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イーロン・マスクの「火星移住計画」の全貌が明らかに。2020年代には1人2000万円で火星に!?

HARBOR BUSINESS Online 10/4(火) 16:20配信

 「40~100年をかけて、火星に100万人を送り込み、自立した文明を築く」――。そう語る彼の顔は、それが決して夢物語ではなく、実現可能な目標であるという自信に満ちていた。

⇒【画像】目前に迫った火星を見つめる移住者のイメージ

 米国の宇宙企業スペースXのイーロン・マスクCEOは9月28日(日本時間)、メキシコで開催中の国際宇宙会議(IAC)の壇上で、『Making Humans a Multiplanetary Species(人類を多惑星へ播種する)』と題した講演を行い、人類を火星に移住させ、さらに他のさまざまな惑星へも赴くことを目指した壮大な構想を語った。

 これまで本誌で何度も取り上げてきたように、スペースXは再使用可能なロケットや宇宙船を開発し、ときおりつまづきながらも果敢に挑戦を続け、数多くの人工衛星を打ち上げ、今や世界を代表する宇宙企業になった。しかし、マスク氏と彼が率いるスペースXにとって、これまでの活動はあくまで通過点に過ぎなかった。彼らの視線は常に、火星とその先を向いていたのである。

◆2020年代、1人あたり2000万円で火星へ

 太陽系第4の惑星である火星。この赤い星に向けて、これまで数多くの探査機が打ち上げられ、現在も7機の探査機が活動を続けている。一方、人が直接赴く探査、すなわち有人火星飛行は、ずっと構想のみにとどまり続け、1972年に「アポロ17」が月を後にして以来、人類は他の星を踏みしめることすらなかった。

 では、有人火星飛行は不可能なのかといえば、そうではない。今ある技術を組み合わせれば行けないこともなく、現に米国航空宇宙局(NASA)では2030年代の実現を目指した有人火星飛行計画を進めている。しかし、それは映画『オデッセイ』のように厳しい訓練を受けた宇宙飛行士が数人、つまり人類の中のごく一部しか行けないもので、火星旅行とは程遠い。必要なコストも一人あたり100億ドルにもなる予定で、数回の探査ならまだしも、誰もが火星に行ける時代の訪れは不可能と言ってしまったほうが良いほどの難しさである。

 だが、ロケットの仕組みや火星までの飛行方法などを根本から見直し、原理・原則にしたがった最適な方法を取れば、一人あたりのコストは2000万ドルにまで下げられる――。マスク氏はさまざまな根拠を挙げて、そうぶち上げた。そして有人火星船の運用を2022年か24年ごろから始め、40年から100年をかけて100万人を送り込み、火星に自立した文明を築くのだ、と続けた。

◆構想も宇宙船も巨大!

 構想も壮大なら、それを実現するためのロケットと宇宙船もまた巨大である。Interplanetary Transport System(惑星間輸送システム)と名付けられたそれは、最大直径は17m、全長は122m。アポロ計画で使われた人類史上最大のロケット「サターンV」よりもさらに大きい。宇宙船には100人もの人間、それも長期間にわたって厳しい訓練を受けた宇宙飛行士ではなく、簡単な訓練を受けただけの一般人が乗る。宇宙船は地球と火星を往復して人や物資をピストン輸送する。

 さらに、マスク氏の構想は火星に文明を築くということだけに留まらなかった。講演の最後には、この宇宙船が木星やその衛星のエウロパ、土星やその衛星のエンケラドゥスへ飛行する想像図を示し、太陽系のさまざまな天体へ行けることをアピールした。この巨大ロケット・宇宙船に「惑星間輸送システム」という名前が付けられた理由がそこにあった。

 その一方で、実現に向けた新技術の開発を続けていることや、コスト計算、開発資金の調達方法なども明らかにし、スペースXにとっては決して夢物語ではなく、あくまで現実的な検討に基づく計画であることを強調した。

◆火星移民を実現させるために必要な4つの鍵

 この構想を実現させるために、マスク氏は大きく4つの鍵を挙げた。「完全に再使用できるロケットと宇宙船」、「地球周回軌道での推進剤再補給」、「火星での推進剤の生産」、そして「最適な推進剤の使用」である。

「完全に再使用できるロケットと宇宙船」というのは、一度打ち上げたロケットを回収して、メンテナンスや推進剤の補給を行った後にもう一度飛ばす、旅客機のような運用を行うということで、これにより打ち上げコストを大きく引き下げる狙いがある。人類を月に送ったアポロ計画でも、現在NASAが考えている有人火星探査でも、ロケットや宇宙船などはすべて使い捨てる。しかしそれでは毎回新しいロケットや宇宙船を建造する必要があるため、コストはなかなか下がらない。

「地球周回軌道での推進剤再補給」は、火星に行くまでに必要な推進剤を、人が乗った宇宙船とは別に打ち上げるということである。アポロ計画では、ロケットを地上から宇宙へ打ち上げ、月へ向かう軌道に乗せ、月に着陸し、さらに地球に帰ってくるまでに必要なすべての推進剤を、一度に打ち上げていた。そのためにサターンVという巨大なロケットが必要だったが、もし火星でも同じ方法を取ろうとすると、ロケットはさらに巨大な、途方もないほどのサイズになってしまう。

 そこで人が乗った宇宙船と、その宇宙船が火星へ行くのに必要な推進剤を積んだタンカーとを別々に打ち上げて、地球の軌道上で両者をドッキングさせ、宇宙船はタンカーから推進剤をもらい、そして火星へ向けて旅立つ、という方法にすることで、現実的な大きさのロケット、宇宙船で火星まで行ける。もちろんロケット、タンカーや宇宙船は再使用ができるため、コストが大きく跳ね上がることはない。

◆火星の資源で推進剤をつくる!

