターダストプロモーション「EBiDAN」所属のラップグループ・MAGiC BOYZ主演『イカれてイル?』、佐津川愛美主演『新しい戦争を始めよう』など。現在、難病と闘うVJ NAKAICHIのドキュメンタリー作品を制作中。神聖かまってちゃん等の映像カメラマンとしておよそ700本に及ぶライブ映像をYouTubeにアップロードする活動を行なっている。
2013年2月以来、BABYMETALに心を奪われてしまいました。命が続く限り、決して背を向けることなく彼女たちの活動を追いかけます!
たけうちんぐダイアリー(ブログ)→http://takeuching.blogspot.jp
ツイッター→https://twitter.com/takeuching

最終更新:10/4(火) 21:03

おたぽる

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