「火星での推進剤の生産」も、基本的には同じ理由である。火星から地球へ帰ってくるのに必要な推進剤を地球から持っていこうとすると、ロケットも宇宙船も肥大化する。そこで火星で推進剤を生産することで、身軽な状態で火星へ行けるようにしようというアイディアである。

 もちろん火星にはガソリン・スタンドはないが、火星の資源を使って推進剤をつくることができる。火星の大気には二酸化炭素があり、そして地表や地下には水があるといわれている。まず水を電気分解して水素と酸素を取り出し、そのうち水素を二酸化炭素と反応させることで水とメタンが得られる(これをサバティエ反応という)。そしてそのメタンと、電気分解で得られた酸素を、火星から帰還するためのロケットの推進剤に使用する。またサバティエ反応のもう一つの生成物である水も電気分解して水素と酸素に分ければ、無駄のない推進剤生成サイクルを成立させることができる。もちろん、あらかじめ推進剤生産のための設備を地球から持ち込む必要はあるものの、一度持ち込めば壊れない限りは使い続けることができる。

 このアイディアは実は新しいものではなく、1990年に米国の科学者によって示されている。当時はまだ火星に水があるかどうかはわかっていなかったため、地球から水素を持っていく方法が考えられていたが、それでも実際に有人火星探査を行う際の有力な方法の一つとして検討が続いていた。現在では火星に水があることがほぼ確実となったため、水素をもっていく当初の案よりもさらに楽に実現できる見通しができた。

 そして「最適な推進剤の使用」とは、もうおわかりのとおりメタンのことである。これまで打ち上げられてきたロケットの多くは、ケロシン(灯油)や液体水素を燃料に使っていた。しかしケロシンは火星で生成ができないし、液体水素にいたってはコストが高く、液体にするために超低温にしているため扱いも難しい。しかしメタンであればコストも安く、扱いやすく、煤が出ないのでエンジンを再使用しやすく、そして火星で生成できるといった多くの特長がある。

 メタンを燃料に使うロケットは、これまでいくつか研究・開発が行われているが、まだ実用化されたことはない。しかしスペースXはすでに、メタンを使い、そしきわめて高性能なエンジン「ラプター」の開発を始めており、今回の発表の直前に燃焼試験の実施までこぎつけている。

◆本当に実現するのか?

 低コストでロケットに、宇宙から帰ってくるロケットと、これまでいくつもの不可能を可能にしたマスク氏だが、今回の構想ばかりはあまりにも気宇壮大で、到底実現しそうにないと思われたかもしれない。実際のところそれは正しく、専門家の中でこのとおりに実現可能だと考える者はいないし、マスク氏も「2024年からの移民開始というのは楽観的な予想です。あくまで可能性に基づく抱負の話です」と語る。

 しかし、まったく実現不可能な夢物語かといえばそうでもない。少なくともこれまで示されていた、あらゆる有人火星飛行の構想に比べれば十分に現実的で、2024年からというスケジュールを除けば、実現する可能性はある。

 たとえば巨大ロケットや宇宙船に使うエンジンはすでに試験が始まっており、機体の製造に必要な技術もできつつある。ロケットには42基ものロケット・エンジンが装備されるが、その制御に必要な技術も開発が進んでいる。

 火星までの飛行は2018年に無人の宇宙船を打ち上げて試験を行うし、火星の大気圏に突入し着陸する技術もそのときに実証が行われる。また大気圏突入は、すでにスペースXは無人の補給船による宇宙から地球大気圏への再突入で経験がある。火星での推進剤の生成はただの化学反応である。

 つまり今回発表された構想は、すべてスペースXがすでに保有しているか、あるいは近いうちに習得することになっている技術の延長線上にある。言い換えれば、スペースXはこの構想で描かれている未来に向けて、これまで着々と布石を打ってきたということでもある。

 もちろん、問題はまだまだ残っている。宇宙船の中に100人もの一般人が乗ることによる医学の問題、万が一死亡事故が発生した場合の責任や倫理的な問題、火星の土地の権利や法律の問題、まだ科学的に謎が多く残る火星を人間活動で汚染する問題など、挙げ始めるときりがない。

 しかし、今回のマスク氏の発表は確実に、火星へ、そしてその先へと続く道に明かりを灯した。多くの科学者や技術者をはじめ、他分野の専門家、さらに子どもたちの心を揺り動かしたことは間違いない。それは火星へ続く道を塞いでいる多くの問題を解決し、誰もが通れる道にするための原動力となるだろう。

<文/鳥嶋真也>

とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。

Webサイト:http://kosmograd.info/about/

【参考】

・Mars | SpaceX(http://www.spacex.com/mars)

・http://www.spacex.com/sites/spacex/files/mars_presentation.pdf

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:10/4(火) 16:22

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